2025年1月18日土曜日

ルルド 第18回

 「まあ、可愛い子ちゃん、」と彼女はレイモンドに向かって素早く言った。「お母さんが病人に追われているのを気の毒がらないで。少なくとも、そのおかげで退屈せずに済むわ。」 そして、ジョンキエール夫人に向き直って話を続けた。

「もしお分かりなら、私たちがこの美しい一等車両のコンパートメントでいかに時間を持て余しているかお話したいくらいです。小さな手仕事をすることもできないのです。それは禁止されていて……私は病人の中に入れてもらえるよう頼みましたが、すべての席が埋まっていました。おかげで今夜は自分の隅っこで寝ようと頑張るしかなさそうです。」

 彼女は笑いながら続けた。

「ねえ、ヴォルマール夫人。私たちは寝るしかありませんね、会話もどうやらあなたには疲れることのようだし。」

 そのヴォルマール夫人というのは、30歳を少し超えたくらいの人で、褐色の髪が麗しく、細長い顔立ちをしており、繊細で引き締まった顔立ちを持っていた。彼女の目は広く、見事なもので、その眼差しには時折、まるで火のような輝きがあった。しかしそれは時折、ひそかにカーテンが引かれるように、鎮静されるような陰影がかかることもあった。最初に見る分には美しいとは言い難かったが、じっと見ていると、徐々にその人が人を惹きつけ、不安をかき立てるような、圧倒的な魅力を帯びてくるのだった。加えて、彼女自身が目立つのを避けようとしているように見えた。とても控えめで、謙遜しているかのようで、いつも黒い服を着て、ジュエリーの類も一切つけていなかったが、それでも彼女はダイヤモンドや真珠の商人の妻であった。

「ええ、私はね、」彼女は小声で言った。「ただあまりぶつからないでいてくれさえすれば、それで満足よ。」

 実際、彼女はすでにルルドへの旅に2回参加しており、今回も補助役員として同行していたが、到着するとすぐに極度の疲労を感じ、ほとんど病院の「我らが悲しみの聖母」病棟には顔を見せないままだった。そして部屋で静かに過ごさざるを得ないと言い訳していた。

 そんな彼女に対して、ジョンキエール夫人はとても寛容で、彼女を好意的に受け入れている様子だった。

「まあ、大変!私の可哀想なお友達たち、まだ体力を温存する時間はあるわ。眠れるなら眠っておきなさい。それから次は、私が立っていられなくなったとき、あなたたちの出番になるのだから。」

 それから娘の方に向き直りながら話しかけた。

「あなたもね、お嬢ちゃん、あまり興奮しすぎない方がいいわよ。頭をしっかり保ちたいならね。」

すると、レイモンドは笑顔で母親を咎めるような目で見た。

「お母さん、お母さん、どうしてそんなことを言うの?……私って無茶なんかしていないでしょう?」

 実際、彼女は自慢しているわけではなかった。彼女の灰色がかった目には、一見無邪気で、ただ生きていることに喜びを感じているだけの若々しい表情の奥に、何事にも動じない固い意志、自分の人生を自分で切り開こうとする決心が宿っていたのだった。

「そうね、それは本当よ。」と母親は少し戸惑いながら認めた。「この子ったら、ときどき私よりも分別があるんだから……。さあ、コートレットを渡してちょうだい。それにしても、これほどありがたいものはないわね。ああ、本当にお腹が空いていたんだから!」

 朝食は続き、デザニョー夫人とレイモンドの絶え間ない笑い声に彩られていた。レイモンドは活気づき、結婚を待つ間に少し青白くなりつつあった顔にも、20歳らしい薔薇色の輝きが戻ってきた。テーブルには大きな分け前が回り、残り時間が10分しかないこともあって急いで食べていた。ホール全体が、コーヒーを飲む時間を失うことを恐れる食事客たちの騒然とした声で満ちていた。

 しかし、そのときピエールが姿を見せた。グリヴォットがまた息苦しさの発作を起こしているというのだ。ジョンキエール夫人は最後にアーティチョークを平らげると、娘に冗談交じりの「おやすみなさい」と言われながら、列車の車両へと戻っていった。

 その一方で、ピエールは驚きを抑えきれなかった。というのも、ヴォルマール夫人が黒い衣服の胸元に、病人たちを看護する婦人の象徴である赤い十字架を身につけているのを見たからだ。彼は彼女を知っていた。彼は今でも時折、ダイヤモンド商人の母親である年老いたヴォルマール夫人を訪ねていた。彼自身の母親の昔からの知り合いで、ひどく厳格で宗教的に行きすぎた恐ろしい女性だった。息子の嫁が通りを見ないように、窓のブラインドさえ閉めるよう命じていたほどである。

 そして、彼はこの家族の事情を知っていた。若い女性は結婚の翌日から閉じ込められた生活を送っていた。義母に威圧されながら、そして容姿の醜さと粗野さで有名だった夫、彼女を嫉妬から叩きながらも外では娼婦たちと遊ぶ、そんな男の間に挟まれて暮らしていた。彼女が外出を許されたのは、一瞬、教会でのミサに出るときだけだった。

 かつてピエールは、その教会、ラ・トリニテの裏で、彼女が端正な風貌の紳士と言葉を交わす瞬間を目撃したことがあり、彼女の秘密を知っていた。それは、ほぼ避けがたい出来事だったと言える。最初は秘密の友情だったが、それは次第に激しい情熱となり、誰もが許し得る落ち度のように見えるものとなった。情熱は隠れたものだったが燃え上がるようなもので、それを満たすには困難を伴う。互いがつながることは滅多に叶わず、ようやく実現したときには、それを貪るように味わう瞬間が訪れるのである。

 彼女は少し動揺しながら、小さくて温かい手を差し出した。

「まあ、なんて偶然!神父さま……ずいぶん久しぶりですね!」

 そして、彼女は説明した。これが3年連続でルルドへ行くことになること、義母が彼女をノートル=ダム・ドゥ・サリュの協会に無理やり入会させたこと。

「驚きましたね、神父さま。駅で彼女に気づきませんでしたか?彼女が私を列車に乗せて、それから戻るときに迎えに来るんです。」

 彼女はその言葉を、ごく普通に言ったが、その言い方にはどこかほのかな皮肉がこもっていた。ピエールは、すべてを理解したように感じた。彼は彼女が全く信仰を持たず、時折自由な時間を得るためにしか宗教行事に参加しないことを知っていた。そして突然、彼女がそこ(ルルド)で誰かに会うことを約束しているのではないかという直感が生まれた。目立たず、しかし切なる面持ちで、目の奥に燃え上がる情熱を秘めながら、それを無関心の仮面で隠し、彼女はその「誰か」のもとへ急いでいるのだろう。

「僕はね」と彼も言った。「幼馴染の友人を連れてきたんです。病気で苦しんでいる可哀想な若い娘で……ぜひ、あなたの看護をお願いします。」

 そのとき彼女はほんのりと顔を赤らめた。ピエールは疑いの余地がなくなった。その一方で、レイモンドが会計を済ませていた。彼女は数字に明るい若い女性らしい手際で計算していた。デザニョー夫人はヴォルマール夫人を連れて出ていき、ウェイターたちはさらに慌ただしく動き回り始めた。テーブルが次々に空いていく中、すべての人が、一斉に鳴り響く鐘の音を聞いて列車に向かって急いでいた。



4 件のコメント:

  1. カトリックは厳格な貞淑さを女性に対して求める一方、現実社会では男性が買春することは、当時のフランスでは当たり前のことだったのでしょうか?

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    1. 当時のフランス社会における性規範やジェンダーに関する価値観は非常に複雑でした。以下の点を挙げて説明します。

      ### 1. **カトリックの性規範と矛盾**
      カトリック教会は公式には貞淑や婚姻の神聖性を男女双方に求めていました。しかし、実際には特に女性に対して厳格な貞操の遵守が要求され、男性の性行動には寛容な態度が取られることが少なくありませんでした。これにはパトリアルな社会構造が影響しています。

      ### 2. **買春とその位置づけ**
      当時のフランスでは、買春は比較的公然の事実であり、「必要悪」と見なされることもありました。特にパリでは公営の売春施設(「メゾン・クロース」)が存在し、政府や地方自治体によって管理されていました。このような制度化により、男性が売春婦を利用する行為は、家庭の外で性欲を処理する手段として「社会的に許容される行為」とみなされることが多かったです。

      ### 3. **社会階層による影響**
      特権階級や富裕層では、愛人関係や買春がある程度の自由と密かに認められる一方、下層階級ではこれほど露骨な行為が行える余裕や環境が限られていました。それでも男性の性行動に対する社会的な許容度は女性よりずっと高かったです。

      ### 4. **文化・文学での描写**
      19世紀後半の自然主義文学(ゾラやモーパッサン)では、こうした男性の不貞や性の二重規範が頻繁に描かれています。例えばゾラの『ナナ』では、高級娼婦との関係が貴族や資本家など社会の上層にどのように入り込んでいたかが詳細に語られています。

      ### 5. **女性に対する影響**
      女性にとって、貞操の喪失は名誉に関わる重大問題とされ、離婚や不貞が原因で女性側だけが社会的に非難されることもよくありました。一方で、厳格なカトリック環境下では、夫の不貞に対しても妻は耐えることを期待されていたことが多かったです。

      ---

      このように、当時のフランス社会ではカトリックの道徳規範が表向きの価値観を形作る一方で、現実の性規範には大きな矛盾がありました。買春や愛人関係が男性の特権として半ば受け入れられていた一方で、女性は厳しい制約を受けていたのです。この背景を知ると、『ルルド』の登場人物の行動や価値観が、より深く理解できるかもしれません。

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    2. ちょっと時代は後になりますが、ブニュエルの映画「昼顔」が女性の性の解放に与えた影響は大きかったですよね。
      文学作品や映画で、19世紀末から20世紀にかけてのフランスで女性解放に関するもので主なものを幾つか教えてください。

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    3. 19世紀末から20世紀にかけてのフランスでは、女性解放のテーマが徐々に文学や映画に登場し始め、社会的に大きな影響を与える作品が生まれました。この流れは、フェミニズムの台頭や、第一次世界大戦後の社会的変化とも結びついています。以下に、主な文学作品や映画を挙げます。

      ---

      ### **文学作品**

      #### 1. **ギュスターヴ・フローベール『ボヴァリー夫人』(1857年)**
      - **概要**: 主人公エマ・ボヴァリーは、夫との平凡な生活に不満を抱き、ロマンティックな夢を追いかけて不倫や浪費に走ります。女性の抑圧された欲望や社会規範への抵抗をテーマとした作品です。
      - **影響**: 19世紀の女性の現実と幻想の対比を描き、後の文学やフェミニズム文学に多大な影響を与えました。

      #### 2. **エミール・ゾラ『ナナ』(1880年)**
      - **概要**: 貧しい家庭から娼婦にのし上がり、やがて貴族や権力者を魅了して堕落させる女性ナナを描く。彼女は男性社会への一種の挑戦者と見なされます。
      - **影響**: 女性のエロティシズムと男性支配社会の偽善を批判し、性と権力の相関を明らかにした点で画期的です。

      #### 3. **コレット『シェリ』(1920年)**
      - **概要**: 年上の女性と若い男性の恋愛を描いたこの作品は、年齢や性別に基づく社会的期待に挑戦します。コレット自身も独自のライフスタイルで社会の規範を揺さぶりました。
      - **影響**: 女性の欲望や独立を肯定し、1920年代のフランス文学で女性作家の地位を高めました。

      ---

      ### **映画**

      #### 1. **ルイス・ブニュエル『昼顔』(1967年)**
      - **概要**: 表向きは平凡な専業主婦であるセヴリーヌが、昼間だけ娼婦として生きることで抑圧された欲望を解放していく物語です。
      - **影響**: 女性の内的葛藤と性の自由をテーマとし、その衝撃的な内容は、性に関する社会的議論を巻き起こしました。「女性の欲望と抑圧」というテーマが、その後の映画や文学に大きな影響を与えました。

      #### 2. **アリス・ギィ=ブラシェの初期映画**
      - **概要**: フランス出身のギィ=ブラシェは、世界初の女性映画監督で、初期から女性の視点を映画に取り入れていました。特に短編映画で性別の役割を皮肉る内容が多く見られます。
      - **影響**: 男性中心だった映画制作の現場において、女性監督の存在意義を証明しました。

      #### 3. **ジャン・ルノワール『ボヴァリー夫人』(1934年)**
      - **概要**: フローベールの小説を映画化した作品。19世紀フランスにおける女性の孤立や欲望をヴィジュアルで描き出しました。
      - **影響**: 視覚的に小説のテーマを伝え、原作同様に性や自由への考察を社会に広めました。

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      ### **エッセイ・思想書**

      #### 1. **シモーヌ・ド・ボーヴォワール『第二の性』(1949年)**
      - **概要**: 厳密には20世紀後半の作品ですが、女性の存在意義や抑圧の歴史を徹底的に分析した書。フランスフェミニズムの基盤を築きました。
      - **影響**: これ以降の文学や映画で、女性の主体性を描く作品が爆発的に増加する土台を作りました。

      #### 2. **ヴィルジニー・デパント『バイオレンスの帝国』(1990年代)**
      - **概要**: 社会的な女性の位置を容赦なく批判したエッセイ集。性産業の舞台裏やフェミニズムの新しい視点が示されました。

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      文学と映画は女性解放を議論する場を提供し、抑圧された女性の声を強調するための重要なメディアでした。これらの作品は、社会における女性の役割や性の自由について深く問いかけるきっかけを与えました。

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