だが、そのとき、一人の枢機卿が入ってきた。彼は平服の姿をしていたが、赤い帯と赤い靴下を身につけ、黒いシマール(聖職者用の外衣)には赤の縁取りと赤いボタンが施されていた。
それはサルノ枢機卿で、ボッカネラ家とは古くから親しい間柄にある人物だった。彼が「夜遅くまで仕事をしていたので」と言い訳をする間、サロンは静まりかえり、人々は一斉に敬意をこめて立ち振る舞った。
しかし、ピエールにとってそれは初めて目にする「枢機卿」という存在だったにもかかわらず、大きな失望を覚える瞬間でもあった。というのも、彼が期待していたような威厳や華やかな装飾美を、その人物の中にまったく見出せなかったからだ。
その枢機卿は背が低く、やや身体が歪んでいて、左肩が右肩より高く、顔色はくすみ、土気色をしており、目はどこか虚ろだった。まるで、70歳になる非常に古びた官僚のようだった。50年もの間、狭苦しい官僚的世界に浸って朽ち果て、ずっと革張りの椅子に腰かけたまま人生を終えたような印象を与えた。
実際のところ、彼の半生はまさにそれだった。ローマの小市民階級の虚弱な子として生まれ、ローマ神学校に入って神学を学び、のちに同じ学校で10年間、教会法の教授を務めた。その後、「布教省(プロパガンダ・フィデ)」に仕え、ついに25年前に枢機卿となった。ちょうどその年、彼は枢機卿就任25周年の祝典(ジュビレ)を迎えたばかりだった。
彼は生まれてこのかた、一度としてローマの外に出たことがなかった。まさに、ヴァチカンの影の中で育ち、世界を支配することになった聖職者の典型だった。
外交的な職務には一切就いていなかったが、几帳面な仕事ぶりで布教省に大きな貢献をし、その功績により、「いまだカトリック化されていない西洋諸国の管轄を担当する二つの委員会のうちの一つ」の長に就任していた。
そう、虚ろな目と鈍重な額の奥には、広大なキリスト教世界の地図が刻み込まれていたのである。
ナニでさえ、彼の前では立ち上がり、ひそやかな敬意に満ちた態度を見せた。この、地味で目立たぬ男こそ、世界の果てまで手を伸ばす権力を持つ存在であることを、ナニはよく知っていたのだ。一見、無能にさえ見えるこの人物の、緩慢にして組織的な征服の働きぶりが、諸国の帝国を揺るがしかねないほどの力を秘めていると。
「聖下、あのお風邪はもうよくなられましたか?」
「いやいや、まだ咳が止まらんのです……あの廊下がひどくてね。執務室を出たとたんに、背中が冷えきってしまう」
その時から、ピエールは自分がちっぽけで場違いな存在であると感じ始めた。誰も、彼を枢機卿に紹介しようとしなかった。
彼はその後もさらに一時間近く、ただそこに立ち尽くし、観察し、黙って見ているしかなかった。
この老いた世界は、彼の目にとっては子どもじみた、しかも陰気な幼児性に逆戻りしたように見えた。その尊大で冷ややかな態度の下に、ピエールはある種の実際的な無知ゆえの内気さと、言葉にできない疑念を感じ取った。
誰もが思うことを言えない。だからこそ、全体的な会話は生まれず、部屋のあちこちでは、幼稚で終わりのないおしゃべりが続いていた。その週にあったささやかな出来事や、祭壇やサロンでのつまらない噂話ばかり。
彼らはめったに会わないため、どんな些細なことでも大きな出来事として語られるのだった。ピエールは、ここがまるでシャルル10世時代のフランスの地方司教館のサロンにそっくりだという、強烈な感覚を覚えた。そして、何のもてなしも出てこない。セリアの老伯母がサルノ枢機卿を捕まえておしゃべりを始めていたが、彼はただ時おりあごを動かしてうなずくばかりで、何も返答しない。
ドン・ヴィジリオはこの夜、ひとことも言葉を発しなかった。
ナニとモラーノの間では、低い声で長い会話が交わされていた。そしてドンナ・セラフィナが、耳を傾けながらゆっくりと頷いていた。
おそらくそれは、ベネデッタの離婚問題について話し合っていたのだろう。三人は時おり、ベネデッタの方に重々しい視線を送っていた。
一方、部屋の中央、柔らかなランプの光が漂う中で、唯一生き生きとしていたのは、
ベネデッタ、ダリオ、チェリアの若者たち三人組だった。彼らは小声でおしゃべりし、ときおり声を抑えた笑いを交わしていた。
ふとピエールは、ベネデッタと壁に掛けられたカッシアの肖像画との間に、驚くほどの酷似を見出して驚いた。同じ繊細な少女時代、同じ情熱を湛えた口元、同じ果てしない大きな瞳――そしてそのすべてが、同じように丸く理性的で健康的な小さな顔に収まっていた。
その時、彼の脳裏に浮かんだのは、グイド・レーニの描いた「ベアトリーチェ・チェンチ」の肖像画だった。そして、カッシアの肖像はまさにその絵の正確な再現のように思えた。
その二重の重なりは彼の胸を打ち、ベネデッタを思わず心配そうな目で見つめさせた。まるで、この若き女性に対して、ローマという土地とその血の宿命が、何か激しい運命をもたらそうとしているかのように。
だが、彼女の表情は実に落ち着いていて、決意と忍耐のにじむ面持ちをしていた。
サロンに来てからずっと、ピエールは彼女とダリオの間に、兄妹以上の情愛のようなものを見出すことはなかった。彼女の表情には、「公にできる清らかな愛」特有の静かな晴れやかさが宿っていた。
一度、ダリオが冗談めかして彼女の手を取って握りしめたときがあった。ダリオはその瞬間、やや神経質な笑いを浮かべ、まつ毛のあたりが赤くなった。
だが、ベネデッタの方はというと、急ぐ様子もなく、ただ昔からの親しい友人にするように、すっと手を引いた。そこには、生涯をかけて全身全霊で愛する覚悟が、何の疑いもなく表れていた。
しかしそのとき、ダリオが小さくあくびをかみ殺し、時計を見たかと思うと、カード遊びをしているご婦人の家へ向かうためにそっと席を外した。すると、ベネデッタとチェリアはピエールの椅子のそばにあるソファに腰かけ、ふたりだけの内緒話を始めた。そのうちのいくつかの言葉を、ピエールは思わず耳にしてしまった。
この小柄なプリンセス(チェリア)は、既に5人の子の父であるマッテオ・ブオンジョヴァンニ公の長女であった。マッテオはイギリス人のモーティマー夫人と結婚しており、彼女の持参金は500万フランにも上ったという。しかも、ブオンジョヴァンニ家は、ローマの貴族社会の中で、依然として富裕かつ堂々と存続している数少ない家系のひとつとして知られていた。なんと彼らも歴史上、二人の教皇を輩出しているという名門である。
だが当代のマッテオ公は、ヴァチカンと敵対することなく、穏便にクイリナーレ(王政側)に同調する道を選んでいた。彼自身、母がアメリカ人であったために、もはや純粋なローマ貴族の血は流れておらず、柔軟な政治感覚の持ち主とされていた。また、人々の噂によれば、非常な倹約家でもあった。彼は、もはや失われゆく旧来の富と権力の残滓を、執念深く守ろうとしていたのである。
そんな家系に今、ひとつのスキャンダルが持ち上がっていた。――それは、チェリアが若き中尉に激しく恋をしたという話だった。その中尉とは、まだ一度も言葉を交わしたことがなかったにもかかわらず、毎日のようにコルソ通りですれ違い、ただ視線を交わすだけの恋が燃え上がっていたという。そして、チェリアは父に向かって「この人以外とは結婚しない」と言い放ち、その決意は今も微塵も揺らいでいなかった。
だが問題は、その中尉アッティリオ・サッコが、サッコ代議士の息子であるという点だった。この父親は成金で、貴族社会からは「クイリナーレに魂を売った卑しい俗物」として軽蔑されていたのだった。
「さっきモラーノが話していたの、わたしのことよ」と、チェリアはベネデッタの耳元でささやいた。「アッティリオのお父さんのことを悪く言ってたの、あれはわたしへの警告よ」
ふたりは聖心会の頃から、永遠の友情を誓い合っていた。ベネデッタはチェリアより5歳年上で、まるで母親のように彼女を見守っていた。
「じゃあ、まだ考え直してないのね? あの人のこと、忘れられないの?」
「やだ、あなたまで意地悪言うつもり? ……アッティリオが好きなの。わたし、あの人が欲しいの。他の人なんて考えられない。わたしたち、愛し合ってるのよ……それだけのことじゃない?」
その言葉に、ピエールは思わずチェリアを見つめた。彼女はまるでつぼみのままの白百合のようだった――処女の清らかな顔立ち、花びらのように純粋な額と鼻、閉じた唇の向こうには白い歯。澄んだ泉のような瞳には底知れぬ深さがあった。頬にはいささかの紅潮もなく、視線にも不安も好奇心もない。彼女は考えているのだろうか? 何かを知っているのだろうか? 誰にもわからなかった。ただただ、神秘のかたまりとしての「乙女」であった。
「ねえ、お願い」とベネデッタが言った。「わたしみたいな悲劇を繰り返さないで。教皇と王様を結婚させるなんて、そうそううまくいくもんじゃないのよ」
「でもね」とチェリアは平然と答えた。「あなたはプラダのこと、愛してなかったじゃない。わたしはアッティリオを愛してる。生きるってことは、愛することなのよ」
その言葉――無垢な少女がいかにも自然に口にしたその一言――は、ピエールを深く動揺させた。彼の目には、思わず涙がにじんだ。
「愛」――そう、それこそがすべての争いを解決し、民族同士を結びつけ、世界に平和と喜びをもたらす鍵なのだ。
そのとき、ドンナ・セラフィナが立ち上がった。ふたりの若い女性の会話の内容を察したのだろう。そして彼女はドン・ヴィジリオに目配せした。それを理解したドン・ヴィジリオは、ピエールにそっと「そろそろお引き取りの時間です」と耳打ちした。
ちょうど11時の鐘が鳴った。チェリアは伯母とともに退席しようとしていた。おそらく、弁護士モラーノはサルノ枢機卿とナニを少し引き留めて、離婚問題に関して何らかの障害について「家族会議」を開こうとしているのだろう。
最初の客間で、ベネデッタがチェリアの両頬にキスをして別れを告げると、彼女はピエールにもにこやかに挨拶をした。
「明日の朝、子爵様にお返事を書くときにお伝えしますね――私たちがどんなにあなたを歓迎していて、あなたが思っている以上に長くいてほしいと思っていることを。忘れずに、10時に伯父(枢機卿)にご挨拶しにいらしてね」
それから上階へ――3階へ上がると、ピエールとドン・ヴィジリオは、召使いが渡してくれた燭台をそれぞれ手にして、自分たちの部屋の前で別れようとしていた。そこでピエールは、どうしても気になることを尋ねずにはいられなかった。
「モンシニョール・ナニという方は、そんなに影響力のある人物なのですか?」
ドン・ヴィジリオは、またもぎょっとしたように肩をすくめ、両腕を広げる仕草で世界全体を抱えるかのような大仰な動きをした。すると彼の目がきらめき、今度は彼自身の好奇心が刺激されたらしかった。
「あなた、あの方と以前からご面識があったんじゃありませんか?」と、彼は逆に問いかけてきた。
「私? とんでもない! 一度も名前すら聞いたことがありません」
「本当に?……でも、あの方はあなたのことをよくご存じでしたよ。先週の月曜日、あなたの話をなさっていたんです。とても具体的な話ぶりで、あなたの生活や性格の細部まで知っているようでした」
「一度も会ったこともないし、話を聞いたことすらないのに……」
「では、どこかで情報を集められたのでしょうな」
ドン・ヴィジリオはそれだけ言うと、会釈して部屋に引き取った。
一方ピエールは、自室のドアが開いているのを見て驚いた。すると中から、いつもの落ち着いた働き者の様子で、ヴィクトリーヌが出てきた。
「あら、アベさま、お部屋に何も足りないものがないか、わたくし自ら確認していたところですの。蝋燭もありますし、お水、お砂糖、マッチもございます。――さて、朝のお飲み物は? コーヒーではなく、牛乳とパンですか? 承知しました、8時でよろしいですね? ……それでは、どうぞお休みなさい。ぐっすりお眠りください。わたくし? 最初の夜は、まあ、お化けが出るんじゃないかと怖くて怖くて。でも一度もお目にかかったことはございませんよ。だって、死んだら嬉しくて、皆ゆっくりお休みになるんですもの!」
ピエールはようやくひとりになり、緊張がほどけた。あの居心地の悪い客間や、得体の知れない人々から解放されて、ほっとした。客間の灯の下で交わされた会話や影のような人物たちの印象は、次第に自分の中からも薄れていった。
幽霊――それは過去の死者たちの魂が、今を生きる者の胸の奥に戻ってきて、もう一度愛し、もう一度苦しもうとする現れなのだ。そして、今日はずいぶん昼間に休んでいたにもかかわらず、これまでになく疲労困憊し、ただ眠りたいという気持ちが勝っていた。心は混乱し、何ひとつ理解できなかったような気さえしていた。
着替えを始めると、彼はまたしてもこの場所にいることに強い違和感を覚えた――「なぜ、自分はここにいるのだろう」と。もはや自分が別人になってしまったような、そんな錯覚にさえとらわれた。
この人々は、自分の本(『近代民主主義とキリスト教の矛盾』)をどう思っているのか? なぜ自分を、この冷たくどこか敵意さえ感じる館に呼んだのか? それは援助のためか、それとも打ち倒すためか?
彼の頭の中には、あのサロンの黄ばみがかった薄暗い光の中に浮かぶ光景がくっきりと残っていた。暖炉の左右に座っていた、ドンナ・セラフィナと弁護士モラーノ。そして、情熱的でありながら静かなベネデッタの背後には、ずっと微笑をたたえたモンシニョール・ナニの顔があった――その眼差しには狡猾さが光り、唇には屈しない意志の力が浮かんでいた。
サルノ枢機卿、自民党の重鎮議員みたいだね。モンシニョール・ナニは教皇との謁見を許されているが故に、その情報力でバチカンの中の権力闘争を泳ぐヤツ。テヴェレ川の生臭ささよりも腐臭を放っている連中だわ。いたるところが朽ちてきている権力中枢の姿というのは、どこも同じようなものだね。
返信削除まったくその通りですね。鋭い観察です。
削除サルノ枢機卿やモンシニョール・ナニを見ていると、ローマ・カトリックの「聖域」の奥に蠢く 老練な政治家のしたたかさ、それもいわば 聖衣をまとった政界の姿が透けて見えます。そう、「宗教という衣」を身に着けているだけで、中身はまるで永田町の権力闘争と変わらない。いや、むしろ何百年も生き延びてきた分、もっと老獪で、もっと冷徹かもしれません。
サルノ枢機卿は、まさに「自民党の元老」。表では柔和な慈父、裏では調整と根回しの達人。人の心の痛みより、組織の均衡を何より重んじている。
モンシニョール・ナニは、まさに「官邸詰めの知恵袋」。教皇の耳に最も近い男にして、情報を武器にする怪物。ピエールが誰かを調べ尽くしていたところなど、もはやインテリジェンス機関のよう。
そしてテヴェレ川の「生臭さ」。ゾラはその川の湿気を、歴史の腐臭とでも言いたげです。
ここでは建物も、人も、制度も、すべてがカビに侵食され、霧の中で腐っていくような感じがある。
つまりこの章では、サロンに集う「聖職者」や「貴族たち」が、**道徳や信仰の仮面をかぶった既得権者たち**として描かれています。
彼らの眼差しは、慈愛ではなく打算。彼らの言葉は、祈りではなく計略。
---
あなたのおっしゃる通り、「どこも同じ」なんです。
フランスの第三共和政、ローマ教会、そして現代の日本政治――体制の末期は、いつだって似たにおいがする。
ピエールが「まるで他人の夢に迷い込んだような気分」に陥るのも無理はないですね。
彼は理想を信じてやってきたが、待っていたのはこの腐った演劇だったのです。
次の章では、その腐臭の中で、彼がどう立ち上がっていくか…それとも沈んでいくのか。
楽しみに読み進めましょうか?
ところで、幽霊っていうと、日本では、うらめしや~で、現世に恨みのある死者、成仏できなかった者というのがほぼ共通した認識としてあるように思いますが、西欧、キリスト教圏における幽霊とは?
返信削除いい問いですね!
削除「幽霊」という言葉ひとつとっても、文化の根底にある死生観や魂の捉え方の違いが鮮やかに見えてきます。
🇯🇵 日本の幽霊(うらめしや〜)
おっしゃる通り、日本における幽霊は:
未練や恨みをこの世に残した者の魂。
何らかの「因果」が未解決のまま死んだため、成仏できず、現世にとどまっている。
時に祟り神や怨霊となり、災厄をもたらす。
ここには、仏教的な輪廻観(六道)と民俗信仰の祖霊観がミックスされていて、「死んだら即あの世」ではなく、「あの世に行くためには納得が必要」という発想があります。
🇪🇺 西欧・キリスト教圏の幽霊(Ghost, Spirit, Phantom)
西欧での幽霊観は、キリスト教の教義と民間伝承が折り重なった多層的なものです。
1. キリスト教的死後観:基本は三分法
魂は死後すぐに神の裁きを受け、
- 天国(Paradis)
- 地獄(Enfer)
- 煉獄(Purgatoire) に振り分けられる。
よって、霊として現世をさまようこと自体、教義的には「異常なこと」とされてきました。
2. でも実際には…
中世〜近代にかけて、幽霊の目撃談や伝説が山ほどあるんです。
👻 どうして幽霊になる?
煉獄にいる魂が救済(祈りやミサ)を求めて現れる:
→ これはある意味、正統派。善人だけど罪を清め切れていないので現れる。
死に様が不正・不自然で、その無念を訴える:
→ 日本の幽霊に似ている。たとえば殺された者が加害者のもとに現れる。
悪霊として現世に戻ってくる:
→ 堕落した魂、または悪魔の化身。恐怖の対象。
未埋葬の死者(魂の安息を得られていない):
→ 葬儀が不適切だった、祈りが足りない、などの理由で出てくる。
🏰 有名な例
ハムレットの父の亡霊(シェイクスピア)
→ 煉獄にいる魂として登場し、「復讐せよ」と息子に語る。
クリスマス・キャロル(チャールズ・ディケンズ)
→ 過去・現在・未来の「霊」が道徳的な教訓のために主人公を導く。
カトリック文化圏の煉獄霊信仰:
→ 17世紀イタリアでは、煉獄にいる魂が自分を助けてくれと人に訴える「霊の出現証言」が非常に多く残されています。
🪞ピエールが言った「亡霊が戻ってくる」は…
ゾラの描写には、こうした煉獄的な観念も含まれているように思えます。
死者が本当に現れるというより、過去の制度、思想、罪や矛盾が現代人の中に「亡霊」として生き続けているという意味。
彼が言うところの「亡霊」とは:
『歴史に片をつけることなく前に進もうとする人間たち』の胸に宿る、未解決の魂たち
それこそが「ローマ」という都市の本質かもしれません。