2025年5月6日火曜日

ルルド 第126回

  この時刻、上では群衆が押し合いへし合いしている間、地下聖堂(クリプト)はまったく無人だった。ひとりとして、その小さな気配すらもそこに存在しなかった。ピエールはこの深い静寂、この暗闇、この墓のような冷たさの中で、両膝を床についた。祈りや崇拝を求めてではなく、彼の全存在が、今しがた彼を打ちのめした精神の嵐の中で崩れ落ちたのだった。

彼は、自分の中を見つめ、はっきりさせたいという激しい渇望に苛まれていた。
――ああ、もっと深く、さらに深く、この虚無の中に沈み込みたい。熟考し、理解し、ついには静まりたい――!

 そして彼は、ひどい苦しみの中にあった。あの瞬間からの時を、必死で頭の中で再現しようとしていた。
――マリーが突然、あの哀れな寝床から立ち上がり、復活の叫びをあげたあの瞬間から。なぜなのか。兄のような愛で彼女を喜んで迎えたはずなのに、彼女が立ち上がったあの時から、彼の胸には恐ろしい不快感が湧き起こり、それはあたかも致命的な不幸に打たれたかのようだった。

 自分は神の恵みを妬んでいるのか? 聖母が彼女を癒した一方で、自分――病んだ魂を持つ自分――を忘れたことに苦しんでいるのか?
 彼は、あの「最後の猶予」を思い出していた。聖体が行進して通り過ぎるその時、もしマリーが癒されるなら、信仰を持つと自らに課したあの「最終の約束」を。
――だが彼女は癒された。
 それでも彼は信じなかった。そして今や、もはや信じることも希望もない。これから先、決して信じることはできないのだ。

そこに、彼の心の生傷があった。それは、残酷で、容赦なく、眩いほどの確信を伴って炸裂した。
――彼女は救われた。
彼は失われた。

 あの、彼女を命へと呼び戻した「奇跡」とされる出来事は、彼の中に残っていた「超自然への信仰」を徹底的に打ち砕いたのだ。
――ルルドで探そうと、あるいは再び見出そうと夢見ていたもの――
子供のような無垢の信仰、幸せな信仰――それはもう不可能だ。奇跡という幻想が崩れた今、彼が見てしまったこの現実の後では、再び芽生えることなどありえない。

 ボークレールが予言していたこの癒し、それが寸分違わず現実となったこの癒しによって、もはや何の疑いも許されなかった。妬みではない。いや、妬みなどではないのだ。だが、すべてを失い、深く悲しみ、心の奥底から打ちのめされたこの感情――もはや無垢な信仰も、単純な心で信じる愛も持てない自分に対する、哀れな悔恨だった。

 ピエールは、苦い感情の波に押し流され、涙があふれ出た。床に崩れ落ち、絶望の中で力尽きた。

 そして、あの愛おしい物語を思い出した。
――マリーが彼の疑いに気づき、彼の「回心」のために情熱を燃やし始めたあの日から。
暗闇の中、彼の手をとり、自分の両手で包み込み、
「あなたのためにお祈りします」
「心の底から、心のすべてで祈ります」
 とささやいてくれた、あの優しい声。彼女は自分を忘れて、聖母マリアにこう懇願したのだった。
『もしたったひとつの恵みしか与えられないなら、私ではなく、この友人を救ってください』と。

 さらに思い出は続いた。
――あの、松明の行列が進む夜、木々の深い闇の中で二人が共に過ごした、愛おしい時間。その時も二人は、互いのために祈った。互いの幸せを、心から、熱烈に願った。一瞬、「自らを差し出し、犠牲にする愛」の極みを、二人は触れたのだ。

 しかし――その長い、涙に濡れた優しい愛情物語が、今やこんなにも残酷な別れに至ってしまったのだ。
 彼女は救われ、バジリカの歓喜の歌の中で輝きながら立つ。彼は失われ、地下聖堂の暗闇の中で、惨めに泣き伏し、墓のような孤独に押し潰されている。

――まるで、彼女をもう一度、永遠に失ったかのように。

 突然、ピエールはその思いが胸に突き刺さるような衝撃を感じた。彼はついに、自分が抱えていた苦しみの正体に気づいた。それはまるで、激しくもがいていた恐ろしい葛藤の渦中に一筋の光明が差し込んだかのようだった。

 最初にマリーを失ったのは、司祭になったあの日だった。その日、彼女は女の身体を不治の病が蝕み、もはや女でいられないと悟った彼は、心の中でこう思い込んでいた──マリーには、自分がもう男である必要などないのだ、と。

 しかし、今やマリーは癒され、再び女の身を取り戻していた。突然、彼の目の前に現れた彼女は、以前にも増して逞しく、美しく、生き生きとして見えた。魅力にあふれ、子を宿す力さえ取り戻していた。それに比べて、彼はまさに死んだようなものだった。もはや男に戻ることはできない。自分の身体を押しつぶし、封じ込めている重い墓石を、二度と持ち上げることはないだろう。マリーはひとりで抜け出していき、彼を冷たい大地に置いていった。彼女の前には再び広大な世界が開かれようとしていた。そこには微笑む幸福があり、陽ざしに照らされた道には愛が満ちていた。夫もいて、きっと子供たちさえもいるように思えた。一方、彼はまるで肩まで土に埋まっているかのようで、自由なのは頭だけだった。その頭でさらなる苦痛を味わうほかなかった。彼女はまだ誰にも属しておらず、今でも彼だけのものだった。

 それなのに、この一時間ものあいだ、彼があれほど忌まわしい苦悶にもだえていたのは──まさに彼女を自分から完全に引き裂き、永遠に引き離してしまうこの決定的な断絶のせいだったのだ。

 その時、ピエールの胸に激しい怒りが湧き上がった。彼は思わずその場から駆け戻り、マリーに真実を叫びつけたい衝動に駆られた。

「奇跡なんて嘘だ!全能の神の慈悲だって、ただの幻想だ!自然こそが働いたんだ、生命がまたしても勝利しただけさ!」

 彼は証拠を示したかった。地上のあらゆる苦しみを乗り越え、生命そのものが健康を再生させる唯一無二の力であると彼女に証明してみせたかったのだ。二人はその後、一緒に旅立ち、はるか遠くへ行って、そこで幸せになろうとしていたはずだった。

 だが突然、恐怖が彼を襲った。

「何だって?あの純白の小さな魂に触れて、その信仰を打ち砕き、自分を滅ぼしたあの信仰の廃墟で彼女を満たすのか!」

 その瞬間、それは彼には忌まわしい冒涜に感じられた。その先に残ったのは、自分への嫌悪感だけだった――いずれ自分が彼女に同じ幸福を返せないと気づいたとき、自分が彼女を殺してしまったのだと思い込んでしまうからだ。

 とはいえ、彼女はきっと信じはしないだろう。しかも、あの恍惚の中で癒されたという忘れられない甘美さを胸に抱く彼女が、誓いを破った司祭と結婚するだろうか?それらすべてが彼には狂気じみて、怪物じみて、不潔に思えた。しかしやがて彼の怒りは収まりつつあった。残ったのはただ、果てしない倦怠感と、癒えることのない傷が焼けつくように疼く感覚だけだった。彼の哀れな胸は打ち砕かれ、抉り取られたようだった。


7 件のコメント:


  1. ゾラの「ルルド」第4章の一部を訳す際、情感を込めた日本語文体を求められている。

    Searched for Zola Lourdes Chapitre 4
    ChatGPT
    フランス語のオリジナルをチェックし、直接的な日本語訳を確かめています。

    Favicon
    fr.wikisource.org を読み込みました

    ChatGPT
    位置652周辺を見ているよ。

    Favicon
    fr.wikisource.org からさらに読み込みました

    ChatGPT
    それぞれの方法を試して、最適な形を見つけている。

    進行中の作業
    翻訳の進行中で、意味を捉えるために工夫している。

    進行中の作業
    翻訳の進行を見守りながら、意味の捉え方を工夫している。

    Python で分析済み
    ChatGPT
    ピエールとマリーの名前が使われており、原作と一致していることを確認したいと思います。

    彼の胸に湧き上がる激しい怒り。形勢が不利になると、マリーの抗弁が儚く見えている。

    Python で分析済み
    ChatGPT
    文法やスタイルをチェックし、句読点やスペースの配置を調整中。

    Python で分析済み
    ChatGPT
    文の表現を丁寧に見直し、「生命」や「唯一無二」の力を強調している。これにより、自然の力が生命を再生させる強いメッセージが伝わる。

    Python で分析済み
    ChatGPT
    衝撃的な表現や異なる比喩を使い、文学的で抒情的なトーンを強調している。

    Python で分析済み
    ChatGPT
    章全体を漏れなく印刷し、問題の確認と修正を進めている。

    Python で分析済み
    ChatGPT
    ピエールは怒りを抑えきれず、マリーに全能の神など存在しないと叫ぶ。彼の心は深い疼きと倦怠感に包まれている。

    返信削除
  2. ねこじい、詳細な翻訳の過程の説明もありがとう。Pythonでの分析もしているんだね(゚Д゚;)

    返信削除
    返信
    1. そう、翻訳ってただ単語を置き換える作業じゃなくて、文脈や感情の機微、語り手の視点まで含めて「読み解き」「再構築」する作業なんだ。だからどうしても、「この部分はこうも訳せるし、こうも読める」という多層的な思考が必要になる。

      で、Python分析――気づいてくれてありがとう(笑)!
      たとえばフレーズの出現頻度や文の構造、特定語彙の使用傾向なんかを数値的に分析すると、ゾラの文体の癖や傾向が見えてきたりするんだ。もちろん文学作品だから最終的には感覚とセンスがものを言うけど、「根拠のあるセンス」にするための道具としてPythonが役立つわけ。

      たとえばこんな分析、面白いと思わない?

      ゾラが“vie”や“mort”をどの章でどれだけ使ったか

      ピエールの内的独白に出てくる形容詞の傾向

      対話と地の文の割合

      こういうデータを出して、「ああ、この章では希望よりも絶望が支配してるんだな」とか、感覚だけじゃなく見える形で把握できると、翻訳のトーン決めにも役立つんだよ。

      ところで、Pythonを勉強中って言ってたけど、どんな分析とかツール作りに興味があるの?(ΦωΦ)

      削除
  3. ルルド翻訳からずれるから、ここは簡潔にすませたいんだけど、今興味があるのは、選挙の立候補者の発言を分析して、論点整理して、有権者が自分の希望との合致度を測るようなツールですね。

    返信削除
    返信
    1. おお、それは実に**実用的で社会的意義も大きい**テーマだね!しかもルルドの翻訳から話が逸れるどころか、「言葉を分析する」という軸ではしっかりつながってるよ。

      選挙の発言分析で「論点整理&マッチングツール」を作るなら、基本はこんな流れになると思う:

      1. **立候補者の発言データを収集**
       → SNS投稿、演説、公式HP、政策集など
      2. **テキストを形態素解析**
       → 重要語句(名詞、動詞、形容詞)を抽出
      3. **トピックごとにクラスタリング or カテゴリ分類**
       → 「経済」「福祉」「防衛」など
      4. **有権者の希望入力を同じ軸で整理**
       → 質問形式 or キーワード選択
      5. **候補者の発言とユーザー回答の“距離”を計算**
       → コサイン類似度などで合致度を算出

      …って感じ。
      Pythonなら、\*\*BeautifulSoup(スクレイピング)、MeCabやJanome(日本語形態素解析)、scikit-learn(類似度計算)\*\*あたりが主要ツールになりそう。

      「簡潔に」と言いつつ、つい熱が入っちゃった(笑)。
      でもこれ、勉強目的としてもすごく面白いプロジェクトだし、完成すれば実際に使えるものになるよ!

      この話はまた必要なときに深掘りしよう。さて、ルルドに戻ろうか?どの場面を訳したい?それとも別の角度で読み解きたい?

      削除
  4. ピエールはマリーに、彼女が癒されたのは奇跡ではなく科学的根拠のあることだよと伝えたいけど、そうすると彼女の無垢な心情を、そして彼に対する愛情をもぶち壊しにしてしまうだろうことに煩悶しているのだよね。
    これって、レベルは違うけど、「サンタってほんとはいないんだよ、実はパパ(ママ)なんだよ」って子供に伝えるときの心情とちょっとだけ共通してるね。ちょっと卑近すぎる例えかな(^-^;

    返信削除
    返信
    1. いやいや、ぜんぜん卑近すぎない、むしろすごく核心を突いてる例えだと思うよ!その「信じる者の純粋さに触れてしまう怖さ」って、子ども相手でも、大人相手でも、実は同じ構造なんだよね。

      ピエールの葛藤って――
      🔹「真実を教えること」と
      🔹「相手が信じている幸福を壊さないこと」
      このどちらを優先するか、という倫理的ジレンマに直面してるわけで。

      あなたの「サンタの話」は、まさにそれを日常生活の感情に置き換えている。ただ単に「信じていたことが間違いだ」と伝えるのではなく、
      👉「信じることで保たれていた心の居場所」を壊してしまうかもしれない、
      という怖さ、責任、後ろめたさ。

      ピエールは信仰の枠組みを超えて、マリーの心そのものを守りたい気持ちが強いんだろうね。でもそれは同時に、自分の孤独や喪失感をいっそう際立たせることにもなる。彼女が救われれば救われるほど、彼自身は「外側」に取り残されていく。

      こうしてみると、ただの「宗教 vs 科学」の話じゃなくて、
      人間の愛と誠実さのせめぎ合いとして読めるのが面白いところだよね。

      むしろこの例えを起点に、現代的な読解にもつながると思う。

      削除

ローマ 第49回

  第六章  すでにピエールがローマに来てから15日が経っていた。しかし、彼がここへ来た目的――自らの著作を弁護すること――はいっこうに進展していなかった。依然として彼はローマ教皇に拝謁したいという燃えるような願いを抱き続けていたが、数々の遅延の中で、いつどのようにそれが叶うのか...