2025年12月13日土曜日

ローマ 第166回

  しかしピエールは、ふたたび葬床へと目をやるうちに、段の上に跪いている老司祭を認めた。その俯いた頭は、悲嘆に打ちひしがれていて、先ほどは顔立ちを見分けることができなかったのだ。

「サンタ・ブリジッタ教会の主任司祭、ピゾーニ神父ではありませんか。私が何度かミサを奉献した教会です。ああ、気の毒に……なんと泣いておられることか。」

 ヴィクトリーヌは、静かで痛ましい声で答えた。

「それはもう、無理もありません。あの方が、私のかわいそうなベネデッタをプラダ伯爵と結婚させようと思い立った日、ほんとうに“見事な一手”を打ったものです。あんなにも多くの忌まわしい出来事は、最初からあの子にダリオを与えていれば、決して起こらなかったでしょうに。でも、あの愚かな町では、政治のことで皆が狂っているのです。あの方も、あれほど善良なお人柄なのに、教皇と国王を結婚させた、などとおっしゃって、自分は奇跡を起こし、世界を救ったのだと信じておられました。――ほら、あの、古代の石ころだの、10万年も前の愛国的思想だの、そういう古物趣味のことです。古い石だけを愛して生きてきた、やさしい学者然とした老人の、あの穏やかな笑い声でね。……それが今では、ご覧なさい、体中の涙を流しておられる。」

 彼女は少し間を置き、さらに続けた。

「もう一人も来ましたよ。20分と経っていません。ロレンツァ神父です、イエズス会士で、ピゾーニ神父のあとに、伯爵令嬢の告解聴聞司祭になった人。あの方が、前の人のしたことを、すっかり台無しにしてしまったのです。ええ、見事な人物ですよ、仕事を壊す名人、幸せを邪魔する達人です。離婚の話に、あれこれと陰湿な厄介事を持ち込みましたからね。あなたがいらしたら、ひざまずいてから、大きく十字を切るあの様子をご覧になれたでしょうに。あの人は泣きませんでした。ええ、まったく。そして、事がこれほど悲惨な結末を迎えたのは、神がついに、この一件から手を引かれたからだ、と言わんばかりの顔をしていました。――死者のことなど、どうでもいい、とでも言うように。」

 彼女は、堰を切ったように、穏やかに、しかし止まることなく語り続けた。前日から続く、押し合い、息も詰まるような恐ろしい時間ののち、胸の内を吐き出せることで、ようやく楽になったかのようだった。

「それから……」
 彼女は声をさらに落とした。
「この子を、あなたはお分かりにならないのですか?」

 彼女が視線で示したのは、先ほど彼が召使いだと思った、粗末な身なりの若い娘だった。恐ろしい悲嘆と苦悩に押しつぶされるように、葬床の前の石畳に伏している。その娘が、激しい絶望の身振りで頭を起こし、反らせた。すると、そこには、息をのむほど美しい顔が現れ、見事な黒髪に溺れるように包まれていた。

「ピエリーナだ!」
 彼は叫んだ。
「かわいそうに……!」

 ヴィクトリーヌは、憐れみと寛容を込めた仕草を見せた。

「仕方がありませんよ。ここへ上がることを、私が許したのです。どうやって不幸を知ったのかは分かりませんが、この子はいつも宮殿のまわりをうろついていますから。下で私を呼ばせて、もしあなたが聞いていたら……大きな嗚咽をあげながら、もう一度だけ“王子さま”に会わせてほしいと、どれほど懇願したことか。……ねえ、神さま、この子は誰にも迷惑をかけていません。ああして床に伏し、恋する者の、美しい涙に濡れた目で、あの二人を見つめているだけです。もう30分も、そこにいるんですよ。行儀が悪ければ追い出そうと決めていました。でも、こうしておとなしく、身じろぎもしないのですから……ええ、このままいさせてあげましょう。この子の心に、一生分の思い出を満たさせてあげればいいのです。」

 それはまことに崇高な光景であった。このピエリーナ、この無知と情熱と美の娘が、かくも雷に打たれたように打ちのめされ、抱き合った二人の恋人が死の中で最初にして永遠の夜を眠る、その婚礼の床の足もとに、完全に崩れ落ちていたのである。彼女はかかとに体を落とし、重くなりすぎた両腕をだらりと垂らし、手のひらを開いたまま、顔を上げ、身動き一つせず、まるで苦悶の恍惚に凍りついたかのように、もはやその目を、愛すべき悲劇の二人から離さなかった。これほどまでに美しく見えた人間の顔があっただろうか。苦しみと愛の輝きに満ち、古代の〈苦悩〉そのもの、しかもなお生命に震えているかのようで、王者の額、誇り高き優雅さをたたえた頬、神的完成を思わせる口元を持っていた。

 彼女は何を思い、何に苦しんでいたのか。永遠に恋敵の腕に抱かれたままの〈王子〉を、じっと見つめながら。果てしない嫉妬が血を凍らせていたのだろうか。それとも、ただ彼を失ったという苦しみ、これが最後に見る姿なのだという思いだけだったのか。自分と同じく冷たくなったその肉体で、無益に彼を温めようとするもう一人の女に対して、憎しみを抱くこともなく。

 涙に濡れたその瞳は、なおもやさしく、苦味を帯びたその唇は、なおも優しさを失っていなかった。花々に埋もれて横たわる二人を、彼女はあまりにも純粋で、美しいと思っていたのである。そして、女王であることを知らぬ女王の美しさを持ちながら、彼女はそこに息も絶え絶えに、卑しい召使いのように、愛に身を捧げる奴隷として立っていた。その主人たちは、死に際して、彼女の心を引き裂き、持ち去ってしまったのだ。

 その間も、絶えず人々が、足取りを落として、喪に沈んだ顔で入ってきては、ひざまずき、数分間祈り、同じく無言で悲しみに満ちた歩みのまま出ていった。そしてピエールは、ダリオの母が現れたのを見て、胸を締めつけられた。相変わらず美しいフラヴィアであり、彼女は礼儀正しく夫――かつてスイス衛兵隊の伍長で、彼女がモンテフィオーリ侯爵に仕立て上げた、美丈夫ジュール・ラポルト――を伴っていた。死の知らせを受け、彼女は前夜すでに来ていたが、今はあらためて儀礼的に、深い喪服に身を包み、やや豊満なユノーの威厳にふさわしく、その黒が見事に映えていた。

 彼女は王者のように寝台に近づき、まぶたの縁に二粒の涙を浮かべたまま、しばし立ち尽くした。だが、それは流れ落ちなかった。それからひざまずこうとする瞬間、ジュールがきちんと傍らにいることを確かめ、視線ひとつで、彼にも同じようにひざまずくよう命じた。二人は段の縁で身をかがめ、定められた時間だけ祈りにとどまった。彼女はきわめて威厳に満ち、打ちひしがれており、彼はさらにそれ以上に、人生のいかなる場面――もっとも厳粛な場面でさえ――にも不釣り合いになることのない男として、完璧な悲嘆を示していた。その後、二人は立ち上がり、ゆっくりと、枢機卿とドンナ・セラフィナが家族や親しい者を迎えている奥の部屋へと姿を消した。

 5人の婦人が列をなして入ってくる一方で、二人のカプチン修道士と教皇庁付スペイン大使が出ていった。しばらく黙っていたヴィクトリーヌが、突然口を開いた。

「まあ、小さな王女さまが……なんてお悲しみでしょう。あの方は、わたしたちのベネデッタを本当に愛していらしたのに。」

 実際、ピエールは、忌まわしい別れの訪問のために、彼女自身も喪に服したチェリアが入ってくるのを見た。その後ろでは、付き添いの侍女が、両腕いっぱいに巨大な白薔薇の花束を抱えていた。

「かわいらしいお嬢さん……」と、ヴィクトリーヌはさらに低くつぶやいた。
「あの方は、アッティリオとの婚礼を、ここに眠る二人の哀れな死者たちの婚礼と同時に挙げたいとおっしゃっていたのに……でも、先に行ってしまったのは、あの二人のほうでした。もう式は終わったのです、あの人たちの婚礼は。もう眠っているのです、最初の夜を。」

 セリアはすぐにひざまずき、十字を切った。だが、明らかに祈ってはいなかった。彼女は、白く、冷たく、大理石のような美しさとなった二人の恋人を、呆然と見つめていた。なんということだろう、ほんの数時間で、生命は去ってしまい、もう二度と唇は口づけ合わないのだろうか。彼女は、あの夜の舞踏会のさなか、あれほど輝き、あれほど生きた愛に勝ち誇っていた二人を、まだはっきりと覚えていた。

 生命に開かれ、喜びと陽光を渇望する若い心の底から、愚かな死に対する激しい抗議が込み上げてきた。その怒り、その恐怖、その情熱が凍りつく虚無を前にした痛みが、純真な、白百合のように閉ざされた彼女の顔に読み取れた。これほどまでに、彼女の無垢な口元――白い歯を閉ざした唇――が、またこれほどまでに、泉の水のように澄み、底知れぬその眼差しが、より深い謎を表したことはなかった。彼女の知らぬ、しかしこれから踏み入ろうとしていた情熱の生命が、入口にしてすでに、優しく愛されたこの二人の死者にぶつかり、その喪失が、彼女の魂を根底から揺さぶっていたのである。


2 件のコメント:

  1. カトリックの通夜について、簡単に説明してください。カミュの「異邦人」では、主人公が一晩、母の遺体に付き添っていたのを読んだ記憶がありますが、私が知っているのはそのくらい。

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    1. いいところに目をつけましたね。
      ゾラのこの場面を読むうえでも、カトリックの通夜(ヴィジル/veillée funèbre)を知っておくと、空気がぐっと立体的になります。
      ---
      カトリックの通夜とは何か

      カトリックの通夜は、
      「死者の魂のために、生者が祈りながら夜(あるいは葬儀前の時間)を過ごす儀礼」
      です。
      目的は大きく三つあります。
      1. 死者の魂を神に委ねるための祈り
      2. 遺族・共同体が死を受け止めるための時間
      3. 死を通して永遠(復活)を思うための黙想

      日本の「線香番」や「寝ずの番」に近い感覚ですが、
      中心にあるのは感情よりも祈りです。
      ---
      具体的に何をするのか

      伝統的には次のような要素があります。

      * 遺体を安置(教会・自宅・修道院など)
      * ロウソクを灯す(復活の光の象徴)
      * 詩編やラテン語の祈りを唱える
      * ミサ(ゾラの場面では複数の祭壇で連続ミサ)
      * 人々が出入りし、跪き、黙って祈る

      大事なのは、
      「賑やかに慰め合う場ではない」
      という点です。

      静かで、重く、時間が引き延ばされる。
      ゾラが執拗に「音のなさ」「灯りの少なさ」「反復」を描くのは、まさに通夜の感覚そのもの。
      ---
      「異邦人」の通夜との関係

      カミュの『異邦人』の冒頭、主人公ムルソーが母の遺体に一晩付き添いますね。

      あれはまさに:
      * 通夜に参加しているのに
      * 祈らず
      * 悲しまず
      * 意味を見出さない
      という、カトリック的世界観への完全な不適合を示す装置です。

      周囲が期待しているのは
      「祈り・涙・沈黙・畏れ」。

      ムルソーが差し出すのは
      「暑い」「眠い」「コーヒーがうまい」。

      だから彼は、
      その時点ですでに“裁かれている”。
      ---
      ゾラのこの場面の特異性
      ここが重要です。

      ゾラの描く通夜は、
      完全にカトリック的形式で満ちているのに、
      中身が空洞化している。

      * ミサは途切れない
      * ロウソクは灯っている
      * 祈りは続く
      それなのに、
      * ヴィクトリーヌは来世を信じない
      * ピエールは祈れない
      * ピエリーナは祈らずに「見る」だけ
      * 若いチェーリアは生への怒りで震える
      つまりここは、
      > 神のための儀礼が、
      > 生者の感情をもはや包摂できなくなった場所

      なのです。
      ---
      まとめ(ねこじい風に一言)

      カトリックの通夜は本来、
      死を「神の秩序」に回収するための時間。
      だがゾラは、
      その秩序が静かに崩壊していく現場として、
      この通夜を描いた。
      だから長い。
      だから静か。
      だから息苦しい。
      ここで描かれているのは、
      死者のための夜ではなく、
      信仰がもう眠れなくなった夜ですね。

      さて――
      この夜が明けたとき、
      ピエールはどこへ行くのか。
      最終章、いよいよですね。

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