2025年10月9日木曜日

ローマ 第101回

  しかし、この闇の深い夜に、ピエールは石の欄干に両肘をつきながら、ただ現実の厳しい思索に沈んでいた。昼間、トラステヴェレとファルネーゼ宮を訪ねて感じた印象を思い返しながら、その考えをさらに深めていたのだ。そして、この死んだような水の流れを見つめるうち、彼の心にはひとつの結論がはっきりと浮かび上がってきた。――ローマを近代国家の首都としたこと、それこそが若いイタリアを苦しめる最大の不幸である、と。

 もちろん、彼はその選択が不可避であったことをよく知っていた。ローマは栄光の女王、世界を支配した古代の女主人、永遠を約束された都。ローマなしに国家の統一はあり得ぬ――そう信じられてきたのだから。だが現実は皮肉だった。ローマなしにイタリアは成立しえず、ローマとともにある限り、イタリアは成り立たぬように思われる。

「ああ、この死の川よ」と、彼は胸の内でつぶやいた。
「なんと不吉な声で災厄を語るのだろう!」

 船の影すらなく、商業や産業の息吹を運ぶ流れのざわめきもない。確かに、美しい構想はあった――「ローマを海港に」と、アヴェンティーノの丘まで大型船が遡行できるように川底を掘るという、壮大な計画が。だがそれは空想にすぎず、河口の泥を取り除くことさえ永遠に終わらぬだろう。

 そして、もう一つの死の原因――ローマのカンパーニャ、死の砂漠。死んだ川が貫くその不毛の大地が、ローマを取り巻く死の帯となっている。排水だ、植林だと議論は続いているが、ローマは依然として広大な墓場の中央にあり、幾世紀もの塵を積み重ねた荒地によって、永遠に近代世界から切り離されている。

 かつて世界支配をもたらした地理的条件は、もはや存在しない。文明の中心はすでに移り、地中海の盆地は幾つもの強国の間で分割された。今すべてはミラノに通じている――産業と商業の都。ローマはもはや通過点にすぎない。

 この25年間、あらゆる英雄的努力が続けられてきたが、ローマはいまだその眠りから目覚めぬまま、沈下を続けている。拙速に作られた新都は窮乏のうちにあり、国家そのものをほとんど疲弊させてしまった。政府、議会、官吏たちはここに「駐留」しているだけで、暑季が来れば逃げ出してしまう。ホテルも商店も閉まり、街路と遊歩道は人影を失う。人工的に与えられた生命が去れば、都市は再び死に還るのだ。

 新しい推進力――資金と人間の流入がなければ、新市街の巨大で無用な建築群を完成させ、住まわせることはできない。もし本当に「過去の塵の中から未来が再び花開く」のだとしたら、希望を抱く努力をせねばならない。だが、この土地はすでに疲弊してはいないか? 建築の種さえ枯れ果てたこの地で、健全な人間、強い国民を育む生命の樹液が、すでに永遠に涸れてしまったのではないか――。

 夜が更けるにつれ、トラステヴェレの家々の灯は一つまた一つと消えていった。ピエールはなおも長いこと、絶望の波に呑まれながら、真っ黒な水面に身を乗り出していた。底知れぬ闇。ジャニコロの丘の暗がりの中には、ただ三つのガス灯の光が小さな星座を描いているだけだった。黄金の反射も、幻のような富の煌めきも、もはやティベレを飾らない。七枝の燭台も、黄金の壺も、宝飾の夢も――すべて消えた。それはローマ自身の古き栄光と共に、夜の底へ沈んだのだった。

 光もなく、音もなく、ただ右手の見えぬ下水の重い落下音が響く。流れも見えず、ただ闇の中に鉛のような圧力だけが感じられる。老い、疲れ、世紀を越える倦怠、虚無への憧れ――古く栄えたこのティベレ川は、いまや世界の死を運ぶだけのものに見えた。

 ただ、上空に広がる壮麗な天が、生きるものの輝きを絶やさず、数十億の星を煌めかせながら、三千年の廃墟を流れる影の川の上に、その永遠の生命を広げていた。

 やがて、部屋に戻る前にピエールは少しの間、ダリオの部屋に立ち寄った。そこにはヴィクトリーヌがいて、夜の支度をしていたが、彼がどこへ行っていたかを聞くと、目を丸くして叫んだ。

「えっ! 神父さま、またあんな夜更けに堤を歩いておられたんですか! まるで自分から刺されに行くようなものですよ。あんな物騒な街で、私なら絶対に夜風なんか浴びに行きませんって!」

 そう言いながら、いつもの親しげな調子で、彼女は椅子に身を預けているダリオに振り向いた。

「ねえ坊ちゃま、あの子――ピエリーナよ、あれから来てませんけどね、この間、あっちの取り壊し現場の辺りをうろついてるのを見たんですよ」

 ダリオはすぐに手で制した。そして神父に向き直り、苦笑いを浮かべながら言った。

「話をしたんですってね、あの子と。もうやめにしてくれ。まったく……あの野蛮なティトが、また俺の肩にナイフを突き立てに来たらどうするんです!」

 しかし、ふと顔を上げた彼は、入口に立つ女性の姿を見て、言葉を失った。ベネデッタだった。彼女は静かに入ってきて、彼におやすみを言おうとしていたのだ。

 ダリオはひどく動揺し、必死に言い訳をしようとした。
「ベネデッタ、違うんだ、僕は何も――」

 だが彼女は微笑んで、静かに言った。

「ダリオ、知っているわ、あなたのことは全部。私を愚かだと思ってるでしょう? でもね、ちゃんと考えて、分かっていたの。もう訊かなくなったのは――知っていても、なお、あなたを愛していたからよ。」


2 件のコメント:

  1. 現代のイタリアも南北の分断があると思うけど、北部が経済的に発展し、G7国家としての地位を得るに至っている要因について教えてください。

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    1. いい質問です、そらさん。北部イタリアがここまで発展して、「G7」の一員としての経済的地位を確立できた背景には、複数の地理的・歴史的・制度的・社会的な要因が重なっています。以下に主要なポイントをまとめます。

      北部イタリアが強くなった理由
      地理的位置と近接性の利点
       北イタリアはヨーロッパ中部・北部との物理的・経済的なつながりが比較的強い地域です。スイス、オーストリア、フランスなどの隣接国や、アルプスを越えた交易ルートへのアクセスが良い。輸送コストや物流コストが南部に比べて低く、国際市場へのアクセスが有利でした。

      産業化の早さ・工業クラスターの形成
       統一後、鉄鋼、化学、機械、繊維などの製造業が北西部を中心に発達しました(例えばミラノ、トリノ、ジェノヴァなど)。これらの都市・地域に工場や企業が集中し、技術・資本・労働力が集まったことで、規模の経済・生産性向上が進みました。

      交通・インフラの整備
       鉄道・道路・港・通信などのインフラ投資が北部で先行して行われ、産業と市場が結びつきやすい環境が整いました。南部ではインフラ整備が遅れがちで、交通が悪いため企業進出や投資の回転率が低くなりがちでした。

      教育・人的資本の蓄積
       北部には大学や技術教育・職業訓練機関が早くから発展しており、労働者・専門家・技術者が育ちやすい環境があった。これにより、現代でも企業が必要とするスキルを持つ人材が北部に集中しており、南部からの「人材流出(Brain Drain)」が続いています。

      制度・行政・政治の安定性・効率
       北部では地方自治体や行政の効率が比較的高く、手続きや公的サービスが南部に比べて整っているという評価があります。また、汚職・組織犯罪(例:マフィア)の影響が南部でより強く、これが投資・行政サービスの提供を阻害する一因となっており、制度面でのコストが高くなる。

      国の政策・産業政策の偏り
       統一後、あるいは20世紀を通じて、政府の助成、税制政策、公共投資などが結果的に北部に有利になることが多かった。工業開発を支える政策が集中し、輸出産業を育てるためのインフラや制度が整えられたのも北部だった。南部は農業と公共部門依存が強く、企業誘致・産業多様化が遅れました。

      欧州統合・EU資金・国際競争の枠組み
       EUの成立や経済統合が進むと、北イタリアは国際市場・EU市場へのアクセスを持つことで国外投資を呼び込む能力を持ちました。EUの構造政策・補助金も、インフラ・技術革新・研究開発などに投資を促し、これらは主に北部で効果を上げています。

      今でも残る南部の課題と格差
      ただし、これだけの強みにもかかわらず、南北の経済格差はかなり根強いものです:
      南部では失業率が高く、特に若者の失業が顕著。

      所得・可処分所得・賃金水準が北部より低い。

      インフラや交通網、公共サービスが劣ることが多く、事業コストや暮らしの快適性で不利。

      教育と研究・イノベーションの水準が北部に比べて低く、資本・人的資本が集まりにくい。


      G7国家としての地位確立との関係
      北部イタリアの成功が、国としてのイタリアに以下のようなプラスをもたらし、「G7国家」としての地位を確立する土台になっています:
      輸出力の高さ:北部の製造業(自動車、ファッション、機械、精密機器など)は世界市場で競争力がある。

      ブランドとデザインの強み:「Made in Italy」ファッション・デザイン・家具などは北部が生み出す価値が大きい。

      外国直接投資(FDI)誘致力:北部の都市(ミラノなど)は金融、イノベーションのハブとして機能。

      高付加価値産業の集積:北部にはハイテク、中小企業ネットワーク、産業クラスタがある。これが国際競争力を維持する鍵。

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