マリーがもう歩けるようになった今、ピエールは担架係のサスペンダーを外しており、スータンの上には巡礼団員の赤十字章だけをつけていた。到着の朝の、あの蒼ざめた夜明けに、恐怖と緊張のなかでかろうじて目にしたこの駅が、今、彼を驚かせた。広々としたプラットフォーム、ゆったりとした構造、どこか明るい楽しさに満ちていたのだ。山々は見えなかったが、待合室の向こう側には、緑の丘陵がやさしくせり上がっていて、心にしみるような美しさだった。
この午後は、なんとも言えないやわらかさに満ちていた。空には乳白色の薄雲が一面を覆い、太陽の光をやさしく拡散させていた。まるで真珠の粉をまいたような光がふんわりと降りそそいでいる。世間では、こういう天気のことを「お嬢さん日和」と呼ぶのだろう。
時計が3時を打ったとき、ピエールが駅の大時計を見上げていると、デザニョー夫人とヴォルマール夫人がやって来るのが目に入った。その後ろからはジョンキエール夫人とその娘レイモンドが続いていた。彼女たちは、病院から馬車に乗って来たようで、すぐに自分たちの客車を探し始めた。
最初に一等車の自分たちのコンパートメントを見つけたのはレイモンドだった。
「ママ、ママ、こっちよ、見つけたわ!」
「ちょっと一緒にいてちょうだい。病人たちはまだ来てないんだから、自分の荷物を置く時間はあるでしょ?」
ピエールはそのとき、ふたたびヴォルマール夫人と向かい合った。ふたりの視線が交わされた。だが彼女は、もはや別人のようだった。ピエールには、最初それが彼女だとわからなかったほどだ。彼女はほんのわずかにまぶたを震わせただけだった。黒衣をまとった女性――ゆるやかに、怠惰なように動く、目立たぬ慎ましさを湛え、ひっそりと消えていくことに喜びを感じているような姿――がそこにあった。かつて燃えさかっていたその大きな瞳の炎は消えており、時おりその無関心のヴェールの下で、かすかにきらめく火花のように蘇るのがやっとだった。それも、まるで闇のもやが灯を覆っているかのようだった。
「まあ、ひどい偏頭痛で……」と彼女は繰り返していた。「ご覧なさい、まだ自分の頭が自分のものじゃない気がして……。旅をすると毎年こうなんです。私、必ずこうなるんですのよ」
一方のデザニョー夫人はというと、いつも以上に活気があり、顔には血色が戻って、髪も乱れていた。
「まあまあ、今のところ、あなたと同じようなものですわ。今朝からよ、神経痛がもう……! でもね――」
彼女は身をかがめて、ささやくように言った。
「でもね、どうやら来たかもしれないの。あの子よ、ずっと待っていた子……なかなか授からなかったけれど……。聖母様にお祈りしたの、それでね、目が覚めたらひどく気分が悪くて……ほんとうに具合が悪くて! すべての兆候がそろってるの……! あの人ったら、トゥルーヴィルで待ってるのよ。どんな顔をするかしら。きっと、きっと、喜ぶわ!」
ヴォルマール夫人は、その話を静かに、真剣な面持ちで聞いていた。そして、穏やかな口調でこう言った。
「ええとね、私、知ってる人がいたの。子どもはもう絶対いらないって思ってた人……でもね、その人、ここに来て、それっきり子どもができなくなったのよ」
だが、ジェラールとベルトーがそのご婦人方を見かけて、急いで駆け寄ってきた。午前中、〈ノートル=ダム・デ・ドゥレール病院〉で、二人は正式に訪れ、ジョンキエール夫人がリネン室の隣にある小さな応接室で彼らを迎えた。そこで、非常に丁寧に、多少急ぎ足の申し出であることを微笑ましい素直さで詫びながら、ベルトーは従兄弟ジェラールのためにマドモワゼル・レイモンドの手を求めた。
たちまち、場の空気は和らぎ、母親は感無量の面持ちで「ルルドで出会ったご縁なら、きっとこの若い二人に幸運をもたらしてくれるわ」と言った。こうして、全体の満足のうちに、婚約はほんの数語でまとまった。さらには、9月15日に、カーン近郊の〈ベルヌヴィル城〉で再会する約束も取り交わされた。そこは外交官である伯父の所有する邸宅で、ベルトーがその伯父にジェラールを連れて行くと約束したのである。
その後、レイモンドも呼ばれ、恋人の手を取って頬を赤らめながら、うれしそうに両手を重ねた。
ジェラールは早速、はりきって尋ねた。
「今晩、枕が必要ですか? ご遠慮なく言ってください。このご婦人方にも、必要なら差し上げますよ」
だがレイモンドは、にこやかに断った。
「いいえ、いいえ! 私たちはそんなに繊細じゃありませんわ。そんなものは病人のために取っておいてください」
それに、ご婦人たちは皆、一斉にしゃべっていた。ジョンキエール夫人は「疲れたわ、ほんとに、もう生きてる気がしないくらい」と言いながらも、幸せそうに微笑み、娘と若者を見守る目は愛情にあふれていた。二人が話しているあいだも、彼女のまなざしはあたたかく彼らを包んでいた。
だが、ベルトーとジェラールにはもう務めがあり、長居はできなかった。別れ際にもう一度、約束を念押しした。
「いいですね、9月15日、ベルヌヴィル城で!」
「ええ、ええ、もう話はついてます!」
そして再び笑い声が上がり、握手が交わされ、目と目で交わされる愛情と喜びのまなざしが、言葉にできない想いを語っていた――群衆の中にあってもなお、静かに。
「まあ!」と、小柄なデザニョー夫人が叫んだ。
「あなたたち、十五日にベルヌヴィルへ行くの? でも、うちの夫が言うように、20日までトルーヴィルにいるなら、私たちも遊びに行けるわね!」
彼女は沈黙を守っていたヴォルマール夫人の方へ身を乗り出した。
「あなたもいらっしゃいよ。あそこでまたみんなで会えたら、きっと楽しいわ!」
若い女はゆるやかに手を動かし、疲れた無関心の表情で答えた。
「…私? 私はもう、楽しみなんておしまい。家に帰ります」
そのときまた、彼女の目とピエールの目が交差した。彼は婦人たちの傍らに立っていたのだが、彼女が一瞬、心を乱したように見えた。そしてその死んだような顔に、言いようのない苦しみの表情が一瞬、影のように浮かんだ。
そこへアスンプシオン会の修道女たちが到着し、ご婦人方も彼女たちのもとへと向かった。フェラン医師は、修道女たちと一緒に馬車で来ていて、まず炊き出し車に乗り込み、それからサン=フランソワ修道女が高い乗り込み口を上がるのを手助けした。
彼はそのまま、厨房に改装された炊き出し車の出入り口に立っていた。車内には旅のための食料――パン、ブイヨン、ミルク、チョコレート――が積まれていた。歩道に残っていたヒヤシンス修道女とクレール・デ・ザンジュ修道女は、彼に小さな薬箱や、その他の小荷物、雑多な荷物を手渡していた。
「全部そろってる?」とヒヤシンス修道女がたずねた。「よし、それなら今度はあなたが自分の隅っこに寝転んで、ぐっすりお休みなさいな。使ってもらえないって文句ばかり言ってたんですから」
お嬢さん日和の下、登場人物たちがぞくぞくと集まってきますね。そして、なんだか幸せなお知らせが次々と。悲劇への急降下に向かってジェットコースターがソロソロと傾斜を上っているように思えて身構えている私(-_-;)
返信削除まさにその通りですね……!このあたりの描写、まるで〈奇跡の余韻に酔った束の間の祝祭〉とでも言うべき一幕。柔らかい陽光、笑顔、結婚の約束、再会の予定。まるで舞台の上で登場人物たちが最終カーテンの前に揃い踏みするような、幸福の総決算といった様子です。
削除でも、ユーザーさんの「ジェットコースター」のたとえ、見事な直観です。ゾラはこういう「穏やかな高揚感」から、見事に「奈落の闇」へと読者を突き落とすんですよね。しかも、それを唐突にではなく、空気の微細な震えとして前もって滲ませてくる。たとえば――
> 「彼女の顔に言葉では言い表せない苦悩の表情がよぎった」
> 「楽しみは終わったの、私は帰るわ」
マダム・ヴォルマールのこの一言、まるで幸せな祝宴の上にふっと差し込んだ黒雲の影のようです。
ゾラって、人間の希望や幻想を「たしかにそこにあった」と感じさせながら、それをあっけなく引き裂く作家ですよね。だからこそ美しく、そして恐ろしい。まるでルルドという場そのものが、彼の筆にかかると「希望と絶望がせめぎ合う実験室」になってしまう。
続きを読んでいくのが怖くもあり、楽しみでもあり……「お嬢さん日和」からの天候の変化を、ぜひ一緒に観測していきましょう☀️→🌫️→🌩️(あるいは……🌧️+🌈?)