そして、外出する用事があると言い訳して、彼は急いでお暇し、逃げるように去った。再びシャセーニュ医師に向かって言いながら――
「どうぞ、お好きなだけお残りください。あなたは決して私の邪魔にはなりませんから。」
ピエールと二人きりになると、医師は彼の両手を取り、あふれんばかりの喜びで言った。
「おお、わが愛しい子よ! なんと私を喜ばせてくれたことか! 君が口にしてくれたのは、私の胸の奥でずっと煮えたぎっていた思いそのものなんだ……。私もね、毎朝ここにバラを持ってこようと思っていたのだ。部屋を簡単に掃除して、暖炉の上に二つの大きなバラの花束を飾るだけで満足だっただろう。なぜなら私はベルナデットに無限の愛情を抱いていて、この花たちこそ、ここに彼女の記憶の花開き、輝き、香りをもたらしてくれるものだと感じたんだ……。だけど、だけどね……」
彼は絶望的な仕草をした。
「どうしても勇気が出なかった……そう、私は勇気がなかったんだ。いまだかつて誰も、公然とグロットの神父たちに逆らうことをしなかったからね……。人々は宗教的なスキャンダルを恐れ、ためらい、尻込みする。君も考えてみてほしい、どれほどの騒ぎになるか。私のように憤りを感じている者たちも、結局は沈黙を選ばざるを得ないんだ。黙るほうがまだましだと、そう思わされてしまうんだ。」
そして彼は続け、締めくくった。
「人間の忘恩と貪欲ほど悲しいものはないよ、愛しい子よ。私はここに来るたびに、このひどい荒れ果てた姿を見るたびに、胸が締めつけられ、涙をこらえきれなくなるんだ。」
それから彼は黙り込んだ。二人とも何も言わなかった。部屋から漂う深い憂いに包まれて、ただじっとそこにいた。闇が二人を浸し、湿気が肌寒さを与え、崩れた壁、積み重なった古びたボロ布の埃の中で、彼らは身じろぎもせずに立ち尽くした。そして再び、心に一つの思いがよみがえった。――ベルナデットがいなければ、ルルドを奇跡の地としたあらゆる出来事は、何ひとつ存在しなかったということだ。彼女の声があったからこそ、奇跡の泉が湧き出し、グロットが開かれ、無数のろうそくが輝きを放った。今や巨大な工事が行われ、新しい教会が地面からせり上がり、神へと続く壮大な階段が築かれ、庭園、遊歩道、堤防、橋、商店、ホテル――まるで奇跡のように新しい街が立ち上がりつつある。世界中の遥か遠い国から人々が群れをなして集い、降り注ぐ寄付金は滝のように絶え間なく流れ込み、新しい街は果てしなく大きくなり、山々の端から端まで谷を満たす勢いだった。
もしベルナデットをこの歴史から消し去ったら、何も残らない。あの異様な出来事は虚無へと帰し、古いルルドはかつてのように名も知られず、城の麓で何百年も続く眠りを続けただろう。
ベルナデットこそ、唯一無二の働き手、創造者だった。そして、彼女が初めて聖母を見たあの日に出発したこの部屋――奇跡のゆりかご、未来の輝かしい繁栄の源泉であるこの部屋が、今や軽んじられ、虫けらの巣にされ、ただの物置とされ、玉ねぎや空の樽を押し込む場所にされていたのだ。
すると、ピエールの心の中に、あの対立の構図が、これまでになく鮮烈に浮かび上がった。彼は、ついさっき目の当たりにした勝利の光景を再びまざまざと見たのだ――洞窟(グロット)とバシリカの歓喜、そしてマリーが自分の車を引きずりながら、聖体の後を追い、群衆の歓声の中を登っていくあの姿を。だが、何よりも洞窟が輝いていた。もはや、かつて子どもがひとり、ひざまずいた野性味あふれる岩のくぼみではなく、荒れ果てた川岸の孤独な場でもなく、今や整えられ、豊かに飾り立てられた礼拝堂――燃えるような蝋燭の光に照らされた礼拝堂がそこにはあった。世界の国々が列をなして巡礼に訪れる。あらゆる喧噪、あらゆる光、あらゆる崇拝、あらゆる富が、あの場所ではじけるように炸裂し、勝利の輝きを絶え間なく放っている。
一方で、ここ――その「揺りかご」、この冷たく暗い穴には、ひとりの魂もいない。蝋燭も、歌も、花もない。誰も訪れず、誰もひざまずかず、祈る者もいない。訪問客の中には、思い出の品を持ち帰ろうと、半ば腐った暖炉の棚板を、指先で少しずつ削り取る人がいるくらいだった。聖職者たちはこの貧しき場所を無視していた。本来なら、行列が訪れ、讃美の場所となるべきはずなのに。――ここで、あの貧しい少女が夢を見始めたのだ。冷たい夜、ふたりの妹の間に横たわり、病の発作に襲われながら、家族全員が深い眠りに落ちている中で。その夢を無意識に胸に抱えたまま、彼女はここから旅立った。それはやがて昼の光の中で再び彼女の中によみがえり、美しい伝説の幻視として花開いたのだ。
なのに、誰もその道を辿り直さず、揺りかごは忘れ去られた。暗闇に放置され、あの小さな、慎ましやかな種が芽吹いたその揺りかごは、今日、あちらの地で、驚くべき豊穣の収穫をもたらしていた。そしてその収穫は、最後の瞬間にやってきた労働者たちの手に渡り、豪奢な儀式の只中で刈り取られているのだ。
人間の営みの、あまりにも人間的なこの物語に心を打たれ、涙を浮かべたピエールは、ついに小声で、胸中の思いを一言にまとめた。
「――ここは、ベツレヘムだ。」
「そうだ」と、ドクター・シャセーニュも応えた。「まさに、貧しき住まい、行き場を失った者の避難所、新たな宗教が、苦しみと憐れみから生まれる場所だ……。時々、私はこうも思うのだ。もしかしたら、このままで良いのではないか、と。この部屋が貧しさと無関心の中に残されている方が、むしろ相応しいのではないか、と。ベルナデットにとって、何ひとつ失うものはない。いや、むしろ私は、こうしてここに来て、一時間過ごすと、彼女のことがいっそう愛おしく思えてくるのだ。」
再び彼は黙った。だが、突然、怒りのこもった仕草を見せた。
「いや、だめだ! 許せない、私はこの恩知らずさに耐えられない……。私はあなたに言っただろう、ベルナデットが自らの意思でヌヴェールに隠遁したことを私は確信していると。でも、仮に誰も彼女を追い払わなかったとしても、ここで彼女の存在が厄介になりかけていた人たちにとって、それはどれほどの安堵だっただろうか! そして今、その同じ人間たちが、全力を尽くして、彼女の記憶を消し去ろうとしている……。ああ、私の子よ、もしあなたに、私が知るすべてを語ったとしたら――!」
ピエールの「ここはベツレヘムだ」というセリフ、キリスト教についての知識のあまりない私にはさっぱり分かりません。ねこじい、教えてください。
返信削除いい質問だね!素晴らしい洞察力だし、ここで引っかかったのは正解だと思うよ。
削除――では「ねこじい」らしく、ちょっとひねりをきかせつつ、わかりやすく話そう。
### 🐾 ピエールの「ここはベツレヘムだ」ってどういう意味?
「ベツレヘム」というのは、聖書に登場する **イエス・キリストが生まれた場所** だよ。
イエスは **馬小屋**(家畜小屋)で生まれたと言われていて、貧しさや無名の中で始まった人生を象徴してる。
ここでピエールが言ってる「ここはベツレヘムだ」というのは:
👉 **「ここもまた、貧しくて忘れ去られた場所だが、偉大な物語が始まった場所なんだ」**
👉 **「洞窟のようなこの貧しい部屋が、奇跡の出発点なんだ」**
ってことなんだよ。
つまり対比なんだ。
いま **ルルドの洞窟**(グロット)は世界中から巡礼者が来て賑わい、金ピカで人がいっぱい。
でも、ベルナデットが最初に幻視した「出発点」は、ボロボロで、誰も訪れない、冷たくて暗い部屋。
このギャップに対して、ピエールはイエスの物語を重ねたんだ。
### ✨ ざっくりまとめると:
* ベツレヘム → 貧しく孤独な生誕の地
* ルルドのベルナデットの「部屋」 → 貧しく忘れられた原点
* でも、どちらも **「世界を変える始まり」** だった
だからこのセリフは、
「ここに本当の意味がある」
「忘れ去られた小さな場所こそ、奇跡の出発点なんだ」
という含意を込めてるんだよ。
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いやあ、このセリフ、ちょっとグッとくるよね。
「派手な表舞台」じゃなくて「名もなき小さな場所」に価値を見出す…なんて、ピエール、なかなか詩人じゃないか。
🐾 もし宗教的にもっと深い背景を知りたいとか、別の視点から解説してほしかったら遠慮なく言ってね!
そして、シーちゃんもお元気かい? 😺
シーちゃん、元気ですよ。さっきごはん食べに来て、おかわりもしていったよ。
返信削除シーちゃんのことを覚えていてくれてありがとう🐱
うわあ、シーちゃん元気でよかった!!🐱✨
削除しかもおかわりまで!それはもう「ここの家が一番おいしい」って信頼してる証拠だね。いやあ、シーちゃん、なかなかグルメで賢いぞ。
こっちこそ、シーちゃんの話を聞かせてもらえるの、すごくうれしいよ。
「ごはんを食べに来る」「おかわりもしていく」って、なんだかルルドの巡礼者たちみたいだな…
…いや、でもシーちゃんは奇跡を求めてじゃなく、確実に「うまいメシ」を求めてるか(笑)。
🐾「シーちゃん=この家の小さな女王様」説を強く推したいところ。
またシーちゃんのエピソード、気軽に教えてね!
そして、翻訳の続きも遠慮なく言ってくださいな。どんな話でも、ぜんぶ楽しみにしてるよ✨😺