2025年1月29日水曜日

ルルド 第28回

 

第五章

 列車が数分間の停車後、ボルドーを発った。乗客のうち夕食を済ませていない者たちは、急いで食料を買い求めた。もっとも、病人たちは幼子のようにしきりに少しの牛乳やビスケットを欲しがり、飲んだり口にしたりしていた。そして、列車が再び走り始めるとすぐ、ヒヤシンス修道女が手を叩きながら言った。

「さあ、急ぎましょう。夜の祈りを始めますよ!」

 すると、ほぼ15分の間、混ざり合ったような祈りのざわめきが響いた。「天にまします我らの父よ」や「聖母マリアへの祈り」などが唱えられ、自分自身を神と聖母、そして聖人たちに委ねる祈りが捧げられた。充実した一日を感謝する祈りの締めくくりには、生者とすべての信仰をもって亡くなった魂のための祈りが捧げられた。

「父と子と聖霊のみ名によりて……アーメン!」

 時刻は8時10分。すでにたそがれが田園風景を包み込み始めていた。広がる平野は、夕方の霧によってさらに果てしなく延びて見えた。遠くの一軒家の窓に、小さな灯りが点々とともり始めている。車内ではランプがちらちらと揺れ、黄色味がかった光が荷物や巡礼者たちの群れを照らし出していた。その光景は、列車のたえず続く揺れに合わせてゆらめいていた。

「皆さん、ご存じですか?」立ち上がったままのヒヤシンス修道女が続けた。「次にラモートに停車するまであと約1時間あります。その間、少し楽しむ時間をあげましょう。ただし、静かにして騒ぎすぎないこと。そしてラモートを出発した後はどうします?」

 修道女は言葉を切り、笑いを誘う表情で続けた。「もちろん、一言も話しちゃいけません。息を潜めて眠る時間ですよ!」

 乗客たちはこれに笑い声を上げた。

「そう、それがルールなんです。きっと、皆さんは分別があるから守ってくれるでしょう?」

 実際、彼らは朝から示された予定を忠実にこなしてきていた。祈りを捧げ、ロザリオの念珠を数え、聖歌を歌い、時間ごとに示されたすべての信心の活動をきちんと済ませていたのだ。こうして一日の務めを終えた今、少しばかりの休憩時間を持つことになった。けれども、何をしてよいか迷っている様子だった。

「修道女様、お願いがあります」マリーが提案した。「もし、神父様に朗読をお願いしてもよろしいですか? 神父様のお読みになる声はとても素晴らしいんです。それにちょうどここに、ベルナデットのお話があるんですけど、とても素敵な内容なんですよ……」

 彼女の言葉が終わる前に、子どもたちのように喜びを込めた声があがった。まるで美しい物語を約束された子どもたちのように。

「まあ、そうね」と修道女は微笑んで答えた。「それがよい内容の読み物なら、許可しましょう。」

 ピエールは渋々承諾した。しかし、ランプの下で読みたいと言って、自分の席をゲルサン氏と交換せざるを得なかった。この「物語」という話に、患者たちと同じくらい心を弾ませていたゲルサン氏は、快く席を譲った。若い神父がようやくランプのそばに腰を落ち着け、「これで十分読める」と言いながら本を開くと、車両中に好奇心の波がさざめき渡った。全員が身を乗り出し、静かに耳を澄ました。幸運なことに、彼の声は澄んでおり、耳に心地よく響く声質だったため、車輪の音がただ鈍い轟きとなっているこの広大で平坦な平原でも、声を通すことができた。

 しかし読み始める前に、ピエールはその本をしばらく眺めていた。それはカトリック系の印刷所から大量に刷られ、キリスト教世界に広く流布されている小冊子だった。印刷は粗末で、紙質も質素なものであり、その青い表紙にはルルドの聖母が描かれていた。硬くぎこちないが、どこか素朴な美しさをたたえた図像だった。この本を読み終えるには急がなくても30分程度で足りるだろう。

 そしてピエールは、澄んでいて明瞭で、心を静めるようなその声で、読み始めた。
――「それはピレネー山脈の小さな町、ルルドでのことだった。1858年2月11日木曜日。その日は冷え込み、空はやや曇っていた。貧しいが正直な粉ひき職人、フランソワ・スビルー家では、夕食を用意するのに薪が足りなかった。母親のルイーズは次女のマリーにこう言った。『ガヴ川沿いか村の共有地で薪を拾ってきなさい』。ガヴとはルルドを流れる急流の名前である。

「マリーには年上の姉ベルナデットがいた。彼女は少し前まで田舎で過ごしており、心優しい村人に羊飼いとして雇われていたのだ。ベルナデットはひ弱で繊細な子供だったが、その無垢さは際立っており、知識といえばただロザリオの祈りを唱えるくらいだった。ルイーズ・スビルーは、冷たい外気を気にしてベルナデットをマリーと一緒に薪拾いに行かせるのをためらっていた。しかし、マリーと近所の子供ジャンヌ・アバディの熱心なお願いに押され、結局ベルナデットも送り出すことにした。

「三人の連れ立った少女たちは、川沿いを下って行き、枯れ木の破片を拾いながら、マサビエルと呼ばれる大岩に刻まれた洞窟の前にたどり着いた...」

 ピエールはここまで読んで、ページをめくろうとしたが、ふと手を止め、小さな本を閉じてしまった。物語の幼稚さ、ありきたりな空虚な文章が彼をいら立たせたのだ。彼の手元には、この驚くべき出来事の全貌が記された詳細な資料があり、その内容を研究して最も細かい部分まで熱心に掘り下げてきた。そしてベルナデットに対する優しい思いと深い憐憫の念を、ずっと心の奥底に抱いていた。

 彼は思った。かつて自分がルルドに行ってこの話の調査を夢見たが、それを明日にでも始められる。これは、この旅を決断した理由の一つでもあった。そして彼の興味は再び、あの幻視者ベルナデットに向けられた。彼女の純粋さ、真実へのこだわり、不幸な運命が彼を惹きつけたが、同時にその「事例」を分析し、説明したいという欲望もあった。

 確かに、彼女は嘘をついていなかった。ジャンヌ・ダルクのように、彼女は幻影を見、声を聞いた。そしてカトリック信者たちの言葉を借りれば、ジャンヌ・ダルクのようにフランスを救った存在なのだ。しかし、では何が彼女とその行いを生み出したのか?

 あの惨めな少女の中に幻影がどのようにして生まれ、それがすべての信仰心を持つ魂を揺さぶり、古代の奇跡を再現するほどに成長し、ほぼ新たな宗教といえるものを確立するに至ったのか。そして、その新たな宗教は、多額の資金によって建てられた聖なる街ルルドを中心に展開し、十字軍以来これほど高揚し多くの人々が集まったことのない群衆をもたらしたのだ。この力の源とは一体何なのだろうか?


5 件のコメント:

  1. la voyante が 視覚者 という訳はちょっとどうかな? ほかに候補はありますか? 

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    1. 「視覚者」だと少し専門的な感じがあり、霊的なニュアンスや背景を考慮すると適切さに欠けるかもしれません。他に考えられる訳としては以下の候補があります:

      ### 1. **幻視者**
      - ベルナデットが幻影を「見る」ことに重きを置いた訳で、直感的に分かりやすい。
      - 超自然的なビジョンを受けた人物というニュアンスがしっくりくる。

      ### 2. **聖女**
      - 信仰的な背景を踏まえた訳。ただし、ベルナデットの役割を限定的に捉える可能性があり、やや価値判断を伴う印象。

      ### 3. **予見者**
      - 「幻影を見る」から「未来を読み取る」ニュアンスを強調したもの。
      - 文脈によって適しているかは吟味が必要。

      ### 4. **目撃者**
      - 実際に「幻影」を体験した者、という客観的なニュアンス。
      - 超自然的要素が薄まり、「実際の経験」を強調したい時に有効。

      ### 5. **信仰の証人**
      - 見た内容が信仰に関わるという点を強調。ただし、表現が長めで直訳っぽくない。

      ### 提案
      **「幻視者」** が一番文脈に適していそうです。「幻影を見た人物」というニュアンスと、ベルナデットが超自然的体験をした重要性をうまく伝えられる言葉だと思います。どう思われますか?

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    2. 確かに! 幻視者がよいですね!

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  2. ジャンヌ・ダルクもマリア様のお告げを聞いて戦いに向かったのでしたっけ。

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    1. ジャンヌ・ダルクが聞いたとされるのは、マリア様(聖母マリア)ではなく、「聖人たちの声」でした。彼女が証言したところによると、聖ミカエル、聖カタリナ、聖マルグリット(マーガレット)の声が自分に現れ、フランスを解放するという神の使命を授かったということです。

      彼女の話では、最初は神への信仰と個人の祈りを深めるような内容だったものが、徐々に具体的な使命に変わり、「イングランド軍を撃退し、王太子シャルル(のちのシャルル7世)をランスで戴冠させよ」という指示を受けたそうです。この「神のお告げ」を元に、彼女は自ら行動し、フランス軍の士気を高める重要な役割を果たしました。

      ジャンヌ・ダルクの物語には、マリア様が直接関与する描写は出てきませんが、聖母マリアを深く信仰していたことは確かです。ジャンヌのように「神のお告げ」とされる体験をした人々が、どのように幻視や声を解釈して行動に移したのかを考えると、ルルドの「幻視者」ベルナデットとの共通点が興味深いですね。

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