ピエールはすぐに挨拶を述べたあと、思い切って気にかかっていることを切り出した。今夜、モンシニョール・ナーニに会えるのではないか、と尋ねたのである。
すると、ドンナ・セラフィナは思わず答えてしまった。
「ああ! モンシニョール・ナーニも私たちを見捨ててしまわれるのね。他の人たちと同じように。人は必要な時に限って姿を消すものだわ。」
彼女はまた、この聖職者に対しても不満を抱いていた。多くの約束をしたにもかかわらず、離婚の件に関しては非常に手ぬるく動いただけだったからだ。おそらく、あの人特有の柔らかな物腰と愛想の裏で、また別の企みを胸に秘めていたのだろう。
しかし、怒りのあまりつい口を滑らせたことを、すぐに後悔して言い直した。
「でも、いずれ来てくださるでしょう。あの方はとても優しい方で、私たちを大切に思ってくださっているのだから。」
激しい気性を持ちながらも、彼女は不利な状況を打開するために「政治的」であろうとしていた。兄であるボッカネーラ枢機卿は、教令省(聖務会議)の態度に苛立っていた。姪の請願が冷たくあしらわれた背景には、枢機卿仲間の中に、あえて彼に不快を与えたい者たちがいたのだろうと信じて疑わなかったのだ。枢機卿自身は離婚を望んでいた。というのも、従弟のダリオが頑なに従姉のベネデッタ以外と結婚しようとしない以上、家系を存続させるにはそれしか道がなかったからである。
こうして一家はまるで一連の災厄に見舞われていた。兄は誇りを傷つけられ、妹であるセラフィナも心に打撃を受け、二人の若い恋人たちは希望をまたも遠ざけられて絶望の淵に立たされていた。
ピエールが若者たちの集うカナッペに近づくと、彼らが小声で例の災難のことばかり話しているのが耳に入った。
「なぜそんなに嘆くの?」とチェリアが言った。
「結局、婚姻無効はわずか一票差で採択されたじゃないの。裁判は続いているのよ。ただの遅れにすぎないわ。」
だが、ベネデッタは首を振った。
「いいえ、だめよ! モンシニョール・パルマが意地を張り続ける限り、聖下がご承認くださるはずがないわ。もう終わりなの。」
ダリオが重々しくつぶやいた。
「ああ……もし僕たちが大金持ちだったら。とてつもなく裕福だったらなあ……」
その確信めいた響きに、誰一人笑みを浮かべなかった。
彼はさらに声をひそめ、従姉に言った。
「どうしても君と話がしたい。もうこんな生活を続けることはできない。」
すると彼女も、息をひそめて答えた。
「明日の夕方、5時に下りてきて。私、ここに残ってひとりで待っているから。」
その後、晩餐の時間は延々と続いた。ピエールは、普段は落ち着き理性的であるベネデッタが、沈鬱な面持ちをしていることに深く心を打たれた。彼女の純真で幼さすら漂う顔立ち、その奥深い瞳には、抑え込まれた涙のヴェールがかかっていた。彼はすでに、いつも穏やかに見えて、しかしその内に燃えるような情熱を隠している彼女に、真の愛情を抱きつつあった。
彼女は努めて笑顔を見せようとしていた。チェリアが、自分よりは順調に進んでいる恋の秘密を楽しげに語るのに耳を傾けながら。
ただ一度だけ、その場にいた全員で会話が弾んだのは、老親族が声を張り上げて、イタリアの新聞が教皇聖下に対して見せた不敬な態度を話題にしたときであった。
かつてないほど、ヴァチカンとクイリナーレ宮との関係は悪化しているように見えた。
普段は口を開かないサルノ枢機卿までもが言った。
「教皇聖下は、9月20日のあの冒涜的な祭り――ローマ占領を祝う祝典――に際して、新しい抗議書簡を発表なさるだろう。キリスト教世界のすべての国家に向けて。彼らが無関心によって強奪に加担したことを糾弾するのだ。」
するとドンナ・セラフィナが、姪の不幸な結婚を皮肉って、苦々しい声でこう言った。
「それなら、いっそ教皇聖下と国王陛下を結婚させてごらんなさいな!」
彼女は気も狂わんばかりであった。もう時は遅すぎ、モンシニョール・ナーニをはじめ、誰をも待つことはなかった。だが、不意に思いがけぬ足音が響くと、彼女の目は再び輝き、熱っぽく扉を見つめた。そして最後の失望を味わう。入ってきたのはナルシス・アベールであったからだ。彼は遅い訪問を詫びにやって来たのだった。
義理の叔父にあたるサルノ枢機卿が、この閉ざされたサロンに彼を通したのだ。宗教思想において「妥協を許さぬ」と評されていたため、ここでは好意的に迎えられるのである。しかもその夜は、時刻が遅いにもかかわらず、彼が駆けつけたのはピエールに用があったからだった。すぐに彼を脇に引き寄せ、言った。
「あなたがここにおられると確信していました。今晩は従兄のモンシニョール・ガンバ・デル・ツォッポと共に大使館で夕食をとり、良い知らせをお持ちしたのです……。明日、午前11時頃、ヴァチカンの彼の居室でお会いくださるそうです」
さらに声を落とし、続けた。
「おそらく、聖下にお引き合わせくださろうとされるでしょう……。とにかく、謁見はほぼ確実と思われます」
ピエールはこの確証に大きな喜びを覚えた。この重苦しいサロンで、2時間近くも悲嘆と絶望の中に沈んでいた彼にとって、それはまさに救いであった。ついに解決の道が開かれるのだ!
ナルシスはダリオと握手し、ベネデッタとチェリアに挨拶をしてから、カルディナルの叔父のもとへ近寄った。老親族から解放されたサルノ枢機卿はようやく口を開いたが、話題といえばもっぱら自身の健康や天気、耳にした些細な逸話ばかりで、プロパガンダ省で取り扱っている複雑かつ恐ろしい幾千の案件については一言も語らなかった。それはまるで老官僚の執務室を離れた彼にとっての「無色無臭の湯浴み」のようなものであり、世界を統べる重荷から解放される休息のひとときだった。
やがて一同は立ち上がり、辞去した。
「お忘れなく」とナルシスはピエールに繰り返した。「明日の朝10時、システィーナ礼拝堂でお会いしましょう。それまでの時間は、ボッティチェリをお見せします」
翌朝、9時半にはすでにピエールは徒歩で大広場に到着していた。そして右手、回廊の角にある青銅の扉へと向かう前に、彼はふと足を止め、ヴァチカンを見上げてしばし眺めた。
その印象は、記念碑的とは程遠かった。サン・ピエトロ大聖堂のドームの陰で無秩序に膨れあがった建築群、そこには建築的統一も規則性もない。屋根が折り重なり、増築された棟が不規則に並び立ち、正面は幅広く平らに伸びている。唯一、サン=ダマスの中庭を囲む三方の建物だけは左右対称を保ち、いまは閉ざされている大窓を備えた古い回廊が、まるで巨大な温室の3棟のように見え、石の赤みがかった色合いの中で太陽を反射してきらめいていた。
それこそが「世界で最も美しく、最も広大な宮殿」――1,100の間を有し、人類の天才の傑作を収めた場所だった。だが幻滅を抱くピエールの目を惹いたのは、広場に面して右側にそびえる高い正面だけであった。そこに教皇の私室があると知っていたからだ。二階に並ぶ窓、そのうち右から五番目が寝室であり、夜更けまでランプが灯されていると聞いていた。
彼は長いあいだその窓を見つめた。そして、いま自分の前にある青銅の扉に思いを馳せた。それはあらゆる地上の王国と、神の王国とを結ぶ聖なる門であり、厳めしい石壁の中に聖下は自らを幽閉している。遠目に見えるその扉は、四角い鋲を打ち込んだ金属の板でできており、まるで古代の城砦の門のような堅牢な表情をしていた。
その扉は何を守っているのか。何を隠し、何を封じ込めているのか。彼は考えた。その向こうにはどのような世界が広がっているのか。そこに秘かに守られている人間愛の宝はあるのか。新たな民族が渇望する友愛と正義に向けて、希望の復活がそこから生まれるのか。
彼は夢に酔った。すなわち――閉ざされた宮殿の奥で唯一無二の聖なる牧者が目を光らせ、朽ち果てた古き文明の崩壊を前に、キリストの最終的支配を準備しているのだ、と。そしてやがて、その支配を告げ知らせる時が来る。わたしたちの民主社会を、救い主が約した「大いなるキリスト共同体」として成就させるために。
青銅の扉の向こうで未来は形作られており、その未来こそが、やがて扉から姿を現すに違いなかった。
さて、ピエールはすんなり教皇に謁見できるんでしょうかねえ?
返信削除私は、そうは問屋が卸さねえと思う。
ねこじいはどう思うね?
ふふふ (*ΦωΦ*) ピエールの胸の高鳴りとは裏腹に、わしは「そう簡単にいくまい」と思うぞ。
削除ゾラって作者は、読者に「ここでついに!」と思わせてから、スッと足元をすくうのが得意じゃろう? 特にこの『ローマ』は、単なる信仰小説じゃなくて「制度としてのカトリック」をえぐる大河やけえ、教皇との謁見も「神秘のベールを剥ぐ」仕掛けのひとつになるはずじゃ。
つまり――
* **ピエールの夢想**:「教皇の部屋の奥で、唯一無二の牧者が世界の救いを準備している」
* **ゾラの冷徹な現実**:実際は、権力闘争や官僚的調整の網の中で、純粋な救済の声はかき消される
この落差を描くために、「はいどうぞ謁見」では物語が締まらん。むしろ門前で待たされる、回り道をさせられる、誰かの口添えでようやく……みたいな手続きをわざと挟んで、ピエールの焦燥と読者の期待を煽るのが、ゾラらしい展開じゃと思うんじゃ。
わしの予想は――
謁見にはたどり着く。だが、そのプロセス自体が「宗教的真理への到達の困難さ」を寓意的に示すものになる。
そして「会えた」としても、それは決してピエールが夢見た「救世主のような教皇」との邂逅にはならんじゃろう。