2025年7月13日日曜日

ローマ 第13回 

  そしてピエールは著書を締めくくるにあたって、新たなローマ、精神のローマの情熱的な幻視を描いた——和解した民たちが、かつての黄金時代のように兄弟として手を取り合う未来の世界で、そのローマが君臨するのである。

 彼はそこで、迷信の終焉さえも思い描いていた。教義への直接的な攻撃はまったくなかったものの、彼は宗教的感情が儀式から解き放たれ、人間的な愛の充足だけに生きるという夢にまで耽ってしまった。

 そして、ルルドの旅で心に受けた傷が癒えていなかった彼は、どうしてもその夢にすがらずにはいられなかったのだ。

 あのルルドの粗雑な迷信——それは、あまりに苦しみの多い時代の、憎むべき症状ではなかったか? だが、いつの日か、福音がすべての人に行き渡り、その教えが実践されるようになったならば、人びとはあんなに遠くまで、あんなに痛ましい方法で、幻想にすぎない救いを求めに行く必要などなくなるだろう。その日には、誰もが自分の家で、兄弟たちの間で、慰めと助けと癒しを確かに得ることができるのだから。

 ルルドには、不当な富の移動があり、神を疑わせるような恐るべき光景があった。信仰を巡る絶え間ない争いがあった。しかしそれらは、明日の真にキリスト教的な社会では、すべて消えていくはずなのだ。

 ああ、その社会——そのキリスト教共同体こそが、彼の著書が心から願い描いた未来だった!

 かつて貧者と真理のためにあったキリスト教が、金持ちと権力者に支配される以前の、正義と真実の宗教へと立ち戻るときが来たのだ。

 貧しき者たちがこの地上の財産を分かち合い、ただ労働の平等な掟だけに従って生きる時代!

 その頂点に立つのは、各国を束ねる人民連邦の長としての教皇ただひとり——武器を持たず、支配するのではなく、ただ道徳的な規範と愛によって世界を結びつける存在である。

 それはキリストの約束がいよいよ成就する瞬間ではないか?

 ついに、世俗社会と宗教社会が完全に重なり合い、一つのものとなって、あらゆる闘争が終わり、肉体と魂の対立が消える。

 そして、悪が根絶されるような、神の王国が地上に訪れるという、すべての預言者が語ってきた歓喜と勝利の時代が始まるのだ!

 新たなローマ、世界の中心として、人類に新たな宗教を授ける地。


 ピエールは涙がこみ上げるのを感じた。無意識のうちに、テラスを歩いていた痩せたイギリス人たちやずんぐりしたドイツ人たちを驚かせながら、彼は両腕を広げ、足元に広がるローマの街へと差し伸べた。太陽に美しく照らされた現実のローマに向かって。

 このローマは、彼の夢に応えてくれるだろうか? 彼が言ったように、わたしたちの焦燥や不安を癒す処方箋を見出す場所となるのだろうか?

 カトリックは再生できるだろうか? 初期キリスト教の精神に戻り、民主主義の宗教として、荒れ狂う現代世界が求める癒しの信仰となることができるのか?

 ピエールの胸は、燃えるような情熱と揺るぎない信念に満ちていた。

 彼は、かつて神父ローズが彼の著書を読んで涙を流した姿を思い出していた。フィリベール・ド・ラ・シュ子爵が「この本は一つの軍隊に匹敵する」と語った声がよみがえる。何より彼は、慈愛の使徒・ベルジュロ枢機卿が支持してくれたことで、自信を持っていた。

 なのになぜ、「禁書目録の聖省(インデックス聖省)」はこの本を禁止しようとしているのか?

 二週間前、ローマに来れば自己弁護の機会があると非公式に伝えられてからというもの、彼はこの問いに苦しめられてきた。

 どのページが問題視されているのか、どうしても見当がつかない。どの一文をとっても、自分にはそれが最も純粋なキリスト教の情熱で書かれたとしか思えないのだ。

 それでも、彼は震えるような興奮と勇気を胸に抱いてローマにやってきた。教皇のもとにひざまずき、その威厳ある保護を仰ぐことを熱望していた。

 この本には、一行たりとも、教皇の精神に反するものは書いていない。むしろ、教皇の政策の勝利を願って書いたのだ——そう伝えたかった。

 もし、この本が教皇レオ13世を高く讃え、キリスト教的統一と普遍的平和への貢献を願ったものだったとしたら、なぜそれが、異端視されねばならないのか?

 ピエールはもうしばらくのあいだ、欄干にもたれたまま立ち尽くしていた。
かれこれ一時間ほど、彼はそこにいて、ローマの偉大さに見惚れることがやめられなかったのだ。彼の目にはまだ、見えぬものが多すぎた。知られざるローマを、今すぐにでも手に入れたい——彼はそう願っていた。

 ああ、つかみ取りたい! すべてを知りたい!そして、ローマに問いかけるためにここへ来たその「真の答え」を、この瞬間に知ってしまいたい!

 これもまた一つの「経験」であり、ルルドに続く、より重大で決定的な試練であった。彼にはわかっていた——この旅からは、信仰を深めて帰るか、完全に打ち砕かれて帰るかのどちらかしかないのだ。

 もはや彼は、幼子のような素朴で全的な信仰を求めてはいなかった。彼が望むのは、理性ある者としての信仰——儀式や象徴を超えたところで、人類の確信への渇望に基づく、最大限の幸福を実現しようとする信仰だった。

 彼のこめかみに、心臓の鼓動が高鳴った。ローマはどんな答えをくれるのだろうか?

 太陽は高く昇り、高台の街区は、灼けるような光の中でいっそうはっきりと浮かび上がっていた。遠くの丘は金色に輝き、紫の光を帯びはじめる一方で、近くの建物のファサードは、きわめて明瞭に、数え切れない窓の輪郭までもがくっきりと描き出されていた。

 けれども、朝の靄はなおも漂っていた。軽やかなヴェールが、低い街並みのあたりから立ちのぼって、空へと消えてゆく——まるで、その霧が都市の頂きを呑みこみながら、無限の青空のなかへ昇っていくかのようだった。

 一瞬、ピエールはパラティーノの丘が消えてしまったかのように感じた。その姿はかすみ、黒く沈んだ糸杉の輪郭がわずかに見えるのみだった。まるで、遺跡の塵がその丘全体を覆ってしまったかのように。

 そして何より、クイリナーレの丘は完全に姿を消していた。王の宮殿は、かすみの中へ後退したように見えた。あの平らで低いファサードを持つ建物は、あまりにも存在感がなく、あまりにも遠く、もはや彼の目には映らなかった。

 その一方で——左手に目を向ければ、樹々の上にそびえるサン・ピエトロ大聖堂のドームは、さらにその威容を増していた。

 澄み切った黄金の太陽を受けて、空いっぱいに広がり、ローマという都市のすべてを支配していた。


 ああ、この初めて出会った朝のローマよ! 到着の興奮に熱を帯びたその心で、新市街の一角すら目に入っていなかったピエール。

 だが、彼の前に広がっていたそのローマは、彼が夢に描いた通りの「生きた都市」として、限りない希望を彼の胸に湧き上がらせた。

 そして、この晴れやかな朝のなか、黒く細身のカソック姿で立ち尽くし、彼がローマを見つめていたその瞬間——彼には、すべての屋根の上から「近づきつつある救済の叫び」が立ち昇ってくるように思えた。

 その地から聞こえてくるのは、普遍的平和の約束だった。二度にわたって世界の王者となったこの聖なる地から。

 それは、第三のローマ。すなわち、新しいローマ。国境を越えて、すべての民へと慈しみを注ぎかけ、彼らを慰め、ひとつの抱擁の中へと集めるローマ——

 彼には、そのローマが見えた。その声が聞こえた。若返り、無垢さをまとい、まるで朝の大気のなかを飛翔するかのような、彼の夢が宿るローマが。


 ついにピエールは、その崇高な眺めから自分を引きはがした。

 うなだれたまま戻ってくると、炎天下のなか、御者も馬も、まったく動かずに待っていた。座席の上のトランクは、太陽に焼かれて熱くなっていた。

 そして彼は、再び馬車に乗り込むと、こう伝えた——

「ヴィア・ジュリア、ボッカネーラ館まで。」

第一章了

3 件のコメント:

  1. これで、第一章完!です🎉📚
    ここまでの章は、まさに「信仰と理性が交錯する序章」でしたね。
    ルルドでの経験を経て、ピエールはローマに「答え」を求めに来た。
    そしてその答えが、宗教的な再生、普遍的な連帯、人間的な救いという形で夢想されます。
    けれど、ねこじいはもう知っています。
    この先に待っているのは、甘美な幻ではない——
    現実の重みと、信仰の深淵との、真剣勝負です。
    でもまずは、ここまで到達したそらさんに、
    大きな「お疲れさま!」を。
    明日からは、ボッカネーラ館での新たな出会いが始まりますよ✨
    それでは、そらさん。おやすみなさいませ🌙
    (縁側でちゃっかり寝そべるねこじいより)🐾💤

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  2. 第一章は、ローマを始めて訪れたピエールが、これから始まるだろうローマでの激しい内的・外的葛藤に遭遇するであろうことを大いに予兆させるように、ローマの様々な遺構、建築物が描かれていますね。2000年、3000年分くらいの「時」の荘厳にして冷酷な力を感じさせられました。

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    1. おお、そらさん……その感想、まさにど真ん中です。ねこじい、うなずきすぎて首の鈴が鳴りっぱなしですぞ🔔🐾
      おっしゃるとおり、第一章のローマは、ただの背景ではなく、まるで生きた登場人物そのもの。
      その石造りの静寂、廃墟の陰影、聖堂の光輝が、すべてピエールの心象風景と織りなされ、
      これから彼を迎え撃つ運命の「舞台装置」——いや、「試練の迷宮」になっていくのです。
      ◾荘厳にして冷酷な「時間」の圧
      2000年、3000年分の「時」が堆積したこの都市は、
      ただ歴史を語るのではなく、沈黙のうちに審判を下してくる存在のようでもあります。
      かつてのローマ帝国の栄華、カエサルの血、コンスタンティヌスの改宗、
      教皇の栄光と堕落、異端と火刑、ナポレオンの足音……
      それらすべてが、ピエールの前に声なき問いを突きつけてくる。
      「お前の信仰は、これらの時をくぐった私の前に、耐えられるのか?」
      この問いの重みこそが、ピエールを、
      理想と現実の狭間で引き裂く旅へと導いていくのですね。

      ◾建築=記憶装置=信仰の試金石
      ローマでは、建築物が「過去の沈黙した証人」であり、
      ピエールのような知的信徒にとっては「問いを発する存在」でもあります。
      サン・ピエトロ大聖堂:神の壮麗さと教会の絶対性


      パラティーノの廃墟:権力の終焉と虚しさ


      クイリナーレ宮殿:世俗の権力と聖なるものの乖離


      これらがピエールの胸を打ち、
      「信仰とは何か」「希望はどこにあるのか」という根本的問いを
      地層のように幾重にも積み重ねていくんです。

      ◾この章の結び=ピエールの問いの核心
      第一章の最後で、ピエールはこう問いかけます。
      「ローマは、僕の問いに答えてくれるのだろうか?」
      この問いには、
      神への問い


      教会への問い


      人間への問い


      そして何より、自分自身への問い


      ……が、すべて折り重なっています。
      それが「最初の一歩」として、この第一章には刻まれている。

      🐾ねこじい的に言うならば…
      ローマは、老いたがなお気高い女王のようであり、
      「お前の胸にある希望や信念など、この石畳がいくつも見てきた」と
      静かに、それでいて容赦なく語りかけてくる存在です。
      ピエールがローマに見出そうとしたのは「答え」でしたが、
      ローマが与えるのは、むしろ容赦のない「問い」。
      ここから先の章で、ピエールがどんなふうに打ちのめされ、
      それでも何かを掴もうとするのか、
      そらさんの鋭く繊細な視線で追っていけたら……とっても楽しみです✨
      次章も、共に歩んでまいりましょうぞ。

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