2025年11月12日水曜日

ローマ 第135回

  ピエールとナルシスは、彼女に祝意を述べた。しかし、その場に長く留まることはできなかった。人の波が押し寄せ、彼らを次々と押し流す。公爵夫妻はただ、愛想よく、絶え間なく頭を動かして挨拶を返すのがやっとで、まさに人の渦の中に溺れんばかりであった。そしてチェリアは、二人の友人をアッティリオのもとへ案内し終えると、再び両親のそばに戻り、祝宴の小さな女王としての持ち場に立たねばならなかった。

 ナルシスは、アッティリオのことを少し知っていた。新たな祝辞と握手が交わされたあと、二人は奇妙なことに、そっとその最初の広間の隅で立ち止まるように動いた。というのも、そこはまさに目を見張る光景だったからである。

 その部屋は広々としており、金糸の花模様のある緑のビロードの壁掛けが張られ、「武具の間」と呼ばれていた。そこには、実際に見事な武具のコレクションが並んでいた。胸甲、戦斧、剣――そのほとんどは十五、十六世紀にブオンジョヴァンニ家の人々が使用していたものである。

 その荒々しい戦の道具の中に、一脚の愛らしい駕籠が置かれていた。それは前世紀のもので、繊細な金彩と絵付けが施され、現当主の曾祖母にあたる有名なベッティーナ――伝説的な美貌を持つ女性――が礼拝へ通う際に乗っていたものだった。

 さらに壁には、歴史画がびっしりと飾られていた。戦闘の場面、条約の調印、王の謁見――いずれの場面にもブオンジョヴァンニ家の人々が登場している。それに加えて、家族の肖像も数多く掛けられていた。陸海の将軍、教会の高位聖職者、司教、枢機卿たち――いずれも誇り高い面立ちをした祖先たち。その中でも、ひときわ栄光の位置を占めていたのは、白衣をまとった法王――ブオンジョヴァンニ家から選ばれた教皇の肖像であった。彼の即位こそが、長きにわたる一族の繁栄の礎となったのだ。

 そして、この武具の間、あの優美な駕籠のそば、これらの古き肖像の下に、今まさにサッコ夫妻が立ち止まっていた。主人夫妻から少し離れた場所で、彼らもまた祝意と挨拶を交わしていたのである。

「ほら、見てごらん!」
 ナルシスが小声でピエールにささやいた。
「あそこ、正面にいるのがサッコ夫妻だ。あの小柄な黒い男と、薄紫の絹のドレスの婦人だよ。」

 ピエールは、老オルランドの家で出会ったステファナを認めた。明るい表情と優しい笑み、ややふっくらとした顔立ちに、柔らかい気品が漂っていた。だが、ピエールの目を惹きつけたのは、むしろ夫の方だった。

 その男は色黒で痩せており、黄疸を思わせる肌に大きな目、尖った顎と鷲鼻――まるで陽気なナポリの道化ポリシネルの仮面のようだった。声高に笑い、身振り手振りも軽やかで、あふれる快活さが周囲の人々にたちまち伝染する。

 彼の弁舌は実に見事で、何よりもその声が特別だった。人を惹きつけ、支配する力を持つ比類ない楽器のような声。この広間で、あれほど容易く人々の心を掴んでいる姿を見れば、粗野で凡庸な政治の世界で彼が電光石火の成功を収めた理由も納得できた。

 息子の結婚に際しても、彼は実に巧妙に立ち回った。チェリアに対しても、アッティリオに対しても、あえて過剰な慎みを装い、
「持参金や爵位を奪うなどと非難されてはならぬ」と言って、同意を渋るふりをしたのだ。

 彼が折れたのは、ブオンジョヴァンニ家の同意が得られたあとであった。その前に、彼は高潔で英雄的な老オルランドの意見を仰いだ。オルランドの清廉さはイタリア全土に鳴り響いていたからである。

 しかも、このやり方は巧妙だった。オルランドが公然と、「ブオンジョヴァンニ家は喜ぶべきだ。この若者は立派な心を持ち、勇敢で、衰えたその家の血を新たにし、きっと美しい子どもたちを授けるだろう」と語っていたからだ。

 サッコは、この一件を通じて、オルランドの名声を見事に利用した。その親族であることを誇らしげに吹聴し、祖国の偉大な創建者に対して息子のような敬意を示した。もっとも、彼はオルランドが自分をどれほど軽蔑し、嫌悪しているかを知ろうともしなかった。老英雄は、彼が政権を握ったことに絶望し、
「この男こそ、国を破滅と恥辱へ導く」と確信していたのである。

「いやはや!」と、ナルシスがピエールに言った。
「実に柔軟で実際的な男だ。打たれても平気な顔をしていられる! こういう無節操な人間が、どうやら今のような困窮した国家――政治的にも財政的にも道徳的にも混乱した国には必要らしい。この男は、不動の図太さと機転のよさ、そして無限のしぶとさで、ついには国王の信任を完全に勝ち取ったそうだ。……見てごらん、見てごらんよ、まるでこの宮殿の主のようじゃないか、あの取り巻きの群れの真ん中で!」

2 件のコメント:

  1. ナポリの道化ポリシネルの仮面について教えてください。

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    1. いいところに目をつけましたね、そらさん。
      ゾラがここで「ポリシネル(Polichinelle)」を引き合いに出しているのは、まさにナポリの庶民文化と二重の仮面性を象徴させるためなんです。

      🎭 ポリシネルとは?
      ポリシネル(イタリア語では Pulcinella(プルチネッラ))は、17世紀にナポリで生まれた即興喜劇〈コメディア・デッラルテ(commedia dell’arte)〉の登場人物のひとりです。
      日本でいえば「一座の道化役」「腹黒いのに憎めない三枚目」みたいな存在。

      👺 外見
      ポリシネルの仮面はすぐにわかります。
      黒い革のマスク(鼻が大きく曲がっていて、頬が出っ張り、どこか鳥っぽい)

      白いゆったりした衣装ととんがり帽子

      表情は笑っているのか怒っているのかわからない、
      「喜劇と悲劇の境界」に立つような不思議な顔です。

      その姿がまさにゾラの描写した
      「黄疸のような肌に大きな目、尖った顎、鷲のような鼻」
      に重なるわけです。つまり、滑稽でありながら狡猾で、愛嬌と計算が同居する顔。

      💬 性格と象徴
      ポリシネルは、怠け者でずる賢く、皮肉屋。
      でも憎めない。
      時に庶民の味方として権力者をからかい、時に自分の利益のために平然と嘘をつく。
      その口の達者さと図太さで、どんな窮地も笑いで乗り切ってしまう。
      ナポリの人々にとって彼は「生き抜く知恵」の化身。
      たとえ貧しくても、社会の不正や権力の圧力の中でも、軽口と機転で生き延びる人間像なのです。

      🧩 ゾラの比喩の意味
      ゾラがサッコを「ポリシネルの仮面」と言うのは、単なる外見の比喩ではありません。
      それは――
      政治家としてのずる賢さ、

      どんな批判にも涼しい顔をして立ち回る図太さ、

      それでも群衆の前では憎めない陽気さと魅力

      この全部を一枚の「ナポリの仮面」に凝縮して見せた、ゾラらしい皮肉なんです。

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