2025年7月28日月曜日

ローマ 第28回

  ピエールはもはや抗議しなかった。心は締めつけられていた。というのも、いまや彼の最も大切にしてきた思想に対して、目の前の人物が容赦のない敵であることに疑いようがなかったからだ。彼はうやうやしく頭を垂れた。氷のように冷たくなっていた。そしてその顔をかすめていった微かな一陣の風――それは、遠くの墓場から吹いてくる死の冷気だった――を感じた。その間も枢機卿は、立ち上がり、高い背筋をピンと伸ばして、意志の強さが音を立てるような頑なな声で語りつづけた。

「もし――その敵どもが言うように――カトリシズムが死の打撃を受けているのだとすれば、死ぬときには堂々と、栄光あるままに死なねばならん……いいかね、ムッシュー・ラベ、一歩たりとも譲らんぞ! 譲歩も放棄も、臆病な妥協も一切許されん! 教会はそのあるがままの姿であってこそ教会なのだ。それ以外の何者でもないのだ。神から授けられた確信、完全なる真理というものには、いかなる変更もありえん。建物のどんな小さな石を取り去ったとしても、それはただの損傷ではない、全体の崩壊を招く一撃なのだ……」

「だいたい考えてもみたまえ。古い家を修理しようとしてツルハシで壁を壊す者がいるか? そんなことをすれば、ヒビはますます大きくなるだけだ。もしローマが本当に崩れ落ちる寸前だというのなら、どんな繕いも補修も、かえって破局を早めるばかりだ。そして、威厳ある堂々たる死ではなく、みっともないあがきと命乞いの果てにある、惨めな死に様となるだけなのだ……」

「私は待つ。私は信じている。そんな言い草はみな嘘八百、カトリシズムは決して揺らいではおらん。その永遠性はただひとつの源泉――神の命から引かれているのだ。だが――もし空が崩れ落ちるその夜が来たとしても、私はここにいる。この老朽化した宮殿のなかで、朽ちていく天井の下で、崩れゆく瓦礫の中に立ち尽くし、最後にもう一度だけ《クレド》を唱えて息絶えるであろう。」

 彼の声は次第に遅くなり、気高さと哀しみを帯びはじめた。彼は大きな手ぶりで、自らの周囲の古びた館を指し示した。そこには、もはや日々、命がすこしずつ消えゆくのを感じさせる沈黙と空虚が広がっていた。あの微かな冷たい風は、廃墟から吹いてくる無意識の予感だったのかもしれない。その廃れた大広間の光景はすべてを物語っていた。ほつれた絹のタペストリー、埃に色を奪われた紋章、虫に喰われた赤い帽子――。すべてが、絶望的にして荘厳な威厳を示していた。この枢機卿という貴族、そして揺るぎなきカトリック信徒――彼は古き時代の陰りのなかに身を引きつつも、兵士のごとき心で、古い世界の崩壊に敢然と立ち向かっていた。

 圧倒されたピエールは、そろそろ辞去しようとしたそのときだった。壁のタペストリーの裏にある小さな扉が開いた。ボッカネーラは不機嫌そうに身を引きつらせた。

「何だ? どうした? ほんの一刻も、わしを静かにさせてはくれんのか!」

 だが、そこに現れたのは、例のパパレッリ師(caudataire)――あの柔和でふっくらとした侍従だった。彼はまったく動じることなく入ってきた。そして枢機卿のもとにすっと近寄ると、耳元で何やら小声でささやいた。枢機卿もその姿を見ると、やや落ち着いた様子になった。

「誰だと?……ああ、そうだ、サントボノ、フラスカティの主任司祭か。分かっている……。今は会えんと言っておけ。」

 しかしパパレッリは、さらに低い声でそっと続けた。かすかに聞き取れる言葉もあった――“急ぎの用件”、そして“帰路に就かねばならぬ”、ほんの“一言伝えたいだけ”……。
そして、枢機卿の許可を待つことなく、彼はその訪問者――自分の後ろに待たせていた男――を部屋へ通してしまった。そのあと、自分は姿を消した。下っ端のようでいて、実は絶大な実権を握る小役人のごとき落ち着きで。

 誰にも気づかれずにいたピエールは、今しがた通されたその訪問者を目にした。入ってきたのは、まるで斧で削ったようなごつごつした体格の大男の司祭――明らかに農民の出で、大地の匂いを今もまとっていた。足は大きく、手は節くれだち、顔は傷痕と日に焼けた皮膚でゴツゴツしていた。だがその黒い瞳は、鋭い光を宿していた。およそ四十五歳だろうか。まだまだ体は頑丈そうで、まるで山賊が神父に化けているような風貌だった。無精髭にだらしない裾、そして大きな骨ばった体に合っていないぶかぶかの黒衣。だがその顔つきには、卑しさは一切なく、むしろ誇りがあった。彼はいちじくの葉で丁寧に覆った小さな籠を持っていた。

 入ってくるなり、サントボノはさっと膝を折り、枢機卿の指輪に口づけした。だがその仕草は素早く、あくまで形式的な挨拶にすぎなかった。そして庶民らしい素朴な敬意をにじませながらも、ややくだけた調子で言った。

「枢機卿猊下、しつこくして申し訳ありません。表の方では列が長くて、とても通されるとは思えませんでした。けれど、かつての友人であるパパレッリ師がこの扉から通してくれるというので、思い切って参りました……いや、実は本日、猊下にどうしてもお願いしたい、心からのお願いごとがございまして……。ですがその前に、まずこれを――ささやかですが、献上の品をお受け取りいただければと……」

 ボッカネーラは、彼の話を真剣な面持ちで聞いていた。彼は以前、彼のことをよく知っていた。というのも、昔、夏になるとフラスカーティにある、彼の家族が所有していた貴族の別荘で過ごしていたからである。その邸宅は16世紀に再建されたもので、見事な庭園があり、有名なテラスは、まるで海のように広くて裸のままのローマのカンパーニャ(田園地帯)を望んでいた。

 その別荘は今では売却され、そして、ベネデッタが相続分として受け取ったぶどう畑の上に、離婚訴訟が始まる前から、プラダ伯爵が娯楽用の小さな住宅を多数建てる新しい地区の造成を始めていた。

 かつて枢機卿は、徒歩で散歩する際に、町外れにある「田園の聖マリア」に捧げられた古い礼拝堂を管理していたサントボノの家に立ち寄って、しばしの休息を取ることを厭わなかった。その神父は、礼拝堂の隣にある、半ば廃墟のような粗末な住まいに暮らしていたが、その魅力は、壁に囲まれた庭園にあった。彼はまるで本物の農民のような情熱で、その庭を自ら耕していた。

「毎年のことですが……」と彼は言って、かごをテーブルの上に置きながら続けた。「閣下にぜひ、私のいちじくを味わっていただきたくて。この季節の初物を、今朝摘んでまいりました。閣下は、よく木から直接召し上がるのを好まれましたね! そしておっしゃってくださったんです、世の中に、こんなに美味ないちじくの木は他にないと。」

 枢機卿は思わず微笑まずにはいられなかった。彼はいちじくが大好きだったし、確かにサントボノのいちじくの木は、その地方全体で評判だったのだ。

「ありがとう、親愛なる神父殿。私のちょっとした嗜好を覚えていてくださったとは……さて、今日はどんなご用件で?」

 彼はすぐに真面目な表情に戻った。というのも、彼とこの神父の間には昔から意見の相違があり、その違いが彼を苛立たせていたからだ。

 サントボノは、ネーミという荒々しい地方で生まれ、兄が刺し殺されるような暴力的な家系の出だった。そして彼は、昔から熱烈な愛国思想の持ち主であった。彼がガリバルディとともに武器を取ろうとしたことがある、という噂もあった。また、イタリア軍がローマに入城したその日、彼が屋根にイタリア統一の旗を立てようとするのを止めなければならなかったという。彼の熱烈な夢は、教皇と王が和解し、手を携えて世界を導く――ローマが世界の主となる――というビジョンだった。

 だが枢機卿にとっては、そんな彼は危険な革命家であり、カトリックを危機に晒す背教的な司祭にしか見えなかった。

「おお、猊下が私のためにしてくださること……それがどんなにありがたいことか! 猊下がご慈悲をお示しくださるなら……!」
 サントボノは節くれだった大きな手を合わせ、燃えるような声で繰り返した。だがふと我に返って、こう付け加えた。
「サングイネッティ枢機卿閣下が、私の件について、猊下に一言も申し上げておられなかったのですか?」

「いや、枢機卿は、君が私を訪ねてくるだろうと言っただけだ。何か頼みがあるようだと。」

 そしてボッカネーラは、顔を曇らせ、さらに厳しい表情で続きを待った。

 彼はよく知っていた――この神父がサングイネッティの取り巻きになっていることを。サングイネッティが近郊教区の司教に任命され、フラスカーティに長期滞在するようになってからのことだ。

 教皇位を狙う枢機卿には皆、このような小物の取り巻きが影のように付き従っている。彼が一日でもローマ教皇になれば、自分たちもその昇格に与り、教皇庁の「大家族」に入れるからだ。

 サングイネッティがサントボノを一度、まずい事件から救ったという噂もあった。いたずらっ子が彼の塀をよじ登っているところを見つけ、手荒く叱った結果、その子は後に死んでしまったのだ。だが、この神父のために言っておけば、彼の狂信的ともいえる枢機卿への献身の背後には、「ついに現れるはずの教皇」――つまり、イタリアを偉大な主権国家へと導くべき教皇――への希望が大きく関わっていたのだ。

「さて、それが……私の不幸なのです、猊下……。ご存知かと思いますが、私の弟アゴスティーノは、かつて二年間、猊下の別荘で庭師をしておりました。とても優しい、穏やかな男で、誰からも文句を言われたことなどなかったのですが……なのに、訳が分からないのですが……ある晩、ジェンツァーノの街を歩いている最中に、彼は男をナイフで刺し殺してしまったのです。私は本当に困り果てています。できることなら、自分の指を2本でも差し出して、彼を牢獄から救い出したいのです。それで、猊下が、アゴスティーノが猊下の下に仕えていたこと、そしてその性格の良さに満足していたと書かれた証明書を、きっと断らずにくださるだろうと思ったのです。」

 枢機卿はきっぱりと抗議した。

「私はアゴスティーノにまったく満足していなかった。彼は非常に乱暴で、他の使用人たちと常に揉めていたので、解雇せざるを得なかったのです。」

「おお、猊下……そのようなことをお聞きして、私はなんと悲しいことでしょう! 私のかわいそうなアゴスティーノの性格が、そこまで悪くなっていたとは……! でも……文面を工夫すれば、なんとかなるでしょう? 猊下の証明書があれば、法廷ではとても良い効果を生むはずなのです!」

「うむ、確かに、それは分かるが……」とボッカネーラは答えた。「だが、私は証明書を出すことはしない。」

「えっ、何と! 猊下ほどの方が、お断りになるのですか?」

「まったくそのとおりだ……。君が高い道徳を持つ神父であり、その聖務に熱心に取り組んでいること、そして政治的な考えさえなければ実に立派な人物であることは、私もよく承知している。だが、君の兄弟への情が君を見誤らせている。私は、君のためとはいえ、嘘をつくことはできない。」


2 件のコメント:

  1. 山賊が神父に化けているような風貌のサントボノ神父、いいですね。
    彼のキャラクターについてまとめておいてください。

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    1. サントボノ神父(l'abbé Santobono)は、ゾラ『ローマ』に登場する脇役ながら非常に印象的な人物で、彼の性格や背景、立場には多くの矛盾や情熱が入り混じっています。その魅力と特徴を以下に整理します。

      🧔‍♂️ サントボノ神父の人物像
      1. 出自と風貌:いかにも山賊的な神父
      生まれ:ネーミ(Nemi)出身。これはラツィオ州の山間部、古代から神聖視されてきた火山湖の町。


      出自:「荒々しい土地の出」であり、兄は喧嘩で刺されて死んだという暴力的な家系。


      外見:ごつごつした「節くれだった手」、農夫のような風貌。精悍で、聖職者というよりも「山賊が神父の服を着たような」印象。


      住居:半ば廃墟のような家に住み、自給自足の生活。高い塀に囲まれた庭を耕す、まさに“農神父”。



      💬 性格と思想:異端すれすれの革命派
      2. 政治的には急進派:革命神父
      熱烈な愛国者・統一イタリア主義者。


      ガリバルディと共に武装蜂起しかけた過去があり、イタリア統一を祝して屋根に国旗を掲げようとして止められた。


      夢:教皇と国王が和解し、ローマが世界の中心になること(宗教的普遍主義と国家主義の統合)。


      カトリック内部では明らかに異端的なポジションで、ボッカネーラ枢機卿からは「危険な反逆者」「カトリックの敵」扱いされている。



      🙏 信仰と生活:地に足のついた献身者
      3. 民衆の中に生きる敬虔な聖職者
      古い野外の聖堂(聖母マリア・デ・シャン)を一人で守り、質素な生活を送る。


      自分で畑を耕し、イチジクを枢機卿に献上するような、信仰と労働の融合型の神父。


      ただの政治家ではなく、根底には深いキリスト教的愛と忠誠がある。



      🎭 立ち位置と矛盾
      4. ボッカネーラ枢機卿との対立と忠誠
      昔からの知人であり、家族のヴィラに出入りしていたが、思想的には真っ向から対立。


      ボッカネーラからは「モラルは完璧」「司祭としての職務は申し分なし」と高く評価されつつも、「政治的思想のせいで信頼できない」とされる。


      一方で、サングィネッティ枢機卿には忠誠を誓っており、次期教皇の夢を重ねている。しかしこれは単なる出世主義ではなく、「イタリアの未来」への信念が根底にある。



      🔥 エピソードの核心
      困窮した弟(アゴスティーノ)が殺人で逮捕された件で、ボッカネーラ枢機卿に偽証まがいの推薦状を頼み込む。


      その情熱は真に迫るが、枢機卿に毅然と拒絶される。

      🧩 総評:情熱と誠実さを併せ持つ、複雑な人物
      サントボノ神父は、「誠実な信仰」「熱烈な愛国心」「強い家族愛」「庶民性」を兼ね備えたキャラクターでありながら、教会制度内部では異端視される立場です。
      彼はゾラが描く「変革の時代の中間人物」の典型であり、制度と信仰の間で揺れる人間の真実を象徴しています。

      ご希望があれば、この人物について文学的・歴史的に深掘りした分析や、現実の類似モデルなどもご紹介できますよ。

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ローマ 第73回

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