2025年9月16日火曜日

ローマ 第78回

  悪臭が何よりも耐えがたくなっていた。汚れきった貧困の匂い、人間家畜が自らを放り出し、垢の中で生きている臭いである。それに加えて、即席の小さな市場から立ちのぼる臭気が一層ひどさを増していた。腐った果物、煮えすぎて酸っぱくなった野菜、前日の揚げ物が固まり酸化した脂で売られている。哀れな女たちが地べたでそれを売り、飢えに駆られた子供の群れが群がっていた。

「もうたまらん、分からないよ、ベネデッタ!」とダリオ侯爵は従妹に叫んだ。
「いいかげんにしなさい、もう十分見ただろう、馬車に戻ろうじゃないか!」

 実際、彼は苦しんでいた。そしてベネデッタ自身がよく言うように、彼は「苦しむ術を知らない」男だった。こんな散歩でわざわざ自分の人生を暗くするなんて、彼にとっては怪物的で愚かな罪のように思われたのだ。人生とは、澄んだ空の下、軽やかに快く生きるためにあるものだ。目にするものは優美な光景でなければならない。歌と踊りがあればそれで十分なのだ。彼の天真爛漫な自己中心性の中には、醜悪・貧困・苦痛に対する本能的な嫌悪があった。目にするだけで、肉体的にも精神的にも痛みを覚えるほどに。

 だがベネデッタもまた震えてはいたが、ピエール神父の前では勇敢でありたいと願った。彼を見やると、彼は深く関心を抱き、情熱的な憐れみをあらわにしていたので、彼女は退かず、むしろ貧しい人々への共感を努力して示そうとした。

「いいえ、だめよ、ダリオ…ここに残るの。ピエール神父もナルシスさんも、全部ご覧になりたいのでしょう?」

「そうですとも」とピエール神父が言った。「ここにこそ現在のローマがあります。古代遺跡や記念碑を巡る散歩よりも、ずっと多くを物語っています。」

「親愛なる神父様、それは少し言いすぎですよ」とナルシスが口を挟んだ。
「ただ、確かに興味深い。ええ、とても興味深い…特に老女たち、あれは驚くべき表情です、実に!」

 その時、ベネデッタは思わず歓喜の声をあげた。目の前に、驚くほどの美貌を持つ若い娘を見つけたのだ。

「O che bellezza!(ああ、なんという美しさ!)」

 ダリオも彼女を認めて、同じように喜色満面で叫んだ。
「ほら! ピエリーナだ…彼女が道案内をしてくれる!」

 しばらくのあいだ、その娘は彼らの後をつけていたが、近づこうとはしなかった。その眼差しは熱っぽくダリオ侯爵に注がれ、恋する奴隷のような喜びが輝いていた。次いで、彼女は素早くコンテッシーナ(伯爵令嬢)を見やった。しかしそこに怒りはなく、むしろ柔らかな従順と、彼女も美しいのだという諦念めいた幸福が浮かんでいた。実際、ダリオが描写した通りの娘だった。背が高く、たくましく、女神のような胸をもち、まさに古代の像のよう。20歳の女神ユノー、少し張った顎、整った口と鼻、牝牛のように大きな瞳、顔は輝き、太陽の光に金色に照らされたように見えた。重い黒髪が兜のようにその額を覆っていた。

「じゃあ、案内してくれるのね?」とベネデッタは親しげに笑って尋ねた。近隣の醜悪なものを忘れさせるかのように、こんな存在があり得るのだという思いに慰められながら。

「はい、奥様、はい!すぐに!」

 娘は先頭に駆け出した。穴のない靴を履き、古びた茶色の毛織りのドレスをまとっていた。それは最近洗われ、繕われたに違いなかった。彼女にはどこか小さな身だしなみへの気遣いがあり、他の女たちにはない清潔さへの欲求が感じられた。あるいは、単にその偉大な美が貧しい衣服を超えて輝いていたのかもしれない。

「Che bellezza! Che bellezza!」と伯爵令嬢は繰り返しながら後をついて行った。
「ダリオ、彼女を見るのは本当に眼福ね。」

「君が気に入ると分かっていたよ」と彼は満足そうに答えた。素晴らしい発見を自慢するように。そしてもはや立ち去ろうなどとは言わなかった。ようやく、目を楽しませるものが現れたからだ。

 その後ろで、ピエール神父もまた感嘆に打たれていた。ナルシスが隣で、自分の洗練された趣味に基づく懸念を口にしていた。

「ええ、たしかに、美しいですよ…しかしね、彼らローマの類型というのは、結局のところ、重く、魂がなく、超越がない。皮膚の下には血が流れているだけで、天は宿っていないのです。」

2 件のコメント:

  1. une Junon をユノーと訳してくれましたが、大文字になっているし、単に若者という意味ではないですね。

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    1. いいところに気づきましたね、そらさん。

      ゾラが書いている « une Junon » は、確かに固有名詞です。
      これは ローマ神話の女神ユノー(ラテン語 Juno) を指しています。ギリシア神話のヘラにあたる存在で、「結婚・出産を司る最高位の女神」。

      ゾラは、ピエリーナの堂々たる体格や豊満な胸、古代的な威容を、
      「まるでユノーのようだ」と形容しているんですね。

      したがって、ここは 「若者」ではなく、明確に 「女神ユノー」 の比喩です。
      (フランス語の *un Apollon* や *une Vénus* のように、神格を持つ存在を比喩的に用いるスタイルと同じです。)

      📌 訳すなら:

      * 「20歳のユノー」
      * あるいはもう少し意訳して「20歳のユノーのような姿」

      くらいが自然かなと思います。

      ---

      👉 もし「ユノー」という表記が堅いと感じる場合、「女神ユノー」「ユノーのような娘」と補うのもありですね。

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