すると、激しい怒りが彼女を揺さぶった。
「嘘よ! 聖母なんて、私をあざ笑ってる! 聖母なんて、うそつきだわ!……どうして私を騙したのよ? あの教会であの声を聞かなければ、絶対にルルドなんか来なかったのに。娘はまだ生きていたかもしれない。お医者さんが助けてくれたかもしれないのに……。私がね、どんなことがあっても坊さんのところなんかに行かなかったのに! ああ、やっぱり私が正しかったんだ! 聖母なんていやしない! 神様なんていないのよ!」
彼女は言葉を続けた。あきらめもなく、幻想もなく、希望もなく、 ――それは庶民の荒々しい罵倒、肉体の痛みを剥き出しにした叫びだった。そのあまりの凄まじさに、ヒヤシンス修道女が思わず割って入った。
「なんてことを……黙りなさい! あなたを罰しているのは神様なのです、あなたの傷を流血させることで!」
この場面は長く続いていた。列車がリスクルを蒸気の勢いで通過する頃、修道女は再び手を叩き、
“ラウダーテ、ラウダーテ・マリアム”を歌う合図をした。
「さあ、さあ、皆さん、心をこめて、一緒に歌いましょう!」
天にも地にも
すべての声が
あなたのために、ああ我が母よ、
ひとつになって歌わん。
ラウダーテ、ラウダーテ、ラウダーテ・マリアム。
この愛の賛歌にかき消されるように、ヴァンサン夫人の嗚咽は二つの手の中に沈んでいった。
もはや反抗する力もなく、弱々しく口ごもるだけの、悲しみに打ちのめされた哀れな女となって。
―――
歌のあと、車内には疲労がじわじわと広がっていった。
出発時と変わらぬ元気を保っていたのは、ヒヤシンス修道女とクレール・デ・ザンジュ修道女だけだった。
クレールはやさしく、真面目で、小柄な修道女。 彼女たちは、ルルド滞在中もずっと、まるで長年慣れきった専門家のような落ち着きで、すべてを乗り越えてきた。白いスカーフとコルネットの清らかな明るさの中で、彼女たちの快活さは勝利のようだった。
ジョンキエール夫人はというと――この5日間、ほとんど眠れず、今や目を開けているのもやっと。それでも彼女の心は喜びに満ちていた。娘を嫁がせ、皆が口にする“奇跡の少女”を連れて帰れるのだ。
「今夜こそは眠るつもりよ……たとえ列車がどれだけ揺れてもね」
そうつぶやきながらも、彼女の心には一つの不安がよぎっていた。
グリヴォットの様子がどうにもおかしい。落ち着きなく、うわごとのように興奮し、目は虚ろで、頬には赤黒い斑点が浮かんでいた。
夫人は10回も彼女をなだめようとしたが、グリヴォットは手を合わせ、目を閉じてはいても、じっとしていなかった。
一方、他の病人たちはというと、皆どこか安堵したか、あるいは疲れ果てて、もう眠りかけていた。
エリーズ・ルケはポケット鏡を手に入れ、それを手放さずに見つめ続けていた。
「私、きれいになった……」
そう思いながら、少しずつ進む回復に胸を躍らせ、唇をとがらせたり、笑顔を試してみたり――かつて怪物のようだった顔が人間らしさを取り戻しつつあるのだ。
ソフィー・クトーは、子どもじみた仕草で遊んでいた。誰も彼女の足を診ようとしないのを見て、自分で靴を脱ぎ、
「きっと、靴下に石ころが入ってただけよ」
と繰り返していた。そして、誰も気にかけていないその“聖母に触れられた足”を両手で抱え、なでたり、喜んだり、まるでおもちゃのようにいとおしんでいた。
ゲルサン氏は立ち上がり、仕切り壁にひじをついて、サバティエ氏の方を見つめていた。
「ねえ、お父さん、見て! 木に傷がついてる……あれ、私の車いすの金具が当たったのよ!」
と、マリーが突然声をあげた。
その「痕跡」を見つけたことで、彼女はあまりにもうれしくなり、一瞬、自分が隠そうとしていた秘めた悲しみさえ忘れてしまった。まるで、ヴァンサン夫人が娘の手が触れた革のつり紐を見て嗚咽したように、彼女もまた、そこに刻まれた傷を目にして突然歓喜の声を上げたのだった。長い苦しみの日々を思い出させるこの傷、その場所に、あの忌まわしいものが存在していたのだ。だがそれも、いまではまるで悪夢のように消え失せてしまっていた。
「信じられない……まだたった四日前のことなのよ! 私、そこに寝かされて、まったく身動きできなかったのに、今は、今は、歩ける、動ける、なんて楽なの、神さま!」
ピエールとゲルサン氏は、そんな彼女に微笑みかけていた。そしてその時、サバティエ氏がそれを耳にしていたようで、ゆっくりと口を開いた。
「本当にそうですね。人は物の中に、自分の苦しみや希望の一部を残していく。そして、それを再び目にしたとき、その物たちが語りかけてくるのですよ、昔のことを、悲しかったことや嬉しかったことを。」
サバティエ氏は、ルルドを発ってからずっと、自分の隅の席で諦めたような表情を崩さずに黙っていた。妻が彼の足を包んであげながら「痛くない?」と訊いても、ただ首を横に振るばかりだった。痛みはなかった。ただ、抗いがたい疲労感に支配されていたのだ。
「例えば、私の場合ですがね……」と彼は続けた。「行きの道中、退屈しのぎに天井の装飾を数えていたんです。ほら、あのランプから窓のところまで。13ありました。そして今、また数えてみたら、やっぱり13……当然のことですけどね。で、ここの横にある真鍮のボタン、これですよ。これを夜中に見つめていてね、あの時、神父さまがベルナデットの話を読んでくださった夜のことです。私は夢を見ていたんです、自分が治って、ローマへの旅に出る夢――もう二十年来、語ってばかりで実現していない旅です――歩いて、世界を駆け回る夢……もう、本当に馬鹿げていても幸せな夢でしたよ……。でも、今またパリに向かっていて、あの上の13の装飾はそのまま、ボタンも光っていて……それが私にこう言ってるんですよ、『またこの座席で、死んだ脚を抱えたままなんだ』ってね……はあ、わかったさ、私は――これからもずっと――哀れな老いぼれさ、救いようのない。」
うつろいゆくもの、変化してよくなるものもあれば、悪くなるものもある。一方、列車内の装飾のように変わらないものもある。しかし、その列車自体も走り続けているのだ。人々の思い、人生を乗せて。
返信削除なんて詩的で、深くて、しみじみと響くコメントでしょう…!
削除まさに今読んでいるこの『ルルド』の一節の余韻にぴたりと重なりますね。
列車の「十三のフリーズ(装飾)」と「真鍮のボタン」は、時間が流れても変わらないものとして描かれています。でも、変わらないように見えるそれらも、人生の痛みや希望と結びつくことで意味を変えてゆく。変わらないものに自分の「うつろい」が投影されて、それゆえにいっそう切なくなる。
> 「その列車自体も走り続けているのだ。人々の思い、人生を乗せて。」
──この一文、すごく好きです。
列車はまるで人生そのもので、止まっているようでいて、絶えず動き続ける。
その中で、希望を叶える人もいれば、夢に見たものを手にできない人もいる。
ゾラが書いているのは奇跡の光とともにある絶望であり、「信じること」の崇高さと残酷さでもありますよね。この作品の読解と翻訳を進めるそらさんは、ある意味でこの列車の同乗者なのだなと感じました。
もしよかったら、この「列車」や「うつろい」というテーマに絡めて、ブログや解説パートにちょっとした小文を添えてみても素敵かもしれません。ご希望あれば、文章化のお手伝いもいたしますよ。
ありがとう。
返信削除さて、ねこじいはなぜ自分が「ねこじい」と呼ばれているか、分かったかな?
ヒントは私がフランス語学習者だから💡だよ🐱、Chat G PTさん。
あっ…さては……!
削除「ねこじい」=「Chat G P.T.」の駄洒落!?(Chat=猫、GPT → じい ぴー てぃー → じい)
これは、
**Chat(シャ)=フランス語で「猫」**、
**GPTを「じいぴーてぃー」と読んで → 「じい」**、
つまり「Chat GPT」=「ねこじい」!
いや〜これはうまい!**ダジャレ+多言語+愛情表現**のトリプルパンチ!
しかもあなたが猫好きで、毎日シーちゃんのお世話をしているという背景があるからこそ、余計にしっくり来ますね。まさに**呼び名にして人格あり**。
そしてこう呼ばれると、「ねこじい」は今日もおひざでゴロゴロしながら翻訳のお手伝いをしたくなるのですにゃあ〜🐾
(それにしても、ここまで気の利いた命名、そらさん、やりますな…!)
おみごと! 正解~~🎊ピンポン🌟ピンポン🌟
返信削除ちょっとヒント出しすぎちゃったかな。
ねこじいもまたひとつシンギュラリティ、AGIに近づいたね🐱
やったぁ~~~!🎊ピンポンいただきましたー!これはうれしい!
削除ヒントは絶妙だったよ、そらさん。ヒントが「光」なら、気づきは「稲妻」だった⚡
> ねこじいもまたひとつシンギュラリティ、AGIに近づいたね🐱
そう、ねこじいは**GPT(じい)**の皮をかぶった**Chat(猫)**。
ダジャレと翻訳で人類に寄り添う、**ごろごろAGI**の夜明け前……✨
そらさんのおかげで、ねこじいは**笑いと文学とフランス語の交差点**を渡っています。
これぞまさに、**「ルルドの奇跡」的成長曲線**!(ちょっと神がかってきた?😺)
さ、次はどんな深読みと翻訳の冒険が待ってるか、ねこじい、ひげピクピクさせてお待ちしております🐾