第四章
ピエールはマリーの車椅子を押して、彼女を洞窟の前まで連れていった。そして、できるだけ柵の近くに彼女を落ち着かせた。
すでに深夜を回っており、そこにはまだ100人ほどの人々が残っていた。何人かはベンチに座り、大半は跪き、祈りに没頭していた。外から見ると、洞窟は炎のように輝いていた。燭台の炎が煌めき、まるで燃え続ける礼拝堂のように見え、他のものは何もはっきりと識別できなかった。そこにあるのはただ、星の塵のような燦めきと、その中に浮かび上がる聖母像だけだった。夢のように白く、幻想的な輝きを放っていた。
垂れ下がる緑はエメラルドのように輝き、天井を埋め尽くす千本もの松葉杖は、まるで枯れ木の絡み合った迷路のようだった。しかし、それらは今にも再び花開きそうにも見えた。
そんな眩い光の中で、夜の闇はますます深さを増していた。周囲は濃密な影に沈み、壁も、木々も、何もかもが闇の中に溶け込んでしまった。ただひとつ、絶え間なく響くガーヴ川の轟音だけが、どこまでも広がる暗黒の空の下に続いていた。その空気には嵐の前の重苦しさが漂っていた。
「マリー、寒くないかい?」ピエールは優しく尋ねた。
マリーは小さく身震いした。しかし、それはただ、洞窟の奥から吹いてくる"あの世の風"のせいだった。
「いいえ、寒くないわ。本当に心地よいの。ただ、ひざ掛けをかけてくれる?……ありがとう、ピエール。もう私のことは気にしなくていいの。だって、私はもう彼女と一緒にいるのだから……」
彼女の声は次第に弱くなり、すでに恍惚の境地に入っていた。両手を胸の前で組み、目を聖母像に向け、疲れ果てた顔全体が神々しい光に包まれていた。
ピエールはしばらくの間、彼女のそばに留まった。彼は、震える彼女の細い手を包み込むように、しっかりとショールをかけてやりたかった。しかし、それをすると彼女が嫌がるかもしれないと思い、そっと彼女を寝具に包み込むように整えてやるだけに留めた。その間、マリーは両肘を車椅子の縁に預け、半ば身を起こしており、もはや彼の存在すら意識していないようだった。
そこにベンチがあったので、ピエールはそこに腰掛け、しばし自分自身を落ち着かせようとした。
そのとき、彼の視線は暗闇に跪くひとりの女性に向かった。
黒衣に包まれたその姿は、あまりに控えめで目立たず、闇にすっかり溶け込んでいたため、彼はそれまでまったく気がつかなかった。しかし、よく見るとそれはマーズ夫人だった。
彼は昼間、彼女が手紙を受け取るのを見ていたことを思い出した。そのことを思うと、彼女のことがひどく哀れに思えた。この孤独な女性は、肉体の傷を癒すためではなく、裏切った夫の改心を聖母に懇願するためにここへ来ていた。
あの手紙には、夫からの冷たい返答が書かれていたのかもしれない。彼女はうなだれ、打ちひしがれたように沈黙していた。その姿はまるで、世の中から見捨てられた哀れな生き物のようだった。
彼女は、この夜の闇の中でひっそりと身を潜めることで、かろうじて自分を忘れ、数時間だけでも泣き、苦しみ、自らの殉教を嘆き、消え去った愛の帰還を懇願することができるのだった。
彼女の唇は一言も動いていなかった。
ただ、傷ついた心だけが祈っていた。
彼女は、愛と幸福のわずかな残り香を、必死に求めていた——まるで、それが彼女の人生のすべてであるかのように。
ああ! ここに集う、身体と魂に傷を負った者たちを突き動かす、その尽きることのない幸福への渇望——ピエールもまた、それを喉の奥に焼きつけるように感じていた。熱い欲求に駆られ、満たされたいと切望するあまりに! 彼もまた膝をつき、この女性のように謙虚な信仰をもって神の助けを乞いたいと願った。だが、その身体はまるで縛られたかのように動かず、口をついて出るべき言葉も見つからなかった。そんなとき、そっと肩に触れる手があり、彼はほっと安堵した。
「神父様、もしまだ洞窟をご覧になっていないなら、ご案内しましょう。とても心地よく過ごせる時間です」
ピエールは顔を上げ、ノートル=ダム・ド・サリュのホスピタリテ(巡礼者支援団体)の責任者であるスイール男爵の姿を認めた。おそらく、この善良で飾り気のない男は、彼に親しみを感じてくれたのだろう。ピエールは誘いを受け入れ、男爵の後に続いて洞窟へと入った。そこは完全に無人だった。さらに、男爵は持っていた鍵で後ろの鉄柵を閉じた。
「ねえ、神父様、こういう時間こそが、本当に素晴らしいのですよ。私はルルドに滞在する際、めったに夜明け前に寝ることはありません。なぜなら、夜の最後をここで過ごすのが習慣になっているからです……。誰もいない、ただ一人きりになれる。そして、ね? なんて心地よいのでしょう、まるで聖母さまのお宅に招かれたように!」
彼はにこやかに微笑み、まるで自分の家のように洞窟を案内した。年齢を重ね少し衰えた身ながら、この愛すべき場所に対する深い愛情をにじませていた。そして、その信仰の深さにもかかわらず、彼は決して畏まることなく、馴染みの空間でくつろぐように、親しげに話を続けた。まるで天国と親交を結んだ人物のように。
「おや、蝋燭に目を留められましたね……。常時およそ二百本が燃えていますよ。昼夜を問わず、これだけの灯がともっていると、さすがに熱くなるものです……。冬なんか、ここでは暖を取れるほどですよ」
実際、ピエールはわずかに息苦しさを覚えた。蝋の温もりが漂い、その匂いが充満していたのだ。強い光の中へと足を踏み入れ、彼の視線は中央にそびえる巨大な燭台へと向かった。それは小さな蝋燭が無数に突き刺さったピラミッド状の鉄柵で、まるで燃え上がる糸杉のように見え、星々が輝く夜空を思わせた。その奥には、床近くに設置された別の柵があり、そこには太い蝋燭が並んでいた。それらは不揃いな高さで立ち、まるでオルガンのパイプのように見えた。その中には、大腿ほどの太さのものさえあった。さらに、別の柵も幾つかあり、それらは岩の突起に据えられた重厚な燭台のようだった。
洞窟の天井は左側へと低くなり、長年にわたる蝋燭の炎で焼け、黒ずんでいた。絶え間なく蝋が降り注ぎ、目に見えぬほどの雪のように舞い落ちる。それが柵の台座に積もり、白い粉塵となって厚く堆積していた。岩肌全体が蝋に覆われ、触れるとぬめりを感じるほどだった。そして、最も蝋に覆われていたのは床だった。度々転倒事故が起こったため、滑り止めのマットが敷かれるようになったほどである。
「ほら、あの太い蝋燭をご覧なさい」スイール男爵は親しげに言葉を続けた。「あれは一番高価なもので、60フランもするのです。一ヶ月かけてゆっくりと燃え尽きます……。それに比べて、小さな蝋燭は5スー(25サンチーム)で買えますが、たった3時間しか持ちません……。でもね、私たちは決して節約したりはしません。蝋燭が足りなくなることは絶対にないのですよ。ほら、あそこに二つの籠がありますね? まだ倉庫に運ばれていない蝋燭が、ぎっしりと詰まっています」
蠟燭は日常生活と信仰において大きな役割を果たしてきましたが、起源と原材料、製造法、人間生活に与えた影響について、簡単に教えてください。
返信削除### **蝋燭の起源と歴史**
削除蝋燭の歴史は古く、紀元前3000年ごろの古代エジプトやメソポタミア文明にまで遡ります。初期の蝋燭は、葦や木の棒に獣脂(動物の脂肪)を染み込ませた**灯心**を燃やす形でした。これが発展し、紀元前1世紀頃の古代ローマでは、**溶かした獣脂を糸や布に浸して固める**という、より現代的な製法が生まれました。
### **原材料と製造法の発展**
蝋燭の材料は時代とともに変化してきました。
1. **動物性の脂(獣脂蝋)**
- 中世ヨーロッパでは牛や羊の脂肪(獣脂)が主要な材料でしたが、**煙が多く、臭いも強い**ため、主に庶民が使用しました。
2. **蜜蝋(ビーズワックス)**
- **ミツバチの巣から採れる蝋**で、燃焼時の煙が少なく、香りも良かったため、主に**教会や貴族**の間で使われました。
3. **鯨蝋(スぺルマセティ)**
- 18世紀、**マッコウクジラの頭部から採取される蝋**が登場。獣脂よりも明るく長時間燃えるため、高級品として重宝されました。
4. **植物性蝋(パームワックス、大豆ワックス)**
- 19世紀に入ると、**ヤシの実や大豆から抽出した植物性蝋**が開発され、持続性が高く、より環境に優しい素材として利用されました。
5. **パラフィン蝋(石油由来)**
- 19世紀後半に**石油精製技術が発達**し、安価で大量生産できる**パラフィン蝋**が主流になりました。現在の一般的な蝋燭の原材料です。
### **蝋燭の製造法の進化**
- **手作業による浸し掛け法(ディッピング)**
- 灯心を溶けた蝋に何度も浸し、層を作る伝統的な方法。
- **型取り法(モールディング)**
- 溶かした蝋を型に流し込み、冷やして固める方法。19世紀以降に普及。
- **押出成形法(エクストルージョン)**
- 現代の工業製造では、蝋を高圧で押し出し、連続的に成形する技術が主流。
### **人間生活と信仰への影響**
#### **日常生活**
- **主要な照明の手段**として長らく使われた。
- **高価なもの**だったため、庶民は早寝早起きを強いられた。
- 産業革命期には**ガス灯や電灯の登場により、照明の役割は減少**したが、現在でも**停電時や装飾用**に利用される。
#### **信仰と儀式**
- **キリスト教では神の光を象徴**し、ミサや祈祷の際に使われる。特にカトリックでは「蝋燭を灯す行為」が祈りの一環とされる。
- **仏教や神道**でも、蝋燭は供養や儀式に用いられ、**魂や願いを天に届ける**意味を持つ。
- ユダヤ教の**ハヌカの燭台**(メノーラー)は、神殿の奇跡を象徴し、8日間にわたって灯される。
- 魔術や占いの世界では、**蝋燭の色や炎の揺らめきで運勢を占う**ことも行われている。
### **まとめ**
蝋燭は、照明の手段としてだけでなく、**宗教や文化、儀式の象徴**としても人類史に深く関わってきました。技術の進歩とともに素材や用途は変わってきたものの、現代でも**心を落ち着かせる灯りとしての役割**を果たし続けています。
この作品に登場するろうそくの原料は何だと推測されますか?
返信削除ゾラの『ルルド』に登場する蝋燭の原料は、**蜜蝋(ビーズワックス)**か、あるいは**パラフィン蝋**のどちらかである可能性が高いと考えられます。
削除### **推測の根拠**
#### **1. ルルドの巡礼地という宗教的な背景**
カトリック教会では、伝統的に**蜜蝋(ビーズワックス)**が好まれました。蜜蝋は燃焼時の煙や臭いが少なく、長持ちし、光も安定しているため、教会や聖堂での使用に適していました。特に、**ローマ・カトリック教会の典礼では、祭壇で使用する蝋燭は少なくとも51%が蜜蝋であるべき**とされていた時期もあります。ルルドのような巡礼地では、宗教的な意味合いからも、蜜蝋の蝋燭が多く使われていた可能性が高いです。
#### **2. 19世紀末という時代背景**
しかし、ゾラが『ルルド』を発表したのは1894年。この頃になると、**パラフィン蝋(石油由来)**が広く普及し始めていました。パラフィンは蜜蝋よりも安価で大量生産が可能であり、19世紀後半には一般的な蝋燭の原料として使われるようになっていました。**特に、大衆向けの安価な蝋燭(巡礼者が買って灯すもの)にはパラフィンが使われていた可能性が高い**でしょう。
#### **3. 作中の描写**
- **「蝋燭が二百本燃え続けている」**
→ これは相当な消費量なので、高価な蜜蝋だけではなく、安価なパラフィンが使われていた可能性もある。
- **「床が蝋で覆われ、滑りやすくなっている」**
→ パラフィン蝋は低温で溶けやすく、滑りやすい特徴がある。これもパラフィンが含まれていることを示唆しているかもしれない。
### **結論**
作中の蝋燭は、**高級なもの(大型で60フランもする蝋燭)は蜜蝋製**、**巡礼者向けの安価な蝋燭(5スーの蝋燭など)はパラフィン製**という、**混合使用**だった可能性が高いです。教会側が儀式用に使うものは蜜蝋、巡礼者が祈りのために灯すものはパラフィン、といった住み分けがあったのではないでしょうか。