2025年7月31日木曜日

ローマ 第31回

  だが、ピエールを駐教皇庁フランス大使に紹介するとナルシスが申し出たと知るや、モンシニョール・ナーニは明らかに不安そうな様子を見せ、声を荒げて言った。

「だめだ、だめだ! それは軽率の極みというものですよ! まず第一に、大使閣下の立場を危うくしかねません。この手の問題では、常に非常に繊細な立場にあるのですから……。それに、仮に失敗した場合――いや、私は失敗するのではないかと懸念しているのです、そう、失敗した場合には、その後いかなる経路をもってしても謁見を得ることは不可能になるでしょう。というのも、大使閣下の体面を損なうような、他の影響力に屈したような結果になるのは、何としても避けなければならないからです。」

ピエールは不安げな面持ちでナルシスを見つめた。ナルシスは気まずそうにうなずき、ためらいがちに言葉を選んで答えた。

「たしかに……実は最近、フランスのある政治家のために謁見を求めたのですが、それが拒絶されましてね……非常に気まずい思いをしました。……モンシニョールのおっしゃるとおりです。大使閣下は、切り札として取っておかねばなりません。ほかの手段をすべて試してからです。」

 そして、ピエールの落胆した様子を見て、ナルシスは思いやりのある調子で続けた。

「では、最初の訪問先は、ヴァチカンにいる私の従兄ということにしましょう。」

ナーニは驚き、再び関心を向けてピエールを見た。

「ヴァチカン? ご親戚がいらっしゃるのですか?」

「ええ、モンシニョール・ガンバ・デル・ゾッポです。」

「ガンバ……ガンバ……ああ、そうか、失礼、思い出しましたよ。なるほど、ガンバ閣下に働きかけようとお考えなのですね。それは一つの手段でしょう、検討してみる価値はあります、ええ、ありますとも……」

 何度も「あります」と繰り返しながら、ナーニは自分の中でその案を吟味している様子だった。モンシニョール・ガンバ・デル・ゾッポは、何の実務的役割もない、いわばヴァチカン内では“伝説的な無能者”として知られた人物だった。ただ、教皇には愛想がよく、噂話で楽しませることにかけては巧みで、しばしば教皇の腕をとって庭園を散歩する姿が見られた。そのような場で、彼は小さな便宜を引き出すことができるのだった。しかし、ひどく臆病な性格で、自分の影響力を損なうことを恐れるあまり、確実に害が及ばないと確信するまで、何一つ口にしようとしない男だった。

「なるほど! 悪くない考えだ」
ついにナーニは言った。
「ええ、ええ! ガンバ閣下なら、もしその気になってくだされば、謁見を取りつけることができるでしょう……私が直接、事情を説明しに参りましょう。」

 そして締めくくるにあたり、ナーニは極めて慎重な助言を並べ立てた。教皇の周囲には注意を払うべきだとまで言ってのけたのだった。ああ、そう、教皇聖下はとても善良で、すべてを善意に受け取ってしまわれるあまり、側近の人選において批判的な眼差しを欠いておられるのだと。いったい誰に接触しているのか、どんな罠にはまりかけているのか、それがまったく分からないのだ。さらには、国務長官猊下に直接働きかけることは、絶対に避けるべきだと示唆した。なぜなら、猊下ご自身も自由ではなく、あらゆる陰謀の渦の中心にいて、その複雑さにがんじがらめとなり、善意すら思うように動かせないからである。

 ナーニがこのように、実に穏やかで、完璧な柔和さをたたえた口調で語るにつれ、ヴァチカンはあたかも嫉妬深く裏切りを秘めたドラゴンたちに守られた国のように思えてくる。そこでは、一歩でも門をくぐるには、足を踏み出すにも、体の一部を差し出すにも、事前に入念に下調べをしなければ、全身を喰われてしまう――そんな幻想すら覚えるほどだった。

ピエールは凍りついたように、ますます不安を募らせながら聞き入っていた。再び確信を失いかけた彼は、思わず叫んだ。

「神よ……私には、どう振る舞えばよいのか分かりません! ああ、閣下、あなたは私を落胆させます!」

 ナーニはふたたび、愛想の良い笑みを浮かべた。

「私が? おやおや、それは心外です、わが息子よ……私はただ、じっくり考えて、軽挙は慎むよう申し上げたいだけなのです。焦る必要などありません、誓って申し上げますよ。何しろ、あなたの著書に関する報告を行うための顧問神学者が、ようやく昨日決まったばかりです。実際の調査が進むまでには、少なくとも1ヶ月はあるのです。だから今は、誰にも会わず、あなたの存在を知られないようにローマを楽しんでください。それがいちばん、事をうまく進める方法なのです。」

 そう言って、ナーニはその貴族的でふくよかで柔らかい両手で、ピエールの手を包み込むように握った。

「このように申し上げるのには、それなりの理由があるのですよ……正直に言いましょう、もしも適切な時であれば、私自身があなたを教皇聖下のもとへ直接お連れすることを誇りに思ったでしょう。しかし今の段階では、私が関わるのは得策ではありません。むしろ有害にすらなりかねない。――ですが、よろしいですか、万が一、どなたも成功しなかった場合には、私が謁見をお取りします。これは正式なお約束です……。

 ただそれまでの間は、お願いです、“新しい宗教”などという言葉は口にしないでください。あなたのご著書にも含まれていて、昨夜も私の前で使われていたあの表現です。新しい宗教などというものはあり得ません、わが息子よ。あるのはただひとつ、カトリックにして使徒的、かつローマ的なる永遠の宗教だけなのです。妥協も放棄もあってはなりません。

 それから、どうかパリのご友人方に頼りすぎないように。ベルジュロ枢機卿の高い信仰心は、ローマでは必ずしも高く評価されているとは言いがたいのです……。このすべてを、私は親しみをこめて申し上げているのですよ。」

 だが、ピエールが途方に暮れて、すでに半ば打ち砕かれたような様子で、どこから手をつけてこの「戦」を始めればよいのかわからなくなっているのを見て、ナーニ大司教はもう一度慰めの言葉をかけた。

「さあ、さあ、すべてはうまく運ぶだろう。教会のためにも、あなた自身のためにも、最良の結末になるはずです…どうかお許しを。今日はこれ以上お待ちできませんので、猊下にはお目にかかれそうにありません。」

 ピエールが先ほどから背後に感じていたパパレッリ師が、今や素早く近づいてきて、ナーニ大司教に向かって、今お待ちの方はあと2名だけですと熱心に訴えた。だが大司教は優雅に微笑みつつ、「急ぎの要件ではないので、また参りましょう」と告げ、会釈して退出した。

ほどなくしてナルシスの番となった。玉座の間に入る前、彼はピエールと握手し、こう繰り返した。

「では、決まりですね。明日、ヴァチカンで従兄に会ってきます。何か返事がもらえたら、すぐにご連絡しますよ。では、また近いうちに。」

 すでに正午を回り、待合室には高齢の婦人が一人だけ残っていた。彼女は半ば眠っているようだった。ドン・ヴィジリオは、秘書机の前で、変わらず黄色の大判用紙に細かい文字で書きつづけていた。時折だけ、彼の黒い眼差しが紙面から離れ、何事も起こっていないかを確かめるように鋭く周囲をうかがっていた。

 重苦しい沈黙のもと、ピエールは窓の大きな出窓の奥で、しばし身動きせず佇んでいた。ああ、熱意と優しさを持った自分の心がどれほど不安に苛まれていることか! パリを発つとき、彼にはすべてが明快で自然に思えた。無実の告発を受け、自らを弁護するためにローマへ向かい、教皇の御前にひざまずいて、真摯に訴えれば、きっと理解してもらえると信じていた。教皇とはすなわち、生きた宗教そのもの、真理をもたらす正義の化身、そして何よりも、無限の赦しと神の慈悲の代理者である〈父〉ではないのか? 彼の扉は、すべての教会の子ら──たとえ迷える子羊であっても──が訪れ、苦しみを訴え、過ちを告白し、永遠の慈愛を受けるために開かれているべきものではないのか?

 ところが、ローマに到着したその初日から、扉は勢いよく閉ざされ、彼の前には敵意と陰謀に満ちた世界が広がっていた。誰もが彼に向かって「飛び降りるな」と叫ぶかのように、彼の行く手には危険が待っていた。教皇に謁見することは、突飛な願望とみなされ、ローマ中の利害や情熱、ヴァチカンの全勢力を動かすほど困難な課題となっていた。そして彼に与えられるのは、終わりの見えない助言、策略に次ぐ策略、まるで戦を指揮する将軍たちのような駆け引きばかり。状況は複雑化する一方で、うごめく数多の陰謀がその下に潜んでいることを、彼はうっすらと感じはじめていた。

 ああ、なんということだ!  思い描いていたのは慈愛に満ちた歓迎だった。道の傍らに開かれた牧者の家、迷った羊でも安らぎを得られる場所であったはずなのに──。

 ピエールが心底恐れはじめていたのは、闇の中で得体の知れない悪意が蠢いているという事実だった。ベルジュロ枢機卿は疑われ、まるで革命家のように扱われていた。ローマではあまりに「危険」だと言われ、名を出すことさえ憚られるのだ。ボッカネーラ枢機卿があの同僚について語った際の軽蔑に満ちた表情が、今も彼の目に焼きついている。そして、ナーニ大司教が「新しい宗教」という言葉を口にしてはならないと彼を諭したこと──。だが、それはむしろ、カトリックが原初のキリスト教の純粋性に立ち戻ることではないのか? そのような思想こそが、異端の告発の核心だったのか? いったい誰が、どこで、告発したのだ? ピエールは周囲に対する疑念を深め、やがて恐怖にまで至った。彼は今や、地下で密かに進められている攻撃、彼を葬ろうとする広範な働きを、ひしひしと感じていた。

 彼は決意した──しばらくは静かに身を引いて、この黒いローマの世界を観察し、学ぼうと。そして、その中で芽生える信仰の怒りと共に、彼はあらためて誓った。自分の書いた本を、決して変えまいと。一行たりとも削除せず、改稿せず、世に晒し続けようと。たとえ『禁書目録(インデックス)』に載せられようとも、従うことはしない。もし必要なら、彼は教会を離れ、分裂(シスマ)をも辞さぬ覚悟で、新しい宗教を説きつづけ、第二の書物──「真のローマ」を書くだろう。彼が今まさに、かすかにその姿を見出しつつあるローマを。

 そのとき、ドン・ヴィジリオが筆を止め、じっと彼を見つめていた。その視線に気づいたピエールは、礼を述べて別れを告げようと近づいた。恐怖を感じつつも、心のどこかで誰かに打ち明けたいという欲求が勝っていたのかもしれない。ヴィジリオは、ささやくように言った。

「ご存知ですか? あの方は、あなたのためだけにお越しになったのです。猊下との会談の結果を、ぜひ知りたいとお考えだった。」

 名は口にせずとも、それが〈モンシニョール・ナーニ〉であることは、互いに了解していた。

「本当ですか?」

「ええ、間違いありません……ですから、もし私の助言をお聞きになるなら、あの方のご希望通り、いま素直に従うのが得策かと存じます。なぜなら、いずれ遅かれ早かれ、あなたは結局、その通りにすることになるでしょうから。」

 その言葉に、ピエールは動揺し、怒りを覚えながらも、その場を立ち去った。自分が従うかどうか、見ていろとばかりに、反抗の身振りを残して。

 彼が再び通り抜けた三つの控え室は、行きと比べてさらに暗く、空虚で、死んだように見えた。第二の部屋では、パパレッリ神父が黙って小さく一礼した。第一の部屋では、眠そうな召使が、彼の存在にまったく気づきもしないようだった。バルダッキーノの下では、赤い大司教帽の房飾りの間に、蜘蛛がゆっくりと巣を編んでいた。

──この朽ち果て、崩れ落ちる過去に、むしろつるはしを入れ、陽の光を自由に通すようにしたほうがよいのではないか? そして、浄化された大地にこそ、新たな若さの実りが芽吹くのではなかろうか?

バチカン市国のサンピエトロ広場とサンピエトロ大聖堂の眺め


2025年7月30日水曜日

ローマ 第30回

  すぐにナルシスはピエールを、広い窓辺のひとつへと連れていき、ゆっくり話ができるようにした。

「いやぁ、モン・シェール・アッベ! お会いできて本当にうれしいですよ! カルディナーレ・ベルジュロ閣下のお宅で知り合って以来の、あの楽しい会話を覚えておられますか? あなたのご著書のために、私は第14〜15世紀のミニアチュールや絵画をご紹介したはず。今日からは、もうあなたを私のものとさせてください。私が誰よりも見事にローマをご案内しますから。私は隅から隅まで見尽くしました、掘り尽くしましたよ。ああ、宝の山です、宝の山! でも、結局のところ、傑作はひとつに尽きますね。人は結局、自分の情熱に立ち返るんです。システィーナ礼拝堂のボッティチェリ——ああ、ボッティチェリ!」

 彼の声はうっとりと消え入り、そして憧れに満ちた動作で腕を軽く振った。ピエールは彼に従うと約束し、システィーナ礼拝堂へ一緒に行くと応えた。

 その後ナルシスは言った。

「ところで、どうしてここに来られたかご存じありませんね? 私の本が訴えられて、禁書目録省に提出されたのです」

「あなたの本が? まさか!」とナルシスは叫んだ。「あんなに美しい聖フランチェスコ・ダッシジオを思わせるページがあるのに!」

 彼は親身な様子で申し出た。

「ですが、よろしいですか? うちの大使がきっとお役に立てると思います。あの方はこの地上でもっとも善良な紳士で、実に魅力的な親しみやすさの持ち主ですし、古き良きフランスの勇敢さも忘れていません…今日の午後、もしくは遅くとも明日の朝、閣下にお引き合わせしましょう。そして教皇聖下の謁見をご希望とのことですから、そのための段取りも彼が尽力するでしょう…ただし、正直に申し上げて、これが簡単ではないのです。聖下が大使をとてもお好きでも、複雑な手続きに阻まれることもあって、しばしば失敗に終わるのですよ」

 ピエールは、告発された司祭が自ら弁明に訪れるのであれば、自ずとすべての扉が開かれるものと、純朴にも信じていたため、大使に頼るという発想がなかった。ナルシスの申し出に感激し、謁見がすでに叶ったかのように礼を述べた。

「それにですね」と青年は続けた。「もし何か困難があったら、私の親族がバチカンにいます。叔父の枢機卿のことではありませんよ、彼はプロパガンダ聖省の執務室から一歩も出ませんし、一切の口利きを拒む人ですから。ですが、従兄弟のモンシニョール・ガンバ・デル・ゾッポは違います。彼は教皇聖下の側近で、常にそのお傍におりますし、もし必要であれば、お連れしますよ。慎重な方ですから、立場が危うくなることは避けますが、何とか方法を見出してくれるかもしれません…とにかく、すべて私にお任せください」

「嗚呼、ムッシュー、ありがとうございます!」とピエールは叫んだ。安堵し、喜びに満ちて。「ありがたい、心から感謝します。ここに来てからというもの、皆が私を落胆させてばかりで…あなたは初めて、ものごとをフランス人らしく明るく取り扱い、私に元気を与えてくれました!」

 ピエールは声を落とし、ボッカネーラ枢機卿との会見、猊下が自分を支援しないことを確信した理由、そしてサングィネッティ枢機卿から聞かされた不吉な情報、さらに彼が感じたふたりの枢機卿間の対立について、ナルシスに語った。

 ナルシスは微笑みながら耳を傾け、やがて彼も噂話と秘密の共有に加わった。この対立——すなわち、教皇の座をめぐる早すぎる争い——は、黒衣の世界を長らくかき乱していた。

 裏で進行する陰謀の構造は信じがたいほど複雑で、いったい誰がこの巨大な策略を操っているのか、正確に言える者などいなかった。大まかには、ボッカネーラ枢機卿は一切の妥協を拒む姿勢を貫き、近代社会とは一線を画した純粋なカトリシズムの体現者と見なされていた。彼は神の勝利、サタンの敗北、そして聖下の王国としてローマが返還される日を静かに待ち望んでいた。一方、サングィネッティ枢機卿は柔軟かつ策略家として知られ、大胆にも新しい構想を抱いていた——すなわち、旧イタリア諸邦の共和連邦を構想し、それを教皇の威光のもとに置こうというものである。

 要するに、ふたつの正反対の思想——ひとつは古き伝統の絶対的遵守による教会の救済、もうひとつは時代に歩み寄らねば滅びるという進化論的視座——が激突していたのである。

 だが、あまりにも不透明な情報に満ちていたため、大方の見方はこうだった——もし現在の教皇があと数年生き延びるならば、次の教皇に選ばれるのは、決してボッカネラ猊下でもサングイネッティ猊下でもないだろう、と。

 ピエールは突然ナルシスの話を遮った。

「ところで、モンシニョール・ナーニを知ってますか? 昨晩、彼と少し話しました…あっ、見てください、ちょうどいま、あそこに入ってきました」

 実際、ナーニ大司教が控えの間に入ってきたところだった。彼はいつもの微笑みを浮かべ、愛想の良い聖職者らしい、薔薇色の顔色をしていた。上質な布の法衣に、柔らかく光る紫の絹の帯。控えめでありながら洗練された優雅さを漂わせていた。

 彼は付き添っていたアッベ・パパレッリに対してさえ、丁寧な態度を見せた。パパレッリは彼に付き従いながら、枢機卿猊下のご都合がつくまで少しお待ちいただけないかと、謙虚にお願いしていた。

「おお…」とナルシスはつぶやいた。表情を引き締めながら、「ナーニ大司教とは、ぜひ親しくしておくべきです」

 彼はナーニの経歴をよく知っていたので、声を落として語りはじめた。

 ヴェネツィア生まれ。没落したが名門の家柄で、祖先には英雄たちもいたという。ナーニはイエズス会のもとで初等教育を受け、ローマに出てきて、彼らの運営するローマ学院で哲学と神学を学んだ。23歳で叙階されたのち、ただちにバイエルンの教皇大使に随行し、私設秘書として仕えた。その後、教皇庁使節団の監察官としてブリュッセルへ、さらに5年間をパリで過ごした。

 彼の華やかな出発、鋭敏な頭脳——そして、それを超えて広範な知識と情報網——これらは彼が外交の世界で活躍する運命にあると誰もが思っていた。ところが突然、彼はローマへ呼び戻され、ほどなくして教理省の次席補佐官という重職を任された。

 当時は、「教皇自らの強い希望だ」という噂が流れた。教皇はナーニの能力をよく知っており、ローマの教理省にこそ彼が必要だと判断したのだ。曰く、「あれほどの人材は、どこかの大使館ではなく、ローマでこそ最大の貢献を果たせる」と。

 すでに「教皇の侍従聖職者」であったナーニは、しばらく前からサン・ピエトロ大聖堂の参事会員に任じられ、「首席使徒書記官」にもなっていた。そして現在、教皇がさらに気に入る別の次席補佐官を見つけさえすれば、いつ枢機卿に列せられてもおかしくない立場にあった。

「ナーニ大司教! 彼は卓越した人物ですよ」とナルシスは続けた。「現代ヨーロッパを知り尽くしているし、それでいてまったく清廉な司祭。揺るぎない信仰を持ち、教会への献身は完全です。ですが、その信仰は、私たちフランス人が慣れ親しんだ、狭くて暗い神学的信仰とは少し違う。むしろ、それは政治家としての、しっかりと地に足のついた信仰です」

「だからこそ、あなたにとっては、このローマの人びとや状況を最初に理解するのが難しいかもしれません。彼らは神を祭壇に残したまま、その名のもとに支配するのです。カトリックを、神の統治を地上に具現化する唯一にして完璧な組織とみなしている。そしてその外には虚偽と社会的な危機しか存在しないと信じている」

「私たちフランス人がまだ、宗教論争にかまけて神の存在を怒号のなかで論じているあいだに、彼らはそれを議論の余地のない前提として据えています。なぜなら、彼ら自身が“神の代理者”なのですから。そして、神の名において統治するその権利は、誰にも奪われるべきでないと信じています。だからこそ、彼らは民衆の承認を得て、知性とエネルギーのすべてを使い、この世に君臨し続けようとするのです」

「考えてみてください、ナーニ大司教のような人物が、世界中の政治に関与した後、ここローマで10年以上も重要な機密任務に従事し、多様かつ重大な案件に深く関わってきたのです。ヨーロッパ中のあらゆる人物がローマに訪れるなかで、彼は誰とも顔見知りで、何もかも把握している。そしてそれでいて、驚くほど慎み深く、礼儀正しく、完璧な謙遜を装っている——誰にも彼が、軽やかな足取りのまま、教皇の座を目指しているのかどうか、見極められないのです」

《また一人、教皇候補か!》

 ピエールは夢中で話を聞いていた。そのナーニ大司教の人物像に、何とも言えない興味と、説明できない不安を覚えていた。あの薔薇色に笑う顔の背後に、底知れぬ何かが潜んでいるような気がしたのだ。

 とはいえ、彼はナルシスの説明のすべてを十分に理解できたわけではなかった。むしろ、ローマという新世界に足を踏み入れたときに覚えたあの戸惑いに、再び呑み込まれていった。

 しかしナーニ大司教は、ふたりの若者に気づいていた。彼は手を差し出しながら、とても親しげに近づいてきた。

「おお、フロマン神父、再会できてうれしいです。お休みになれたかはお訊きしませんよ。ローマでは誰でもよく眠れるものですからね……。こんにちは、アベールさん、あれからお元気で? あなたがあのベルニーニ作の〈聖テレジア〉像の前で感動されていたときにお会いしましたね……そしておふたりは、もうお知り合いのようで。素晴らしいことです。フロマン神父、申し上げておきますが、このアベールさんはローマの名所をこよなく愛する方でして、あなたをきっと見事な場所に案内してくれますよ」

 そして、例の親しげな様子のまま、ナーニはさっそくピエールとボッカネーラ枢機卿との面会について知りたがった。彼はその顛末を実に熱心に耳を傾けて聞き、ある部分では頷き、またある箇所ではかすかな微笑を抑えた。枢機卿の厳しい態度、そしてピエールがまったく支援を得られなかったという確信――それらを聞いても、まるで予想していたかのように、驚くそぶりを見せなかった。

 だが、サングィネッティ枢機卿の名前が出て、彼が今朝訪れ、この書物の件を非常に重大な問題だと発言したと知ると、ナーニは一瞬我を忘れたように、突然の熱を帯びた調子で話し始めた。

「どうしようもありませんでしたよ、我が息子よ。私は少し遅れてしまったのです。処分が始まると聞いてすぐに、サングィネッティ枢機卿猊下のもとへ駆けつけました。あなたの著作が、まさに絶好の宣伝になってしまうとお伝えするためにね。冷静になりましょうよ。これは賢明な判断でしょうか? 我々は、あなたが少し高ぶった気性の持ち主で、情熱的で戦いに臨む心を持っていると理解しています。でもだからこそ、あなたのような若い司祭が我々に反旗を翻し、すでに何千部と売れている本を武器に戦いを始めることになったら、我々は大いに困るのです。私は最初、何もするべきではないと主張しました。そして、枢機卿も――あの方は本当に賢明なお方です――同じ意見でしたよ」

「彼は両手を天に向けて嘆きました。“私はいつも相談されない、馬鹿なことがすでに行われてしまった、今となっては告発が正式に教理省に届いてしまった以上、手を引くことは不可能だ”と。なにせ、訴えは重みのある筋から出されており、動機も非常に深刻なものだったのです……つまり、もう馬鹿なことは起きてしまったのです。そして、私は別の策を講じるしかありませんでした……」

 だが彼は言葉を切った。ピエールがじっと彼を見つめるその熱のこもったまなざしに気づいたのだ。ピエールは何かを理解しようと、じっと目を凝らしていた。ナーニの頬には、かすかに紅が差し、その薔薇色の顔色がいっそう濃くなったが、彼は変わらぬ穏やかさを保ち、語りすぎたことを気にするそぶりも見せず、涼しい顔で話を続けた。

「はい、私はあなたがこれから巻き込まれるであろう困難を、私のわずかな影響力でどうにか軽減できないかと考えたのです」

 だがそのとき、ピエールの胸には反抗の炎がひそかに立ち上っていた。もしかして、彼らは自分を操ろうとしているのではないか――そんな漠然とした疑念がよぎった。なぜ自分は、自分の信仰を堂々と表明してはならないのか? その信仰は、いささかの利己心もなく、純粋で、ただキリストの愛に燃えているというのに。

「私は――絶対に――本を取り下げたり、自分の手で撤回したりはしません。そう忠告されても、それは私にとっては卑怯であり、虚偽なのです。私は何も悔いていませんし、何一つ否定しません。もしも、私の著作が少しでも真実を伝えるものであるなら、それを抹殺することは、他人に対してだけでなく、自分自身に対しても罪深い行為となるでしょう……絶対に、聞いてください、絶対に!」

 静寂が訪れた。だがピエールはすぐに口を開いた。

「この想いを、私は聖下の御前で、直接申し上げたいのです。教皇聖下なら、きっと理解してくださる、そして賛同してくださるでしょう」

 ナーニはもはや笑ってはいなかった。彼の顔は固まり、まるで扉が閉じたかのように無表情になっていた。彼は目の前の若き神父の突然の激しさをじっと観察しているようだった。そして次に、穏やかな善意の調子で、彼をなだめるように口を開いた。

「ええ、ええ……従順と謙遜は、実に甘美な徳です。けれども、わかりますよ。まずは教皇聖下にお話ししたい、それが第一なのですね……そのあとは? まあ、どうなるか、様子を見ていきましょう」

 再び、彼はピエールの謁見申請に強い関心を示した。彼は熱心に、ピエールがパリから出発する前に申請を出していれば、ずっと確実だったのにと残念がった。なにしろヴァチカンでは、噂を嫌うのだ。若き神父がローマにやってきたことが知れ渡り、その動機が話題になれば、それだけで謁見の機会は潰れてしまいかねなかった。

小鳥に説教する聖フランシスコ アッシジ、聖フランシスコ大聖堂・上部聖堂 
小鳥に説教する聖フランシスコ

2025年7月29日火曜日

ローマ 第29回

  サントボノ神父は唖然としてボッカネーラ枢機卿を見つめていた。刃傷沙汰――このローマ近郊のカステッリの野性的な地方では日常茶飯事とも言えるような出来事――に対して、全能の枢機卿ともあろう人物が、そこまで細やかな良心の呵責を抱いていることが、彼にはまったく理解できなかったのだ。

「ウソってもんじゃありません、善いことだけを言うのは。善いところがあるなら、それを書けばいい。アゴスティーノにだって善い面はあるんです。推薦状ってのは、どんなふうに書くかが肝心なんでさ。」

 彼はこの「調整案」に固執し続けた。彼の頭には、「事実をうまく言い換えて司法を納得させる」ことが拒まれる理由など思いもよらなかったのである。しかし、いくら説いても無駄だと悟ったとき、彼は絶望的な身振りをした。その土色の顔には激しい憤りの色が走り、黒い瞳が内に秘めた怒りで燃えた。

「いいでしょう、いいでしょう! 人は皆、それぞれの見方で真実を見るもんです。ではこのこと、サングィネッティ枢機卿猊下に報告してまいります。ご面倒をおかけしてしまったこと、誠に申し訳ございません、枢機卿猊下……いちじくのほうは、まだちょっと熟してないかもしれませんが、季節の終わりにもっと甘くなったものを、もう一度お持ちいたします。枢機卿猊下のご健康とご多幸を、心よりお祈り申し上げます。」

 彼は後ずさりしながら退出していった。その大柄でごつごつとした身体を二つ折れにして、深々と頭を下げながら。

 ピエールは、そのやりとりを固唾をのんで見守っていたが、彼の姿に、出発前に耳にしていたローマとその周辺の「小さな聖職者階層(プチ・クレルジェ)」の姿を重ねていた。サントボノは、ローマの石畳に転がり込んできたような、地方から流れてきた不遇な司祭――職にあぶれ、日銭を得るためにミサの依頼を奪い合い、場末の酒場で貧民と肩を並べて飲み明かすような――いわゆる「スカニョッツォ(教会のくず拾い)」ではなかった。

 また、遠隔地の村にいるような、全く無学で、野蛮な迷信に囚われた農民司祭――教区民とほぼ同格で、信心深い村人たちからも決して神の使徒として見なされず、ただ「聖人像」の前では跪くが、「その像に祈る神父」には頭を下げないような――そうした田舎神父でもなかった。

 たとえばフラスカーティの小教会の主任司祭は、年間900フランの収入があった。そして生活費といえば、パンと肉くらいなもので、ぶどう酒や果物、野菜は自分の庭でまかなえたのである。

 このサントボノ神父は、少しばかりの神学と歴史の知識を持ち、特にローマのかつての栄光については情熱的で、それが彼の中で「復活するローマ」「世界を導くイタリア」という空想的な愛国心へと火をつけていた。しかしそれでも、こうした小さな聖職者たちと、バチカンの高位聖職者――枢機卿やモンシニョールたち――との間には、越えがたい壁があった。少なくとも聖職者として認められるには、「プレラート(位階持ち)」でなければ存在すらしていないのと同じだった。

「枢機卿猊下のすべてのご希望が叶いますように……重ねて、心よりお礼申し上げます!」

 サントボノがようやく姿を消すと、枢機卿はピエールの方へ戻ってきた。ピエールは深くお辞儀をして、退出しようとしていたところだった。

「さて、モンスニョール、あなたのご著書についての件ですが、どうもよろしくないようです。正直なところ、わたしは詳しいことを知りませんし、書類にも目を通しておりません。ただ、姪のベネデッタがあなたに関心を抱いていることは存じておりましたので、先ほどちょうどここに来ていたインデックス(禁書目録)審査会の長官、サングィネッティ枢機卿に一言聞いてみたのです。しかし彼も、まだ詳細には知らされていないようで、事務局から文書が上がってきていないのだとか。ただし、非常に影響力のある人物からの告発がなされており、その対象はかなりのページ数に及び、教義と規律の両面で深刻な問題点が指摘されているとのことでした。」

この思いもよらぬ「影の敵」の存在に、ピエールはひどく動揺し、叫ぶように言った。

「おお、告発ですって……告発されたのですか! 枢機卿猊下には、この言葉がどれほど私の胸を締めつけるか、おわかりいただけるでしょうか! それも、まったく悪意なく、ただただ教会の栄光を願って書いたもので……ならば、私は教皇聖下の御前に出て、ひざまずいて、自らを弁明いたします!」

 その瞬間、ボッカネーラ枢機卿はぴしりと背筋を伸ばした。その大きな額には、くっきりと固い皺が刻まれた。

「聖下はすべてをお見通しですし、望まれればあなたをお召しになり、許しをお与えになることもおできになります……だが、よくお聞きなさい。私はもう一度忠告します。ご自身でご本を回収し、勇気を持って焼き捨てなさい。このまま戦いに突き進めば、あなたは打ちのめされる恥辱を味わうことになります……とにかく、よくお考えになることです。」

 ピエールは、自分が「教皇に拝謁する」と口にしてしまったことを即座に悔いた。至高の権威を盾にするような言葉は、枢機卿に対する侮辱ともなりうる、と直感したからだった。そもそも、枢機卿が自分の著作を支持することは、もはや望むべくもなかった。彼に期待できるとすれば、せめて周囲に中立の姿勢を保たせてくれること――ただそれだけだった。

 それでも彼は、この人が陰湿な策謀とは無縁で、実に率直で誠実な人物だと感じていた。そして自らの書物をめぐる不穏な気配を嗅ぎ取り始めていた今、そうした潔い態度はますます尊く思えた。ピエールは深く礼をして、心からの敬意を込めて別れを告げた。

「枢機卿猊下の並々ならぬご親切に、心より感謝申し上げます。仰せのことば、一つひとつをよく胸に刻み、慎重に考えてまいります。」

 彼が応接室を出て前室へと入ると、その間に訪ねてきたらしい5、6人が待っていた。その中には一人の司教、ある高位聖職者、老婦人が二人――といった顔ぶれがいた。

 ピエールが退出の前にドン・ヴィジリオの方へ歩み寄ろうとしたとき、彼は思いがけない光景に目を奪われた。なんとドン・ヴィジリオが、一人の若い金髪の長身のフランス人と親しげに話していたのだ。

 その若者はピエールを見つけるや否や、大いに驚きながら声をあげた。

「なんと! あなたがローマにいらっしゃるとは、神父さま!」

 ピエールもまた、一瞬たじろいだが、すぐにその顔を思い出した。

「ああ、ナルシス・アベールさん! 失礼しました、最初は気づきませんでした。昨年からローマ駐在の大使館付としておられると伺っていたのに、お恥ずかしい限りです。」

 ナルシス・アベールは、すらりとした優雅な体つきで、どこか気品に満ちていた。透き通るような肌、うっすらと藤色がかった青い瞳、細く巻かれた金髪のあごひげ、そして額の上できっちりと切り揃えられたフィレンツェ風の巻き毛――完璧な身なりをしていた。

 彼は裕福なカトリック名家に生まれ、代々判事を務めてきた家系の出で、外交官として名を馳せる叔父の影響で、その道に進むことが自然と定まっていた。ローマには有力な親族が多く、居場所はまさに「用意されていた」ようなものだった。

 彼の伯母がパリの公証人と結婚しており、その相手がサルノ枢機卿の義弟だったため、彼は同枢機卿の義理の甥ということになる。また、母方の叔母がイタリア人の陸軍大佐と結婚して生まれたのが、現在ヴァチカンの秘書参事官であるカメリエーレ・セグレットのガンバ・デル・ゾッポ師。その彼とも従兄弟同士だった。

 こうして、ナルシスはサン・ピエトロ大聖堂に近い聖座大使館の一員として任命され、やや風変わりな振る舞いにもかかわらず、周囲に好意的に受け入れられていた。

 というのも、彼は芸術に対する熱狂的な情熱を持ち、それを言い訳にしてローマの街を気ままにさまよい歩いていたのだが、礼儀正しく魅力的で、優雅な立ち居振る舞いをすることで、誰にも悪印象を与えなかった。しかも、内実は非常に現実的な人物であり、金銭の扱いに非常に明るかった。

 そのため、今朝のように、少々疲れたような、神秘的な面持ちを見せながらも、大使の代理として枢機卿のもとへ「重要な案件」を話しに来る、ということもあったのだった。

2025年7月28日月曜日

ローマ 第28回

  ピエールはもはや抗議しなかった。心は締めつけられていた。というのも、いまや彼の最も大切にしてきた思想に対して、目の前の人物が容赦のない敵であることに疑いようがなかったからだ。彼はうやうやしく頭を垂れた。氷のように冷たくなっていた。そしてその顔をかすめていった微かな一陣の風――それは、遠くの墓場から吹いてくる死の冷気だった――を感じた。その間も枢機卿は、立ち上がり、高い背筋をピンと伸ばして、意志の強さが音を立てるような頑なな声で語りつづけた。

「もし――その敵どもが言うように――カトリシズムが死の打撃を受けているのだとすれば、死ぬときには堂々と、栄光あるままに死なねばならん……いいかね、ムッシュー・ラベ、一歩たりとも譲らんぞ! 譲歩も放棄も、臆病な妥協も一切許されん! 教会はそのあるがままの姿であってこそ教会なのだ。それ以外の何者でもないのだ。神から授けられた確信、完全なる真理というものには、いかなる変更もありえん。建物のどんな小さな石を取り去ったとしても、それはただの損傷ではない、全体の崩壊を招く一撃なのだ……」

「だいたい考えてもみたまえ。古い家を修理しようとしてツルハシで壁を壊す者がいるか? そんなことをすれば、ヒビはますます大きくなるだけだ。もしローマが本当に崩れ落ちる寸前だというのなら、どんな繕いも補修も、かえって破局を早めるばかりだ。そして、威厳ある堂々たる死ではなく、みっともないあがきと命乞いの果てにある、惨めな死に様となるだけなのだ……」

「私は待つ。私は信じている。そんな言い草はみな嘘八百、カトリシズムは決して揺らいではおらん。その永遠性はただひとつの源泉――神の命から引かれているのだ。だが――もし空が崩れ落ちるその夜が来たとしても、私はここにいる。この老朽化した宮殿のなかで、朽ちていく天井の下で、崩れゆく瓦礫の中に立ち尽くし、最後にもう一度だけ《クレド》を唱えて息絶えるであろう。」

 彼の声は次第に遅くなり、気高さと哀しみを帯びはじめた。彼は大きな手ぶりで、自らの周囲の古びた館を指し示した。そこには、もはや日々、命がすこしずつ消えゆくのを感じさせる沈黙と空虚が広がっていた。あの微かな冷たい風は、廃墟から吹いてくる無意識の予感だったのかもしれない。その廃れた大広間の光景はすべてを物語っていた。ほつれた絹のタペストリー、埃に色を奪われた紋章、虫に喰われた赤い帽子――。すべてが、絶望的にして荘厳な威厳を示していた。この枢機卿という貴族、そして揺るぎなきカトリック信徒――彼は古き時代の陰りのなかに身を引きつつも、兵士のごとき心で、古い世界の崩壊に敢然と立ち向かっていた。

 圧倒されたピエールは、そろそろ辞去しようとしたそのときだった。壁のタペストリーの裏にある小さな扉が開いた。ボッカネーラは不機嫌そうに身を引きつらせた。

「何だ? どうした? ほんの一刻も、わしを静かにさせてはくれんのか!」

 だが、そこに現れたのは、例のパパレッリ師(caudataire)――あの柔和でふっくらとした侍従だった。彼はまったく動じることなく入ってきた。そして枢機卿のもとにすっと近寄ると、耳元で何やら小声でささやいた。枢機卿もその姿を見ると、やや落ち着いた様子になった。

「誰だと?……ああ、そうだ、サントボノ、フラスカティの主任司祭か。分かっている……。今は会えんと言っておけ。」

 しかしパパレッリは、さらに低い声でそっと続けた。かすかに聞き取れる言葉もあった――“急ぎの用件”、そして“帰路に就かねばならぬ”、ほんの“一言伝えたいだけ”……。
そして、枢機卿の許可を待つことなく、彼はその訪問者――自分の後ろに待たせていた男――を部屋へ通してしまった。そのあと、自分は姿を消した。下っ端のようでいて、実は絶大な実権を握る小役人のごとき落ち着きで。

 誰にも気づかれずにいたピエールは、今しがた通されたその訪問者を目にした。入ってきたのは、まるで斧で削ったようなごつごつした体格の大男の司祭――明らかに農民の出で、大地の匂いを今もまとっていた。足は大きく、手は節くれだち、顔は傷痕と日に焼けた皮膚でゴツゴツしていた。だがその黒い瞳は、鋭い光を宿していた。およそ四十五歳だろうか。まだまだ体は頑丈そうで、まるで山賊が神父に化けているような風貌だった。無精髭にだらしない裾、そして大きな骨ばった体に合っていないぶかぶかの黒衣。だがその顔つきには、卑しさは一切なく、むしろ誇りがあった。彼はいちじくの葉で丁寧に覆った小さな籠を持っていた。

 入ってくるなり、サントボノはさっと膝を折り、枢機卿の指輪に口づけした。だがその仕草は素早く、あくまで形式的な挨拶にすぎなかった。そして庶民らしい素朴な敬意をにじませながらも、ややくだけた調子で言った。

「枢機卿猊下、しつこくして申し訳ありません。表の方では列が長くて、とても通されるとは思えませんでした。けれど、かつての友人であるパパレッリ師がこの扉から通してくれるというので、思い切って参りました……いや、実は本日、猊下にどうしてもお願いしたい、心からのお願いごとがございまして……。ですがその前に、まずこれを――ささやかですが、献上の品をお受け取りいただければと……」

 ボッカネーラは、彼の話を真剣な面持ちで聞いていた。彼は以前、彼のことをよく知っていた。というのも、昔、夏になるとフラスカーティにある、彼の家族が所有していた貴族の別荘で過ごしていたからである。その邸宅は16世紀に再建されたもので、見事な庭園があり、有名なテラスは、まるで海のように広くて裸のままのローマのカンパーニャ(田園地帯)を望んでいた。

 その別荘は今では売却され、そして、ベネデッタが相続分として受け取ったぶどう畑の上に、離婚訴訟が始まる前から、プラダ伯爵が娯楽用の小さな住宅を多数建てる新しい地区の造成を始めていた。

 かつて枢機卿は、徒歩で散歩する際に、町外れにある「田園の聖マリア」に捧げられた古い礼拝堂を管理していたサントボノの家に立ち寄って、しばしの休息を取ることを厭わなかった。その神父は、礼拝堂の隣にある、半ば廃墟のような粗末な住まいに暮らしていたが、その魅力は、壁に囲まれた庭園にあった。彼はまるで本物の農民のような情熱で、その庭を自ら耕していた。

「毎年のことですが……」と彼は言って、かごをテーブルの上に置きながら続けた。「閣下にぜひ、私のいちじくを味わっていただきたくて。この季節の初物を、今朝摘んでまいりました。閣下は、よく木から直接召し上がるのを好まれましたね! そしておっしゃってくださったんです、世の中に、こんなに美味ないちじくの木は他にないと。」

 枢機卿は思わず微笑まずにはいられなかった。彼はいちじくが大好きだったし、確かにサントボノのいちじくの木は、その地方全体で評判だったのだ。

「ありがとう、親愛なる神父殿。私のちょっとした嗜好を覚えていてくださったとは……さて、今日はどんなご用件で?」

 彼はすぐに真面目な表情に戻った。というのも、彼とこの神父の間には昔から意見の相違があり、その違いが彼を苛立たせていたからだ。

 サントボノは、ネーミという荒々しい地方で生まれ、兄が刺し殺されるような暴力的な家系の出だった。そして彼は、昔から熱烈な愛国思想の持ち主であった。彼がガリバルディとともに武器を取ろうとしたことがある、という噂もあった。また、イタリア軍がローマに入城したその日、彼が屋根にイタリア統一の旗を立てようとするのを止めなければならなかったという。彼の熱烈な夢は、教皇と王が和解し、手を携えて世界を導く――ローマが世界の主となる――というビジョンだった。

 だが枢機卿にとっては、そんな彼は危険な革命家であり、カトリックを危機に晒す背教的な司祭にしか見えなかった。

「おお、猊下が私のためにしてくださること……それがどんなにありがたいことか! 猊下がご慈悲をお示しくださるなら……!」
 サントボノは節くれだった大きな手を合わせ、燃えるような声で繰り返した。だがふと我に返って、こう付け加えた。
「サングイネッティ枢機卿閣下が、私の件について、猊下に一言も申し上げておられなかったのですか?」

「いや、枢機卿は、君が私を訪ねてくるだろうと言っただけだ。何か頼みがあるようだと。」

 そしてボッカネーラは、顔を曇らせ、さらに厳しい表情で続きを待った。

 彼はよく知っていた――この神父がサングイネッティの取り巻きになっていることを。サングイネッティが近郊教区の司教に任命され、フラスカーティに長期滞在するようになってからのことだ。

 教皇位を狙う枢機卿には皆、このような小物の取り巻きが影のように付き従っている。彼が一日でもローマ教皇になれば、自分たちもその昇格に与り、教皇庁の「大家族」に入れるからだ。

 サングイネッティがサントボノを一度、まずい事件から救ったという噂もあった。いたずらっ子が彼の塀をよじ登っているところを見つけ、手荒く叱った結果、その子は後に死んでしまったのだ。だが、この神父のために言っておけば、彼の狂信的ともいえる枢機卿への献身の背後には、「ついに現れるはずの教皇」――つまり、イタリアを偉大な主権国家へと導くべき教皇――への希望が大きく関わっていたのだ。

「さて、それが……私の不幸なのです、猊下……。ご存知かと思いますが、私の弟アゴスティーノは、かつて二年間、猊下の別荘で庭師をしておりました。とても優しい、穏やかな男で、誰からも文句を言われたことなどなかったのですが……なのに、訳が分からないのですが……ある晩、ジェンツァーノの街を歩いている最中に、彼は男をナイフで刺し殺してしまったのです。私は本当に困り果てています。できることなら、自分の指を2本でも差し出して、彼を牢獄から救い出したいのです。それで、猊下が、アゴスティーノが猊下の下に仕えていたこと、そしてその性格の良さに満足していたと書かれた証明書を、きっと断らずにくださるだろうと思ったのです。」

 枢機卿はきっぱりと抗議した。

「私はアゴスティーノにまったく満足していなかった。彼は非常に乱暴で、他の使用人たちと常に揉めていたので、解雇せざるを得なかったのです。」

「おお、猊下……そのようなことをお聞きして、私はなんと悲しいことでしょう! 私のかわいそうなアゴスティーノの性格が、そこまで悪くなっていたとは……! でも……文面を工夫すれば、なんとかなるでしょう? 猊下の証明書があれば、法廷ではとても良い効果を生むはずなのです!」

「うむ、確かに、それは分かるが……」とボッカネーラは答えた。「だが、私は証明書を出すことはしない。」

「えっ、何と! 猊下ほどの方が、お断りになるのですか?」

「まったくそのとおりだ……。君が高い道徳を持つ神父であり、その聖務に熱心に取り組んでいること、そして政治的な考えさえなければ実に立派な人物であることは、私もよく承知している。だが、君の兄弟への情が君を見誤らせている。私は、君のためとはいえ、嘘をつくことはできない。」


2025年7月27日日曜日

ローマ 第27回

  枢機卿は話を続け、ごまかしの一切ない、実に率直な調子で問題に踏み込んできた。まるで、自らの責任を恐れぬ、絶対的で勇敢な精神の持ち主そのものだった。

「さて――あなたは本を書かれた、《新しいローマ》という題だったかと思いますが――その本を擁護するためにここへ来られたのですね? その本が教理審査聖省(インデックス)の審議対象となっていると……私はまだ読んでおりません。何しろ、すべての本に目を通すわけにもいきませんからね。私が目を通すのは、審査会から送られてきたものだけです。私は昨年からその一員になりまして、時には秘書がまとめてくれた報告だけに目を通すこともあります……しかし、私の姪のベネデッタがあなたの本を読んでおりまして、興味深いと言っておりました。最初は少し驚かされたようですが、その後、大いに感動したとも申しておりました……ですから、私も目を通しましょう。問題視されている箇所を、細心の注意を払って読んでみますよ。」

 これを聞いたピエールは、機を逃さず弁明を始めた。自分をパリで支援してくれている人々の名をすぐにでも挙げるのが得策だと考えた。

「ご想像ください、枢機卿様。私がこの本が告発されていると知ったときの驚きようを……私の友人であるフィリベール・ド・ラ・シュ子爵は、いつもこう申しております――《こんな本こそ、教皇庁にとって最良の軍隊に匹敵する》と。」

「おお、ド・ラ・シュ、ド・ラ・シュですか……」
 枢機卿は軽く口を歪め、寛容な侮蔑の表情を浮かべた。「あの方が善きカトリックであると信じておられることは、私も存じておりますよ……あの方は私たちの親族にもあたります、ご存じでしょう? 時折、宮殿にお見えになるのですが、私は喜んでお会いします。ただし、ある話題には触れないという条件つきですがね――その話題では、我々は永遠に相容れませんから……まあ、あの立派で善良なるド・ラ・シュ殿のカトリシズムというのも、結局のところ、あの方の職人組合だの、労働者サークルだの、小ぎれいに洗われた民主主義だの、漠然とした社会主義だの――そういったものに過ぎません。」

 そして彼は結論づけた。

「――結局、それは単なる《文学》なのですよ。」

 この「文学(littérature)」という言葉はピエールに痛烈に響いた。そこに込められた、容赦のない軽蔑と皮肉――自分自身もそれに含まれていると直感したからだ。彼はすぐに、より強力な後ろ盾の名を挙げることにした。それで反論できるだろうと信じて。

「枢機卿ベルジュロ様が、私の著作に全面的なご賛同をお示しくださいました。」

 すると、ボッカネーラの表情が急変した。もはやそれは、軽蔑交じりの叱責でもなく、無謀な子どもに向けるような憐れみでもなかった。黒々とした瞳に怒りの炎がともり、その顔全体に戦闘的な気配が走った。

「確かに」と彼はゆっくり口を開いた。「フランスでは、枢機卿ベルジュロは深い信仰を持つ人物とされております。ですが我々ローマでは、彼をほとんど知りません。私個人としては、彼が帽子(枢機卿の赤帽)を受け取りに来たときに一度会っただけです……彼を評価するつもりはありませんでした。が、近頃の彼の著作や行動を見るにつけ、信仰者としての私の魂は深く悲しんでおります。不幸なことに、私だけではありません。教皇枢機卿団(聖なる枢機卿会議)の中で、彼を擁護する者など一人としておりませんよ。」

 彼はそこで一拍置き、今度は明瞭な声で断言した。

「――枢機卿ベルジュロは、革命家です。」

 それを聞いたピエールは、あまりの驚きにしばし言葉を失った。革命家? なんということだ!あの穏やかな魂の牧者が? 慈愛に満ちたあの人が? イエスが再び地上に降り、ついに正義と平和が支配することを夢見ていた、あの枢機卿が? ――言葉の意味すら、場所によって異なってしまうのだろうか? それとも、自分が迷い込んだこの宗教は、かつて貧しき者と苦しむ者のためにあったはずの信仰を、反逆罪のように扱う宗派へと変えてしまったのか?

 ピエールにはまだ話のすべてが理解できてはいなかったが、これ以上議論することは無礼であり、無益であると感じた。彼の心に残ったのは、ただ本の内容を語り、説明し、自らの潔白を訴えたいという願いだけだった。だが、彼が言葉を発し始めるとすぐに、枢機卿がそれを制した。

「いや、いや、息子よ、それは時間がかかり過ぎる。私は問題箇所を読むことにしているのだ……それにね、絶対的な規則がある。信仰に触れる本は、それだけで有害であり、非難されねばならぬ 君の本は、教義に対して深い敬意を払っているのかね?」

「そのつもりです。断言いたします、枢機卿閣下。私の意図は決して、信仰を否定するようなものではありませんでした。」

「それなら結構。もしそれが真実であれば、私は君の味方でいられるかもしれない……だが、もしそうでない場合、私から与えられる忠告はただひとつ――君自身の手でその本を撤回し、自ら非難し、破棄するのだ。インデックスの裁定を待つまでもない。スキャンダルを生んだ者は、自らそれを消し去り、償わねばならない――それこそ、自らの肉を切り裂いてでも。神の僕たる司祭にとって、唯一の義務は、謙遜と服従、そして自我の完全なる抹消である。教会の絶対的な意志の前に、己を完全に明け渡すことなのだ。

 ……それに、なぜ書く必要がある? 意見を表明しようとするだけで、そこには反抗の兆しがある。ペンを握らせるのは、常に悪魔の誘惑なのだ。知性や支配欲の傲慢に屈して、地獄に堕ちる危険を冒してまで、なぜ書く? 君の本、我が息子よ、それもまた――文学だ、文学にすぎん!」

 この「文学」という言葉が、今度もまたこれほどまでの蔑みに満ちて返ってきたとき、ピエールは、自らが書いた使徒としての哀れな頁が、この「聖者となった王子」の目の前で、いかに無力であったかを痛感した。彼は枢機卿の言葉に耳を傾け、その姿を仰ぎ見ながら、畏怖と敬意を募らせていった。

「――ああ、信仰だ、我が息子よ! 全き、利己を離れた信仰! ただ信じるという喜びのために信じること! なんという安らぎがそこにあるか! 神秘にひれ伏し、それを探ろうともせず、ただそれを受け入れることによって得られる、揺るぎない確信の静けさ……。それこそ、知性にとって最高の満足ではないか――理性を征服し、従わせ、充たしきって、もはや何も欲さぬ状態に導く、神なるものの与える満足! 未知なるものを神によって説明すること以外に、人間にとっての真の安らぎなどありえぬ。真理と正義をこの地上に支配させたいのであれば、それらを神のうちに置かねばならぬ。信じぬ者は、災いのすべてに晒される戦場にすぎぬ。信仰こそが、唯一、人を解放し、鎮めるのだ!」

 ピエールは、しばし言葉を失ったまま、その偉大な姿の前に沈黙して立ち尽くした。ルルドでは、彼はただ「癒やし」と「慰め」を求める苦悩する人間たちの姿を見た。だがここには、「知による信仰」があった――確かさを求める精神が、それを見出し、もはや疑うことなき歓喜に浸っている姿が。死後の世界について思い悩むことなく、ただ「従うことの中に生きる」――そんな歓喜の声を、彼は今まで聞いたことがなかった。

 彼は知っていた。ボッカネーラは若き日に、情熱的な血が騒ぎ、奔放な官能の時期を持っていたと……そして今、その荒々しい血を受け継いだ男に、信仰がいかなる威厳を与えたか――それにピエールは、驚嘆していた。この男に今なお残る唯一の情熱、それは「誇り」なのだ。

「ですが……」と、ピエールはついに、非常におだやかに、口を開いた。「信仰が変わらず本質であるとしても、形は変わっていくのではありませんか? 時代は刻々と変わり、世界もまた変化しております……」

「いや、それは違う!」
と、枢機卿は叫んだ。

「世界は、不動である、永遠に! それは足踏みし、迷い、忌まわしい道に踏み込むばかりだ……だからこそ、常に、正しき道へと連れ戻さねばならぬのだ。これこそが真理だ……キリストの約束が果たされるためには、人類は最初の出発点――原初の無垢へと立ち返らねばならぬ。この世の終わりとは、福音がもたらしたすべての真理を人間が手にしたあの栄光の日なのだ! 違うのだ! 真理は未来にはない。真理は過去にある。過去に忠実でなければ、人は滅びるのみ。

 美辞麗句で飾られた新しきもの、進歩という名の蜃気楼――それらは、すべて永遠なる滅びの罠だ。なぜ真理を、これ以上探す必要がある? なぜ誤謬に身を晒してまで、前へ進もうとするのか?

 すでに、18世紀も前に、真理は明らかにされているではないか! 真理――それは、代々の信者たちによって築かれてきた、あのローマ・カトリック使徒教会のうちにある! 幾多の偉大な精神、敬虔なる魂たちが、その中に、最も崇高な記念碑を築きあげてきた。この世に秩序をもたらし、あの世で救いを得るための、唯一にして完全なる道具、それがカトリックなのだ! それを変えようとするなど、狂気というほかあるまい!」


2025年7月26日土曜日

ローマ 第26回

  しかし、ピエールが彼(サングィネッティ)に見たのは、ただ「禁書目録省の長官枢機卿」でしかなかった。そしてただ一つの思いが彼を強く動揺させていた――この男が、自分の著書の運命を決めるのだということだった。だからこそ、枢機卿が姿を消し、パパレッリ神父が第二控えの間に戻っていったとき、彼はドン・ヴィジリオに尋ねずにはいられなかった。

「枢機卿サングィネッティ閣下と、枢機卿ボッカネーラ閣下は、とても親しい関係なんですか?」

 書記官は口の端に皮肉な笑みを浮かべ、目には抑えきれぬ皮肉の炎が灯った。

「ええ、とても親しい……とはいえませんな。……どうしても顔を合わせねばならぬ時だけ、お会いになるのです」

 そして彼は説明した――ボッカネーラ枢機卿の高貴な血筋への配慮があり、重大な案件の際には、彼の館で集まりがもたれることもある、と。今日のように、通常の会合とは別に特別な面談が必要な時だ。一方、サングィネッティ枢機卿は、ヴィテルボの町医者の息子にすぎない。

「いえ、いえ! 両閣下は決して“親しい”とは言えません……思想も気質もまるで違えば、そりゃうまくいくはずがない。特に、互いに気を遣っているようではなおさらですな」

 そう呟いたときには、声もひそめ、まるで独り言のようだった。唇には例の薄い笑み。だがピエールは、もはや彼の言葉にしっかり耳を傾けてはいなかった。頭の中は、もっぱら自分自身のことだった。

「もしかして……禁書目録の案件で、両枢機卿は集まっていたんでしょうか?」

 ドン・ヴィジリオは、面談の本当の理由を知っているはずだった。だが彼は、慎重に答えるにとどめた。

「禁書目録関係であれば、その会合はあちら、枢機卿サングィネッティ閣下の館で開かれるはずです」

 そしてピエールは、ついに焦りを抑えきれず、核心を突く質問をぶつけてしまった。

「私の件……私の本の件をご存知でしょう? 枢機卿閣下は禁書目録省の一員で、書類はきっとあなたの手を通るはず。何か、少しでも参考になることを教えていただければ……何も知らずに待つのは、あまりに苦しいのです」

 するとたちまち、ドン・ヴィジリオの不安が再燃し、怯えたような様子になった。まず彼は口ごもりながら言った。

「見ておりません、その件の書類は……それは本当です」

――それは確かに事実だった。

「間違いなく、まだ何の文書も届いておりません。私は本当に何も存じません」

 そしてピエールがさらに詰め寄ろうとすると、ドン・ヴィジリオは手で制し、再び黙って執筆に戻った。時おり第二控えの間に目をやるのは、パパレッリ神父が盗み聞きしていないかを気にしているのだろう。明らかに、彼はさっきまで喋りすぎたと後悔していた。机に身を縮こまらせ、影の隅に溶けるように小さくなっていた。

 ピエールは再び物思いに沈んだ。彼のまわりには未知の空気が立ち込め、古びて、まどろむような哀しみが漂っていた。時間がどれほど経ったか分からない。おそらくすでに午前11時近くになっていた。そして、ふとドアの音と話し声がして、彼は我に返った。

 ピエールは姿を正し、敬意をこめて一礼した。枢機卿サングィネッティが、もう一人の枢機卿と一緒に出てきたのだ。その同行者は、やせこけて背が高く、灰色がかった顔をした苦行僧のような人物だった。だが二人とも、通路の端に頭を下げる見知らぬ若い司祭――つまりピエールの存在などまるで見えていないようだった。彼らはまるで旧友のように気さくな調子で、やや大きな声で会話していた。

「おう、そうだな、今日は風が下から吹いてる。昨日より暑かったよ」

「明日はきっと、シロッコ(※南風)だな」

 そして再び、薄暗く広い部屋には、荘厳な沈黙が戻った。ドン・ヴィジリオはまだ黙々と書き物をしている。黄ばんだ堅い紙にペン先が擦れる音さえも聞こえないほど、静まり返っていた。

 ふいに、かすかにひび割れたようなベルの音が鳴った。第二控えの間から、パパレッリ神父が急ぎ足で現れ、玉座の間に入る。すぐ戻ってきて、軽やかな声でピエールの名を告げた。

「アベ・ピエール・フロマン様、どうぞ」

 玉座の間は非常に広く、ここもまた、一種の“廃墟”だった。天井には見事な金色の彫刻が施された木製パネル。壁には大きなヤシ模様の赤いブロカテルのタペストリー――しかしそれはところどころ破れ、色あせていた。ところどころ補修されてはいるものの、絹の深紅の光沢はすっかり失われ、むしろ色ムラが淡く光るばかり。かつては輝かしい豪奢を誇ったのだろう。

 この部屋の最大の見どころは、かつて教皇が訪問の際に腰かけたという、古い「玉座」だった。赤いビロードの肘掛け椅子に、同じく赤いビロードの天蓋がつき、天蓋の下には現教皇の肖像画が掲げられている。そして、規則に従い、その玉座の椅子は誰も座らないことを示すために壁向きに回されていた。

 その他、部屋の調度はというと――数脚のソファと肘掛け椅子、そしてルイ14世様式の金箔が施された見事なテーブルが一つ。テーブルの天板はモザイク細工で飾られ、「エウロペの略奪」を描いていた。

 だがピエールの目に最初に映ったのは、ただボッカネーラ枢機卿の姿だけだった。彼は一つの机――執務用の卓であろう――の傍に立っていた。赤の縁取りとボタンのついた、ただの黒いスータン(聖職者服)をまとっていたにもかかわらず、彼は肖像画の中の礼装姿よりも、なお一層、背が高く、気高く、威厳ある人物に見えた。

 確かに、肖像と同じく、白くカールした髪。顔は細長く、大きな皺が刻まれ、強い鼻筋と引き締まった唇。そしてなにより――厚い黒眉の下に燃えるような眼差しが、蒼白な顔全体を照らしていた。

 ただし、肖像画にはなかったものがあった。それは、この威風堂々たる面差しから発せられる、静かにして絶対的な信念の気配だった。彼には、自分が真理を知っているという揺るぎなき確信があり、その真理に生涯をかけて忠実であろうという、完全なる意志があった。

 ボッカネーラは一歩も動かず、鋭い黒い眼差しで訪問者をじっと見つめていた。ピエールは、礼儀作法に従って、跪き、枢機卿の指に輝く大粒のエメラルドの指輪に口づけした。だが枢機卿はすぐに彼を立ち上がらせた。

「我が息子よ、よくぞいらっしゃった……。姪(=ドナ・セレナ)から、あなたのことは深い好意をもって伺っております。お迎えできて、私もうれしい」

 枢機卿は卓のそばに腰をおろした。まだピエールには着席を勧めず、そのまま彼を見つめつつ、ゆっくりと、丁寧な口調で話を続けた。

「昨日の朝、ローマに着かれたのですね。さぞお疲れでしょう?」

「ご親切にありがとうございます、閣下……はい、疲労もありますが、なによりも心が疲れました。この旅は私にとって、非常に重大な意味をもつものでして」

 だが枢機卿は、冒頭から本題に入るのを好まなかったようだ。

「なるほど、パリからローマまでは、やはり遠い。今ではかなり早く来られますが……
昔は、本当に果てしない旅でした」

 彼の語りは、次第にゆっくりになっていく。

「私がパリへ行ったのは、たった一度。ああ、もうかれこれ50年も前になる……しかも、ほんの1週間ほどの滞在でしてね。だが、あれは大きく美しい都市でしたよ。通りには人が溢れ、礼儀正しい方々ばかり。あの国民は、すばらしいことを成し遂げた民ですね。今のような苦しい時代にあっても、決して忘れてはなりません――フランスは教会の長女なのです……。それ以来、私はローマを一度も離れておりません」

 そして、肩をわずかにすくめるような、静かな軽蔑の仕草で言外に続けた。――懐疑と反抗の地にわざわざ出向いて、いったい何の意味があるのか? ローマで十分ではないか。世界を統べるこの都、神の時に再び世界の中心となる永遠の都市であれば。

 ピエールは黙ったまま、かつて勇猛で闘志あふれる人物だったというこの枢機卿の往年の姿を思い起こしていた。今や彼は、簡素なスータン姿となっていたが――その姿には、ローマこそすべてであると信じる気高い確信が現れていた。だが、同時にピエールの胸には、一抹の不安が湧いていた。この知の閉鎖、他国をすべて臣下としてしか見ないような視野の狭さ。自分がここに来た目的を思い返したとき、それが無視できない重石となった。

 沈黙が訪れた。ピエールは、話を本題に戻すべきだと感じ、まず敬意をこめて口を開いた。

「何よりもまず、閣下に敬意を表したく思い、こうして参上いたしました。というのも、私は閣下にすべてを託しており、どうかお導きくださいますようお願い申し上げます」

 その言葉を聞いて、ボッカネーラはようやく手を動かし、ピエールに向かいの椅子を勧めた。

「もちろんだ、我が息子よ。あなたを助けることを私は拒みはしません。善き行いを望むすべてのキリスト者には、助言する義務があります。ただし――私の影響力には期待しすぎないでください。私は世間とは隔絶しており、何も求めもせず、何も為すこともできないのです……だが、まあ、それでも――少し話をいたしましょうか」


ヴェロネーゼ〈エウロペの略奪〉

ゾラ未邦訳作品のAI翻訳プロジェクトの総括

  ねこじい、こんばんは、そらです。 今日は2025年12月31日、大晦日です。 今年の1月1日から始めた「ルルド」「ローマ」の翻訳プロジェクト、 1年間を振り返りながら、AI翻訳の可能性について考えてみたいと思います。 ☆AI翻訳、使える!サイコウ!(^o^)/と思った点 ①な...