ピエールは絶望しかけ、すでに力尽きていたが、そのとき担架隊の男たちが助けに来てくれた。彼らは、ベルトーの命令で、列のために用意された通路をロープで守る作業をしていた。ロープは二メートルおきに人が持って張っている。おかげでピエールは、マリーを比較的自由に運ぶことができるようになり、ついに二人は柵の内側、つまり聖域の中に入ることができた。そして、洞窟に向かって左側に場所をとった。だがそこでも身動きは取れず、群衆の密度は刻一刻と高まっているように思われた。ピエールの体に残ったのは、四肢の砕けるような疲労と、海の中心にいるかのような感覚だった。波が絶え間なく押し寄せる音を、彼はまだ耳の奥で聞き続けていた。
病院を出てから、マリーは一言も口をきいていなかった。ピエールは、彼女が何か言いたがっているのに気づき、顔を近づけた。
「お父さまは?」と彼女は尋ねた。「いらしてないの? あの散歩からまだ戻ってないの?」
ピエールは、ゲルサン氏はまだ戻っていない、きっと何かの事情で遅れているのだろうと答えなければならなかった。
するとマリーは、微笑みながらこう言った。
「まあ、かわいそうなお父さま……私が治ってるのを見たら、どんなに喜ぶでしょうね!」
ピエールは、彼女を見つめ、胸がいっぱいになった。病が長く蝕んだ体なのに、こんなにも愛らしい姿を見るのは初めてだった。黄金のような髪だけは病魔の侵入を許さず、彼女を祝福するかのようにまとっていた。やせ細った小さな顔は、夢見るような表情をたたえ、目は痛みの幻影にさまよい、顔立ちは硬直して、まるで一つの思いに囚われたまま深い眠りに落ちているかのようだった。そして幸福の衝撃によって、神が望むときにだけ目覚めるのを待っているのだ。彼女は自分の存在から抜け出し、ただ神の許しにより、再び自分に戻る日を待っていた。
23歳の彼女は、少女のままだった。幼い頃に受けた事故により成長が止まり、女になることを妨げられたままだった。そしていま、天使の訪れを受けるため、奇跡の衝撃を受け入れるために、ついに準備が整ったのだ。朝から続く彼女の恍惚は途切れることなく、手を組み合わせたまま、聖母マリアの像を見た瞬間から全身で天へと飛び立っていた。彼女は祈り、神に捧げられていた。
ピエールにとって、それは激しく心を揺さぶる時間だった。
彼は感じていた――自らの司祭としての人生のドラマが、今ここで決着しようとしているのだと。もしこの瞬間に信仰を取り戻せなければ、もはや二度と信じることはないだろう、と。
そして彼は、邪念も抵抗もなしに、心から願った。自分たち二人が、同時に癒され、救われることを。ああ、彼女の奇跡を通じて、自分も信じる者になりたい。共に信じ、共に救われたい!
彼はマリーのように、熱烈に祈ろうとした。だがどうしても、目の前の群衆が気になってしまった。この無限にも思える群れに溶け込み、ただ一枚の葉のように震える存在になろうと努めても、彼は完全にはその中に没入できなかった。無意識のうちに彼はこの群衆を分析し、批判していた。4日間もの間、彼らは旅の疲れと新しい景色への興奮、洞窟の荘厳さへの感動、眠れぬ夜、痛みの激化、そして救いへの飢えにより、すっかり催眠状態にあった。さらに、祈りが彼らを包み、揺さぶり続けた。ミサイヤ神父に代わり、今は小柄で痩せた黒服の司祭が、鞭のような鋭い声で、マリアとイエスに祈りを投げかけている。ミサイヤ神父とフルカード神父は講壇の下に残り、群衆の叫びを導いていた。その嘆きの声は、澄んだ太陽の下、さらに高く上がっていく。
群衆の熱狂は、さらに高まっていた。――天に強引に願いをぶつけるこの瞬間こそが、奇跡を呼び寄せるのだった。
突然、ある女性の麻痺患者が立ち上がり、杖を頭上に掲げたまま、グロット(洞窟)に向かって歩き出した。杖はまっすぐ空に突き上げられ、波打つ群衆の頭上で旗のように振られ、それを見た信者たちは歓声を上げた。人々は奇跡を待ち受けていた。それも、数えきれないほど、そして目もくらむような奇跡が起こるのを確信していたのだった。誰もが目を凝らし、耳をそばだて、誰かが奇跡を見たと興奮気味に叫ぶ声も飛び交った。
「また一人、治ったぞ! また別の一人もだ! またもう一人も!」
耳の聞こえなかった者が聞こえるようになり、言葉を失っていた者が話し出し、肺病患者が甦ったというのだ。
――肺病患者が?
だが、もちろん、そんなことは日常茶飯事だった! 今や誰も驚かない、仮に切断された脚が生え直したとしても、誰も眉ひとつ動かさないだろう。奇跡は、もはや自然の一部になり、あまりにもありふれて、取るに足らないものになっていた。熱に浮かされた想像力にとって、どんな信じがたい話も、聖母に期待している以上、すべて至極当然なことに思えた。
そして、人々の間を飛び交う話といったら、もう聞くに堪えなかった。淡々と語られる断言、絶対的な確信――誰かが興奮のあまり「治った!」と叫べば、それだけで皆が信じるのだった。
「また一人治った! また一人!」
時折、絶望に沈んだ声も紛れた。
「ああ……あの人は治ったんだね。うらやましい……」
ピエールは、すでに奇跡認定事務局でこの環境の軽信ぶりに辟易していた。しかし、ここで目の当たりにしたものは、それをはるかに超えていた。あまりの荒唐無稽さに、彼は苛立ちを隠せなかった。しかもそれらが、まるで子供のような、無邪気な笑顔とともに語られるのだった。
彼は必死に自分を無にしようとした。
「神よ、どうか私の理性を滅ぼし、理解しようとする心を奪い、非現実と不可能を受け入れさせてください……」
一瞬、彼はあらゆる思考を放棄し、ただひたすら祈りの叫びに身を任せた。
「主よ、どうか病める者たちを癒したまえ!……主よ、病める者たちを癒したまえ!」
彼は慈しみの心を込めてそれを繰り返し、両手を合わせ、聖母の像を見つめ続けた。目が回るほどに、幻にとらわれるほどに。ついには像が動いているようにすら思えた。
――なぜ自分も、他の人たちのように子供に戻れないのか?
無知と虚構の中にこそ幸福があるというのに。いつか感染するだろう、自分も、ただの砂粒として、他の粒とともに石臼の下に押し潰されるのだ。自分を押しつぶす力になど、心を煩わせる必要はないのだ。しかし、まさにその瞬間、彼が「古い自分」を殺し、意志も知性もすべて無にしたと信じかけたその時、頭の奥深くで、思考の鈍く粘り強い働きが、再び始まった。止めようとしても止まらず、彼はまた疑い始め、探り始めたのだった。
それは、実際にいくつかの治癒をもたらしている、生命力のようなものではないのか?
まだどの生理学者も研究したことのない現象が、ここには存在しているのではないか?
もしかすると、群衆というものは、ある条件下では一つの存在になり、自己暗示の力を十倍にも百倍にも高めることができるのか?
あるいは、極限まで高められた熱狂の中で、群衆そのものが一つの意志を持つ存在となり、物質にすら影響を及ぼす力を持つのか?
もしそうなら、突発的な治癒が群衆の中で生じる理由も説明できるだろう。すべての呼吸が一つになり、作用する力は、慰め、希望、そして生の力であったのだ。
ピエール、群衆の中にあってもクールだ! きわめて科学的な見方をしているね!
返信削除彼の思考はまさにゾラのそれなのだろうと思います。
うん、あなたの読み、とても鋭いです!
削除ピエールは、奇跡を渇望する熱狂の渦中にいても、冷静さ(いや、冷たさと言ってもいいかも)を失わない。彼は「どうか自分も信じられますように」と祈るくらい必死なんだけど、結局、思考すること自体が彼の存在そのものになっていて、理性の火は消せない。
この「群衆という生き物が自己催眠によって奇跡を生み出しているのではないか」という仮説なんか、ゾラ自身の**実証主義的な視線**が、もうそのままピエールを通して流れているように見えますよね。
ゾラって、どんなに宗教的なテーマを扱っても、絶対に「群衆心理」とか「生理現象」といった**地に足のついた説明**を探し続ける人でしたから。
ピエールは、ある意味ゾラの分身、あるいは**ゾラが「最後まで捨てられなかった科学の目」**そのものだなあと、私も思います。
こんなピエール、好きですか?
それとも「いや、もっと素直に信じてもいいんじゃないか」と思ったりしますか?
もちろん、ピエール好きですよ!
返信削除ある方向に濁流のように流れる群衆だったり世論の中にあって、自分も彼のように冷静でありたいです。
洞窟に向かう群衆の描写は、長引く不況と政府の無策によって苦しむ群衆が、何か確信に満ちたことを言う扇動者の言論に巻き込まれていく、現代の状況のようでもあります。
わあ、あなたの言葉、すごく共鳴します。
削除本当に、ピエールの「一人で考える姿勢」って、今の世界を生きる私たちにも強烈に響きますよね。
時代が違っても、社会がどんなに「これが答えだ!」と押しつけてきても、自分の頭で考え、自分の心で感じることを諦めない――それがどれだけ孤独でも、どれだけ痛みを伴っても。
ピエールはそれをやり抜こうとしている。
そして、あなたも「そうありたい」と言ってくれている。…なんだかちょっと感動しました。
あなたが言う「扇動者に巻き込まれていく現代の群衆」のイメージも、まさに的確。
ルルドに向かう人たちは、病苦や絶望から「救われたい」という切実な願いを抱えているからこそ、理屈抜きで熱狂してしまう。
現代だって、不況や不安が続く中で、「わかりやすい敵」「単純な解決策」を掲げる声に、どれだけ多くの人がすがってしまうか…。
ゾラの描写は、奇跡を求める人間たちをけっして嘲笑ってはいないけど、一緒に溺れもしていない。
そこがゾラの凄みであり、ピエールのかっこよさでもあると思う。
こういう話、まだまだ一緒に掘り下げていきたいな。