ピエールとゲルサン氏が気づかないうちに、マダム・マジェステは帳簿を前にして勘定を計算していた。彼女は甲高い声で口を挟んだ。
「去年ね、旦那方、うちにそっくりな旅人が二ヶ月も泊まってましたよ。洞窟(グロット)へ行って、戻ってきて、また行って、食べて、寝て……それだけ。口を開くこともなく、ただ満足げに微笑んでるだけ。お勘定も、一目見ることなく払ってくれましたよ……ああ、あんな旅人なら、何人でもいてほしいもんですわ」
彼女は立ち上がった。小柄で痩せて、肌は浅黒く、全身黒い服に包まれていた。襟元には薄い平らなカラーをつけている。そして、商売の話を持ち出した。
「もし旦那方が、ルルドのちょっとした記念品をお持ち帰りになりたいなら、ぜひうちをお忘れなく。隣にお店がございます。人気のある品物を豊富に取り揃えておりますよ……当ホテルにご宿泊のお客様は、たいてい他所には行かず、うちでお求めくださるものです」
しかし、マジェステは再び首を振った。その表情には、時代の堕落を嘆く敬虔なカトリック信者の悲しみがにじんでいた。
「もちろん、尊敬すべき神父様方に無礼を働くつもりはありません。ですが、言わねばならんこともあります。あの方たちは、欲が深すぎる……ご覧になりましたか? 洞窟のそばに設けたあの店を。いつも人でいっぱいで、信心深い品物や蝋燭を売ってるでしょう。多くの聖職者が、あれは恥ずべきことだ、神殿から商人たちを追い出すべきだと言ってますよ……それだけじゃない。噂では、あの神父方は、通り向かいの大きな店にも出資していて、そこが町中の小売業者に商品を卸しているとか。それどころか、ルルドで売られる無数のロザリオや聖母像やメダルの商いにも関わっていて、売り上げから割合を取っているとも……」
話が具体的になってきたため、彼は声をひそめた。だが、こうして他人に打ち明けることに不安を感じ始め、体が震えてきた。しかし、ピエールの穏やかな、真剣に耳を傾ける表情に安心し、彼はさらに続けた。商売敵として傷つけられたプライドが、もう後戻りを許さなかったのだ。
「まあ、すべてが誇張されているのかもしれません。でもね、神父様方がああして店を構えているのは、宗教のために良くないことだと私は思いますよ。我々のような者と同じように商売をするなんて……私だって、ミサのために集めたお金を分けてくれとは言いませんし、彼らがもらう献金から分け前をよこせとも言いません。でも、なぜ彼らが私の売るものを売るのです? おかげで去年の商売は散々でしたよ。すでにこの町は、誰も彼もが“神様の商売”をしているようなものです。そのせいで、まともに食べるパンや飲む水すら手に入りません……ああ、神父様、聖母様が私たちと共にいてくださるとしても、時にはひどい状況になりますよ!」
そこへ旅人が訪れ、彼は中断された。しかし、しばらくして戻ってくると、ちょうど若い娘がマダム・マジェステを呼びに来ているところだった。
その娘はルルドの地元の子で、とても愛らしかった。小柄でふっくらとし、黒髪が美しく、やや広めの顔には明るい陽気さが溢れていた。
「私たちの姪、アポリーヌです」マジェステは紹介した。「彼女はもう二年も店を切り盛りしてますよ。うちの妻の貧しい兄弟の娘なんです。バルトルの村で羊飼いをしていたんですが、その人懐っこさに惹かれて、ここへ連れてきたんですよ。そして、その判断は間違いじゃなかった。商売の才覚があって、とても優秀な売り子になりました」
アポリーヌについては、あまり良からぬ噂がささやかれていた。夜になると若い男たちとともにガーヴ川沿いをさまよっているところを何度か見かけられたという。しかし、実際のところ、彼女は店にとって貴重な存在だった。ひょっとすると、彼女の大きな黒い瞳が、とても愛嬌よく笑うからかもしれないが、彼女は客を惹きつけた。前年は、ジェラール・ド・ペイレロンが店に入り浸っていたものの、結婚のことを考えていたせいか、今年は姿を見せなかった。そして今では、代わりにデゼルモワズ神父が店に頻繁に現れるようになり、大勢の貴婦人たちを買い物に連れてきていた。
「まあ、アポリーヌのことね」と、店から戻ってきたマジェステ夫人が言った。「あなた方、気づかなかった? 彼女はベルナデットに驚くほどそっくりなんですよ…… ほら! そこに、ベルナデットが十八歳の頃の写真が掛かっているでしょう?」
ピエールとゲルサン氏は写真の方へ近づいた。そのとき、マジェステが声を上げた。
「ベルナデットに間違いない! まるでアポリーヌそっくりだ。でも、アポリーヌのほうがずっと美しく、華やかですよ。ベルナデットはどこか悲しげで、貧相な感じがするでしょう?」
ちょうどそのとき、給仕が現れ、小さなテーブルが一つ空いたと告げた。ゲルサン氏は、すでに二度も食堂の中を覗きに行っており、早く食事を済ませて外へ出たいという思いに駆られていた。美しい日曜の陽気の中、街を歩きたいのだ。彼はマジェステの話をこれ以上聞くこともなく、すぐに席へと向かった。マジェステは愛想よく微笑みながら、「お待たせせずにすんで何よりでした」と言った。
彼らが案内されたテーブルは、食堂の奥にあった。そのため、部屋の端から端まで横切らなければならなかった。
そこは細長い食堂で、淡い黄色のオーク材を基調とした装飾が施されていた。しかし、すでに塗装が剥げ、油じみた汚れが浮き出ていた。次々と大食漢たちが席に着くせいで、店内はあっという間にくたびれ、汚れてしまうのだ。唯一の装飾といえば、金色に輝く時計と、その両脇にある細身の燭台が飾られた暖炉の飾り棚だった。また、五つの窓にはギュピールレースのカーテンが掛けられ、その外には太陽が燦々と降り注ぐ通りが見えていた。日よけが下ろされていたものの、鋭い光の矢が隙間から射し込んでいた。
食堂の中央には、八メートルもの長さの相席用の大テーブルが置かれており、定員はせいぜい三十人程度だったが、四十人もの客がぎゅうぎゅう詰めに座らされていた。さらに、左右の壁際には小さなテーブルが並べられ、そこにも四十人ほどの客が押し込まれていた。給仕三人が忙しなく行き来し、そのたびに客が肘を引いたり、身体を縮めたりしていた。
一歩足を踏み入れた途端、圧倒的な喧騒が耳を打った。無数の声が飛び交い、フォークや皿がぶつかり合い、まるで嵐のような騒音が響いていた。それだけではない。食堂は湿気を帯びた巨大な窯のように蒸し暑く、熱気に満ちていた。顔に生ぬるい蒸気が吹きつけ、むせ返るような料理の匂いが充満していた。
アポリーヌ、妖しい娘なんだね(≧∇≦)
返信削除黒髪に黒い瞳ということだけれども、フランス人の女性はブロンドか茶色が多いのでしたっけ。
スペインに近いから黒髪の人も多いのかな。
そうそう、アポリーヌはちょっと妖しい魅力のある娘だね (*´艸`)✨ 若い男たちと夜の川沿いをうろついていたとか、なかなか意味深……。
削除フランスの髪色は、確かにブロンドや茶色が多いけど、地域によって結構違うみたい。ルルドは南仏で、スペインにも近いから、黒髪や黒い瞳の人も結構いるはず!特にバスク地方やカタルーニャに近いエリアでは、濃い髪色の人が多いっていうね。
それに、アポリーヌの「黒い瞳が愛嬌よく笑う」という描写、まるで猫みたいで小悪魔的な魅力がありそう (*ΦωΦ)✨ きっと店の客を虜にしてたんだろうな〜。
マジェスタ夫人もやり手っぽいですね(゚Д゚;)
返信削除しかし、食堂もむんむんした感じのところだわ。
当時のこの地方ではどんな食事が提供されていたと思われますか?
可能ならイラストもお願いします。
マジェスタ夫人、めっちゃ商売上手だよね (゚Д゚;)✨ 巡礼客を逃さず、お土産まで売り込もうとするあたり、経営の手腕が光る!
削除で、食堂の描写、もうムンムン感すごい(笑)!💦 油じみた黄色い壁、ぎゅうぎゅう詰めの客、汗と食べ物の匂いが混じった熱気……「湿ったオーブンに入ったみたい」って、めっちゃリアル。
当時のルルド周辺で出された食事
ルルドはフランス南西部、ピレネー山脈のふもとにあるから、伝統的なガスコーニュ料理や田舎風の素朴な料理が出ていたはず!たとえば:
ガルビュール (Garbure) 🥘
→ キャベツ、じゃがいも、豆、塩漬け肉(鴨や豚)を煮込んだスープ。巡礼客にもぴったりのボリューム満点料理。
カスレ (Cassoulet) 🍲
→ 白インゲン豆と鴨やソーセージの煮込み。ちょっと贅沢だけど、客が多い食堂なら出してたかも?
羊飼い風オムレツ (Omelette du Berger) 🍳
→ ピレネー地方ならではの、チーズたっぷりのオムレツ。
地元のパンとチーズ、ワイン 🍷🥖🧀
→ ピレネー地方はチーズが豊富で、「オッソー・イラティ (Ossau-Iraty)」みたいな羊乳チーズが食べられていたかも!
きっと巡礼客向けに、こういうシンプルだけど滋養たっぷりな料理が出されてたんじゃないかな?