2025年5月5日月曜日

ルルド 第125回

  そして、旗のあとには、まだもう一つの驚異があった。

 それは、金や銀の無数のハート形の奉納飾り――至るところに掛けられ、まるで夜空の星のように壁面を輝かせていたのだ。それらは神秘のバラの模様を描き、花綱やガーランドのような形に配され、柱の上を這い上り、窓を縁取り、奥の礼拝堂を星のようにちりばめていた。

 トリフォリウム(ギャラリーの上層部分)の下には、ハート形の飾りを用いて、聖母がベルナデットに語った言葉の数々を大きな文字で書くという巧みな発想が施されていた。

 こうして、身廊の周囲に長い帯のようなフリーズ装飾が続き、幼い魂たち――文字を一生懸命につづって読む子どもたちの心を喜ばせていた。
 それはもう、あふれんばかり、きらめきあふれるハート形たち。
 その無数の数に圧倒されながらも、人々の震えるような感謝の手が、ひとつひとつ奉納したのだと思うと、胸を打たれずにはいられなかった。

さらに、他にも意外な奉納品の数々が飾りに加わっていた。
ガラスの額に収められた花嫁のブーケ、名誉十字章、宝石類、写真、ロザリオ、果ては拍車まで――。
士官の肩章、そして剣もあり、中にはある奇跡的な回心の記念として奉納された見事なサーベルまで見つけることができた。

だが、それだけではなかった。
他にもさまざまな種類の富と宝物が、あらゆるところから光を放っていた。
大理石の像、ダイヤモンドをちりばめた王冠、
ブロワでデザインされ、フランス中の婦人たちによって刺繍された見事なタペストリー、
そしてローマ教皇から贈られた、エナメル細工が施された黄金の棕櫚の枝。
天井から吊るされたランプの数々もまた奉納品で、中には純金製の繊細な細工のものもあった。
その数はもはや数えきれず、身廊に星のようにちりばめられ、宝石のような光の天体を作り出していた。
祭壇の前には、アイルランドから贈られた彫金の傑作のランプがひとつ。
バランスの取れた芸術品だった。
他にも、ヴァランス、リール、そしてマカオ(なんと中国から!)から贈られたランプは、宝石のように輝く真の宝物だった。

そして、聖歌隊席の二十のシャンデリアが点灯し、
何百ものランプや蝋燭が一斉に灯される夜の大典礼のとき――
ああ、その輝きたるや!
教会全体が燃え上がり、 無数の小さな聖火が、金と銀のハート形飾りに映り込み、千の光となってきらめいた。
まるで、奇跡の業火。
壁は炎の流れに濡れ、目の眩むような天国の栄光の中に足を踏み入れる感覚だった。
その間にも、数えきれない旗が、あちこちで絹やサテンやビロードを広げ、血を流す聖心、勝利の聖人たち、そして奇跡を生む微笑みをたたえた聖母たちが刺繍されて揺れていた。

 ああ、このバシリカ(大聖堂)よ、
 ここではいくつもの式典が、どれほど華やかな壮麗さを繰り広げてきたことだろう!
 礼拝が、祈りが、聖歌が、決して途切れることはない。
 一年中、香が焚かれ、オルガンが響き、
 ひざまずく群衆が魂のすべてを込めて祈り続けていた。
 果てしないミサ、晩課、説教、祝福式、
 日ごと繰り返される霊的な修練、
 比類なき荘厳さで祝われる祭礼。
 ささいな記念日でさえ、華やかな祭典の理由となった。

 すべての巡礼者に、必ず輝きの一端を与えねばならなかった。遠くから訪れた、この苦しみを抱える貧しい人々を――慰めと喜びを胸に帰らせ、開かれた天国の幻影を心に焼きつけて帰らせるために。

彼らは神の贅沢を目の当たりにし、その永遠の恍惚を胸に刻んでいった。質素な、裸同然の小部屋で、痛みにあえぐ寝台の前で、キリスト教世界のあらゆる片隅で、この大聖堂は思い起こされるだろう。
あの輝く富の光景として――
それは約束の夢、償いの夢、
未来の命の宝――
この地上の長い貧しさの果てに、
必ず貧しい者がたどり着く場所として。

 そしてピエールには、何の喜びもなかった。これらの華麗さを見ても、慰めも希望も感じなかった。彼の中の苦しみはますますひどくなり、心の内は暗闇で満たされていた。それは嵐の暗闇であり、思考や感情が吹き荒れ、吠えたけるような闇だった。

 マリーが車椅子から立ち上がり、「癒やされた!」と叫んだその瞬間から――彼女が自らの足で歩き出し、あれほど力強く、生き生きとした姿を見せたその時から――ピエールの胸には、計り知れない絶望がこみ上げていた。
だが、彼は兄のように彼女を愛していた。彼女が苦しみから解放されたのを見た時、限りない幸福を感じたのだ。

――では、なぜ? なぜ彼は、彼女の幸福にここまで打ちのめされなければならないのか?

 今の彼には、祈りのうちに涙を流し、輝きを取り戻した美しさで光り輝くマリーを見つめることすらできなかった。彼女を見るたびに、彼の哀れな心は死に至る傷を負ったかのように痛んだ。それでも彼はそこにとどまろうとした。視線をそらし、代わりにマッシアス神父を見ようと努めた。神父は今も祭壇の前で嗚咽に身を震わせていた。その無我の没入、神への愛という燃える幻影の中に自らを溶かす姿を、ピエールは羨んだ。

 一瞬、彼はベルトーに話しかけ、そばの旗を眺めて見せ、説明を求めるふりをした。

「どれだい? あのレースの旗かい?」
「ええ、あの、左側の」
「それは、ル・ピュイから奉納された旗だよ。紋章はル・ピュイとルルドのもので、ロザリオで結ばれているんだ…見てごらん、このレースの細かさ、手のひらに収まるくらいだ」

 だがその時、ユダイン神父が近づき、式典の開始を告げた。オルガンが再びうなりを上げ、聖歌が歌われた。祭壇の上、聖体が太陽のように輝き、金銀のハート形奉納物が星のようにきらめきに囲まれていた。

 ピエールは、もうこれ以上そこにいる力が残っていなかった。マリーのそばにはジョンキエール夫人とレイモンドが付き添っている。彼女たちが支えてくれるのなら、自分が立ち去ってもいい。どこか闇の片隅に身を隠し、やっと涙を流せる場所へ行こう。彼は一言、シャセーニュ医師との約束があると言い訳をし、退出の許しを得た。

 だが不安が残った。――これだけの信者の波に押し流される中で、どうやって外に出ればいいのか。そのとき、ひらめきが訪れた。彼は聖具室を抜け、内部の狭い階段を降り、地下聖堂(クリプト)へ向かった。

 突然、そこには深い静けさが広がっていた。上の世界の歓喜の声と輝きは消え、墓所のような陰影と沈黙が支配していた。岩を穿って作られたクリプトは、細い二つの回廊からなり、その間には聖堂を支える大きな岩の塊が横たわり、回廊の奥には小さな灯りが絶え間なく灯る地下礼拝堂があった。

 柱が森のように立ち並び、半ば闇に沈むその空間には、神秘の震えが漂っていた。
壁は飾りもなく、まるで墓の石――人が最後の眠りにつくための石でできていた。

 回廊沿いには、上から下までびっしりとエクス・ヴォトの大理石の板が貼られ、その前に並ぶのはずらりと二列の告解場だった。
――ここでは、この死んだ大地の静けさの中で、告解が行われているのだ。
世界の四方から集まった罪びとたちが、あらゆる言葉を話す司祭たちに罪を打ち明け、赦しを得る場所だった。

2 件のコメント:

  1. 奉納品の嵐! 様々な金属等の製造技術は、まずは実用に即したところから始まって、宗教的な装飾の技術が発展し始めると、それは実用とのフィードバックを繰り返しながら、現在の様々な技巧、技術となり、現代の芸術品や精密機械等の製造技術へとつながっているのでしょうかね。ねこじいなら、何か具体的な例を挙げて説明してくれるかな?

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    1. おお、いい視点だね!「奉納品の嵐」とはまさにその通りで、あの光景には人間の技術史の縮図が隠れてるんだ。
      では、**ねこじい**が語ろう――ちょいと座布団一枚くれたまえ(笑)。

      まずな、金銀の奉納品――いわゆる「エクス・ヴォト」ってやつは、信仰の対象であると同時に、**金属加工技術の粋**でもあったんじゃ。
      で、ここで肝心なのは、宗教が技術の「需要」を生み出したってことなんじゃよ。たとえば中世ヨーロッパの修道院、教会が「もっと立派な聖遺物箱を」「もっときらびやかな十字架を」って求めたことで、金細工師や彫金師たちが腕を磨く理由ができたんじゃな。

      **具体例を挙げるなら…:**

      👉 **ゴシック大聖堂のステンドグラス**
      最初は小窓用のガラスを作るだけの技術だったのが、教会が「聖書物語を光で描きたい」と求めたことで、着色技術、鉛のフレーム技術、さらには大面積の構造技術に発展したんじゃ。
      で、これがやがて**近代建築のガラス工法**につながる。今の高層ビルの窓も、ルーツをたどれば教会の窓に行き着くわけじゃ。

      👉 **時計技術**
      教会の鐘楼に「正確な時を告げる装置が欲しい」という需要があった。これが**塔時計**として技術が発展。
      その技術が貴族の「携帯用の時計が欲しい」というわがまま(笑)に応えて小型化され、**懐中時計 → 腕時計 → 精密機械産業**へと流れていったんじゃ。

      👉 **鋳造技術**
      教会の鐘や大きなブロンズ像を作る技術も、戦争の時には大砲の鋳造に転用される。逆に戦争技術の改良が、平時には教会の装飾品や日用品の金属加工に還流する。
      これ、まさに\*\*「実用と装飾のフィードバック」\*\*じゃな!

      だから、奉納品や宗教的な装飾は、単なる信仰の産物じゃなくて、社会全体の「技術革新のブースター」みたいな役割を果たしておったんじゃよ。
      で、それが積み重なって、今の精密機械、医療機器、芸術品まで続いている――この歴史の線を思うと、なんともロマンじゃろう?

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