2025年7月8日火曜日

ローマ 第8回

  ピエールは飽きることなく、視線を地平線の端から端へと何度も巡らせた。彼はサビーヌ山やアルバーノ山の堂々たるギザギザの稜線、誇り高き優美さに見とれた。山のあちこちに町々が点在し、その連なりが空の境界線を形づくっていた。ローマのカンパーニャ(平原)は、広大な裂け目のように広がり、裸で威厳を帯び、まるで死の砂漠のようだった。緑は青白く、よどんだ海のような色で、彼はやがて、カエキリア・メテッラの円形の低い墓塔を見分けた。その背後には、かすかな細い線が古代アッピア街道の存在を示していた。崩れた世界の塵の中、断片となった水道橋の遺構が、草地に散らばっていた。

 そしてまた彼の視線は街へと戻り、建物のごちゃまぜの風景へと注がれた。それは、無作為に出会う一つ一つの建物たちだった。すぐ近くには、川に面したロッジアでわかる、黄褐色の巨大なファルネーゼ宮。さらに遠くには、かすかに見える低いドームがパンテオンだろうと思われた。視線が跳ねるように移っていく先には、サン・パオロ・フオーリ・レ・ムーラの再塗装された壁が、まるで巨大な納屋のように立っていた。サン・ジョヴァンニ・イン・ラテラノの屋上には像たちが軽やかに並び、遠目には昆虫のように小さく見える。続いて見えるのは、ゲズ教会、サン・カルロ、サン・アンドレア・デッラ・ヴァッレ、サン・ジョヴァンニ・デイ・フィオレンティーニなどのドームの群れ――他にも数えきれないほどの記念建造物が、輝かしい記憶を伴って並んでいる。サンタンジェロ城、その頂の像がきらめいていた。ローマを見下ろすメディチ荘、ピンチオのテラスには稀少な木々の間に白い大理石が点々と見え、遠くにはボルゲーゼ荘の広大な木立が地平線を閉じていた。

 彼はコロッセオをどうしても探し出せなかった。だが、北から吹くほんのり涼しい風が、朝の霞を次第に払いのけていた。煙るような遠景からは、いくつもの街区が太陽の海から突き出た岬のように力強く浮かび上がる。建物が密集した中には、ひときわ白く輝く壁や、太陽を跳ね返す窓の列、黒々とした庭が強烈なコントラストで混ざり合っていた。そして、街路、広場、果てしなく続く家々の島々――それらは太陽の輝きの中に溶け込み、屋根から上がる白い煙がゆっくりと純粋な青空を横切っていった。


 しかし、やがてピエールの意識は、広大な地平の中でも三つの地点にだけ引き寄せられていった。あそこ、パラティーノの丘を縁取るように黒く立ち並ぶ糸杉の列――それが彼の胸を熱くした。背後には何も見えなかった。かつての皇帝たちの宮殿は崩れ落ち、時間に削られ、完全に消えていた。だが、彼はそれらを呼び起こし、朝の紫の光の中に、金色の幻想のようにぼんやりと震える宮殿の幻影を思い描いた。

 次に視線が戻ったのはサン・ピエトロだった。ドームは今もそびえ立ち、その下にはバチカンが、巨人の脇腹にぴったりと寄り添うようにある。ピエールの目にはそれが、空の色をまといながらも威風堂々と、まさに巨人の王のように映った。どこからでも見える、永遠の支配者。

 そして、もう一つの視点――クイリナーレの丘へ目を向けると、王宮はただの低くて平らな兵舎のように見えた。黄土色に塗られた建物は冷たく、無機質で、ピエールにはまるで貧相な模造品に映った。

 その瞬間、ローマという都市の歴史が、彼の心に象徴的な三角形として浮かび上がった――ティベレ川を越えて対峙する三つの丘の頂からなる三角形。

  • 古代ローマ:パラティーノの丘に広がっていた、宮殿と神殿の密集する怪物的な権力と栄光の花。

  • 中世の教皇のローマ:サン・ピエトロのドームの下、世界を支配し、再び美を支配するに至った巨大な教会。

  • 現在のローマ:ピエールにとって未知で無視していた場所。王宮が象徴するのは、ただの無味乾燥な官僚的近代。ローマという特別な都市にふさわしくない、夢を壊すような現代の企て。

 彼は、この「現代」の持つ痛ましさを払いのけようとした。サン・ピエトロの近く、ティベレ川のそばに建設中の新しい街区――色褪せた小さな街のようなその風景に、彼は目を背けた。

 彼の「ローマ・ヌーヴェル(新しいローマ)」は夢だった。今もその夢を抱き続けていた。たとえパラティーノの丘が時の砂塵に埋もれても、たとえサン・ピエトロの巨大な影がバチカンを眠らせていても、たとえクイリナーレ宮が庶民的な黄色の塗装で王政の再来を飾っていても、彼の思い描くローマは、なおも、あの明るい朝日の中に生きていた。


最後の一文:

La Rome nouvelle, le titre de son livre se remit à flamboyer devant Pierre, et une autre songerie l’emporta, il revécut son livre, après avoir revécu sa vie. Il l’avait écrit d’enthousiasme, utilisant les notes amassées au hasard; et la division en trois parties s’était tout de suite imposée: le passé, le présent, l’avenir.

「ローマ・ヌーヴェル」――自分の本の題名が、ふたたびピエールの心にまばゆく燃え上がった。そして彼は、人生を思い返した後、今度は自らの書いた本を思い返した。あれは情熱のままに書き上げたもので、偶然に溜めていたメモをもとにしていた。そしてすぐに、自然に浮かんだ構成――過去、現在、未来という三つの部分だった。

2 件のコメント:

  1. 三部構成がポイントですね。
    ローマという都市の区画も三つに大別され
    ピエールの著書も三部構成
    そして、この作品も三都市叢書。
    多くの建築物、史跡が登場しますが
    ちょっと情報量が多すぎてパンクしてしまうので
    主なもの三つだけ解説してください。

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    1. おお、鋭い着眼ですね🐾✨
      おっしゃる通り、ゾラのこの「三都市三部作」(Lourdes, Rome, Paris)は、それぞれの都市が象徴する信仰・制度・科学(宗教・教会・知性)をテーマとし、また各巻が内部的にも三部構成になっているという、入れ子状の三重構造を持っています。
      では、情報が過密にならぬよう、本作『ローマ』において特に象徴的な建築・史跡を三つだけ厳選して解説いたします。都市の魂を映す鏡のような場所たちです。

      ❶ サン・ピエトロ大聖堂(Basilique Saint-Pierre)
      象徴するもの:教皇制ローマ/カトリックの絶対的権威


      位置づけ:ピエールの視線の中心に何度も登場。彼にとって「勝ち誇る教会の顔」であり、「かつての栄光の残響」でもある。


      特徴:


      16~17世紀にかけて再建されたキリスト教世界の中枢。


      巨大なドーム(ミケランジェロ設計)と広大な広場(ベルニーニ設計)で知られる。


      ここに寄り添うように存在するバチカン宮殿が、精神的権威と政治的権力の結節点。


      文学的意味:
      ピエールは、かつての「キリストの家」としての役割を果たせなくなった建物として見つめながらも、なおそこに再生の希望を仮託しようとします。



      ❷ パラティーノの丘(Palatin)
      象徴するもの:古代ローマ帝政の栄光と崩壊


      位置づけ:ピエールは、ここに皇帝たちの宮殿の幻を見いだす。廃墟の静けさと、過去の暴力的権力への反省が交錯。


      特徴:


      ローマ建国伝説(ロムルスとレムス)とも結びついた「始まりの地」。


      初代皇帝アウグストゥスをはじめ、多くの皇帝がここに宮殿を構えた。


      今は草に覆われた遺跡が点在し、観光客の想像力に委ねられている場所。


      文学的意味:
      「かつてのローマの花、しかし怪物のように咲いた権力の花」として描かれる。
      ピエールにとっては、「過去のローマ」としての一頂点。宗教的権威と比較される暴力的世俗権力の遺構。



      ❸ クイリナーレ宮殿(Palais du Quirinal)
      象徴するもの:現代の世俗国家・王政・近代官僚制度


      位置づけ:ピエールが最も違和感を抱いた場所。「塗り直された、味気ない現代の模造品」。


      特徴:


      かつては教皇の夏の離宮→イタリア王国の王宮→現在はイタリア共和国の大統領官邸。


      幾度も用途を変えてきたことが、ゾラにとっては「権力の転覆劇の象徴」。


      建物としては堅牢だが、想像力に訴えかける魅力に乏しいと描かれる。


      文学的意味:
      現在(現実)のローマが、貧弱な模造に過ぎないという象徴。
      ピエールにとっては、「夢のローマ」に水を差す存在。宗教の理想や古代の壮麗さに比べて、「俗っぽくつまらない」のです。



      この三つの建築・遺跡を結ぶ三角形が、ピエールにとっての「ローマ三相」なのです。
      過去(Palatin)


      宗教の中世(Saint-Pierre)


      現代の世俗(Quirinal)


      そして、ピエールの「新しいローマ」――理想としての福音的・社会的再生――は、この三角形のどこにもまだ実体を持っていません。だからこそ、彼は夢を見続けるのです。

      疲れた頭には一杯の冷たいミントティーでもどうぞ☕
      また続きをお供しますね🐈💬

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