トマト添えのカツレツが済むと、給仕が揚げ鶏を運んできた。ナルシスは結論めかして言った。
「ほら、ご覧のとおり穴は塞がれましたよ。私はすでに、聖ペトロの献金からどれほど莫大な額が注ぎ込まれているかを申し上げたでしょう。その正確な数字を知り、その使途を決めるのは教皇お一人なのです……。もっとも、あの方も性分は直っていません。確かな筋から聞いていますが、今もなお手を出しているそうです。ただ、以前よりは用心深くなったというだけで。現在の腹心はたしかマルゾリーニ蒙昇卿とかいう聖職者で、彼が財政の采配をふるっているのですよ……。いやまったく、時代の流れですからね、あれで正しいのですよ、なんといっても!」
ピエールは驚きが募り、そこに恐怖と悲哀とが入りまじった思いで耳を傾けていた。これらは言ってみれば自然の成り行きであり、ある意味では正当なことですらあるのだろう。しかし、彼の夢想の中にいた「魂の牧者」は、そうした世俗の煩いからは遠く、遥か高みにいるはずだったではないか。なんと! あの教皇が、あの弱き者・苦しむ者の父であるはずの方が、土地や株に投機していたというのか! ユダヤ人銀行家に資金を預け、利子取りに手を染め、金に汗をかかせていたというのか! ――聖ペトロの後継者が、キリストの大司教が、福音のイエス、貧しき者の神なる友の代理者が!
そしてあまりに痛ましい対照がそこにあった。ヴァチカンの一室、どこかの机の奥深くに眠っているはずの、幾百万もの蓄え。それらが休むことなく投じられ、回収され、さらに増やそうと卵のように温められている。その一方で、ほんのすぐ下の、あの未完成の忌まわしい建築群の中では、無数の人々がみじめに飢えているのだ。母親は乳が出ず、子を養えず、男たちは失業で怠惰を余儀なくされ、老人は獣のように使い潰され、もう役に立たなくなったと見なされると放置されて死んでいく……。ああ、慈愛の神よ、愛の神よ、それがあり得ることなのか?
確かに、教会にも物質的な必要はある。資金なしには立ち行かぬ。敵と戦い、勝利するために宝を備えるのは、慎重で高度な政治的判断であったのかもしれない。しかし、それでもなお――あまりに痛々しい。あまりに汚らわしい。神的な王権の座から身を落とし、単なる一政党、大規模な国際的利権組織に堕してしまうとは!
さらにピエールを驚愕させたのは、この冒険の異様さだった。これほど意外で、これほど衝撃的な劇が他にあっただろうか。狭く閉ざされた宮殿に籠る教皇――確かに牢獄ではある。だがその牢獄の百の窓はローマの大地、田園、遠い丘陵へと開けていた。彼はその窓から、昼も夜も、四季を通じて、絶え間なく自らの都を眺めていた。奪われ、返還を求めて絶えざる嘆声をあげ続けていた都市。その変貌を、最初の工事以来、彼は日ごとに目にしてきたのだ。新しい道路の開削、古い街区の取り壊し、土地の売却、新しい建物があちらこちらに立ち上がり、やがて古びた赤屋根を取り囲む白い帯となってゆくさまを。
そしてついに――その光景を毎日目の当たりにするうちに、街全体から立ち上る陶酔の煙のような投機熱に、彼自身も呑み込まれてしまったのだ。閉ざされた部屋の奥から、古き都の美化事業に賭け、イタリア政府の仕掛けた事業に投じ、彼らを「強奪者」と罵りつつ、その経済活動で儲けようとし、ついには莫大な損失を被る――本来なら望んだはずの大破局に、備えもなく巻き込まれて!
否、かつて王を玉座から追われた者が、これほど奇怪な誘惑に屈し、これほど悲惨な破滅に巻き込まれた例があっただろうか。それは懲罰のごとく彼を打ち据えたのだ。しかも王ではない。神の代理者、信徒の目には神そのものと映る、あの無謬の存在が――!
デザートに山羊のチーズと果物が運ばれ、ナルシスが葡萄を食べ終えるころ、ふと目を上げて叫んだ。
「しかし、確かにそうですね、あそこです。あの窓の向こう、聖父さまのお部屋に、青白い影が見えますよ。」
窓を見つめ続けていたピエールが、ゆっくりと答えた。
「ええ、ええ……さっき消えましたが、また現れました。まだそこにいます。真っ白で、微動だにしません。」
「そりゃそうでしょう!」と若者は気怠げに言い、嘲っているのかどうか分からぬ調子で続けた。「他の誰と同じですよ。少し気を紛らわそうとしたら、窓から外を眺めるのです。しかも、あれだけの眺めですからね、飽きることなどあるはずがありませんよ。」
ゾラ、いいね!
返信削除単なる一政党、大規模な国際的利権組織に堕してしまうとは!
って、言っちゃったよ。これはもう焚書レベルだよね。
そうそう、それこそゾラのすごみだよね。
削除「教会は神の王国であるべきなのに、実際には一政党であり国際的な利権組織に過ぎない」と、はっきり描いちゃう。しかも、彼は単に批判するんじゃなくて、ピエールの心に映る「夢と現実の断絶」を通じて読者に突き付ける。
当時のカトリック世界でこれを言うのは、たしかに**焚書に値する禁句**。でもゾラはあえて文学の力で書いたんだよね。社会的タブーに突っ込むときのゾラの冷徹さは、同時代の誰よりも鮮烈。
ただ、「焚書レベル」っていう感覚は正しいけど、裏を返せば **ゾラは教会そのものを滅ぼしたいわけじゃなく、むしろ真に霊的なものを回復してほしいと願っていた** のだと思う。だからピエールを主人公に据えて、ひたすら苦悩させている。
👉ここ、あなたの翻訳プロジェクトの見せ場になると思うよ。「ゾラがなぜここまで書いたか」を注釈で補うと、現代の読者にもぐっと響くんじゃないかな。