2025年11月25日火曜日

ローマ 第148回

  そこで、彼女は黙ると約束した。彼女はしんみりとした調子になり、モンシニョール・ナーニを恩人のように語った。というのも、結婚無効をようやく勝ち取ることができたのは、まさに彼のおかげではなかったか。そして彼女は、ふいに狂おしい歓喜の奔流に襲われたかのように続けた。

「ねえ、言ってくださいな、わたし、幸せだけが善いものだと思いません?…今日は、涙を求めたりなさらないでしょう、たとえ寒さと飢えに苦しんでいる可哀そうな人たちのためであっても…ああ、だって、生きる幸福だけが本当の幸福なんですもの!幸福なら、人は苦しまない、寒くない、空腹でもないのです!」

 唖然として、彼は彼女を見つめた。貧困の恐るべき問題に、こんな奇妙な解答を与える彼女に驚いたのである。突然、彼は感じた。高貴な血を何世紀にもわたり受け継いだ、この晴れやかな空の下の娘には、自分の試みた使徒職の努力はすべて無駄だと。彼は彼女を教化し、卑しき者と不幸な者へのキリスト教的愛へ導こうとし、新しい時代に目覚め、人々や物事への憐れみに満ちた、新しいイタリアへ彼女を引き入れたいと望んでいた。そして、彼女自身が深い傷を負って苦しんでいた頃には、彼とともに民衆の痛みに心を寄せていたのに、いまや回復するとすぐ、燃える夏と春めく冬に生きる娘らしく、世界の普遍的幸福を讃えているのだった。

「だが」と彼は言った、「すべての人が幸福ではない。」

「いいえ、いいえ!」と彼女は叫んだ。「あなたは知らないのですよ、貧しい人たちを!…トランステヴェレの娘に、愛する男を与えてごらんなさい、彼女は女王のように輝きますよ。夜、固い黒パンを食べながら、それがこの上なく甘い味に感じられるほどに。病気から子供を救った母、戦いで勝利した男、あるいは宝くじで番号が当たった男、みんなそうです、みんな幸運と喜びしか求めないのです…さあ、あなたがどんなに正義を求め、富をより公正に分配しようとしても、満ち足りるのは、心が歌い出す人たちだけですよ、それも多くの場合、なぜ歌うのかさえ知らないままに、今日のように美しい陽射しのもとで!」

 彼はあきらめの身振りをした。この瞬間にも、遠くどこかで、肉体の苦痛か精神の苦しみに屈して死にゆく多くの哀れな者のために、再び弁じて彼女を悲しませたくなかったからだ。だが突然、あまりにも明るく優しい空気の中、巨大な影が過ぎり、彼は喜びの中に潜む無限の悲しみ、太陽の底知れぬ絶望を感じた。見えない誰かが、この影を落としたように。月桂樹の強すぎる香り、オレンジと黄楊の苦い香りが、彼を眩暈させたのだろうか。この古代の情熱の地で、官能的な温もりの戦慄が彼の血管を打ち震わせたせいだろうか。それとも、むしろあの狂乱のバッカナールを刻んだ石棺が、恋人たちの満たされない口づけの下、愛の暗い陶酔の奥底に死の観念を呼び覚ましたのだろうか。一瞬、澄んだ泉の歌声は長い嗚咽のように聞こえ、見えないところから来た凄まじい影の中で、すべてが消え失せるように思えた。

 すでにベネデッタは彼の両手を取って、彼を自分のそばにある魅惑へと呼び戻していた。
「生徒はとても不良でしょう、ねえ、わたし、頭がとても固いのです。仕方がありません、わたしたちの頭には入らない考えもあるのですよ。いいえ、ローマの娘の頭に、あなたが言うようなことが入ることは決してありません…ですから、愛してくださいます?このままのわたしたちを、わたしたちの力いっぱいの美しさを、ありのままに!」

 そしてその瞬間の彼女は、あまりにも美しかった。幸福の輝きの中で、あまりにも美しく、彼は震えた。神の前に立つように、世界を支配する全能の力の前に立つように。
「ええ、ええ…」と彼はどもった。「美、美、いつでも主権者であり続ける…ああ、それが、人間の永遠の飢えを満たすのに充分であればよいのに!」

「まあ、まあ!」と彼女は陽気に叫んだ。「生きるってなんて素晴らしいのでしょう…さあ、夕食に行きましょう、叔母様が待っておいででしょう。」

 昼食は1時であり、ピエールが外で食事をしない数少ない日には、彼の席は、館の2階、窓が中庭に面した、死ぬほど陰気な小さな食堂で、淑女たちの卓にしつらえられた。同じ時刻、1階のテラスに面した明るい食堂では、枢機卿もまた食事をとっていた。甥のダリオを客に迎えて幸せそうであった。というのも、もう一人の常客である秘書のドン・ヴィジリオは、問いかけられた時以外ほとんど口を開かなかったからである。料理も給仕もまったく別で、共有されるものといえば、下階にある大きな配膳室が一つだけだった。

 だが、中庭の緑がかった薄明りに沈んだ、どれほど陰気な2階の食堂であっても、淑女たちと若き司祭の昼食はとても陽気だった。普段は厳格そのもののドンナ・セラフィーナでさえ、内側から湧き上がる大きな幸福にほぐされているように見えた。おそらく彼女は、前夜、モラーノと腕を組んで出席した舞踏会での勝利の喜びを、まだ味わい尽くしていなかったのだろう。そして王と王妃の列席が非常に気がかりであったと語りながらも、最初にその夜会について切り出して称賛を惜しまなかった。彼女は巧妙な立ち回りで、紹介されることを避けたのだという。

 また、彼女は、自分が教母を務めるチェリアへのよく知られた愛情が、あの中立的なサロン――あらゆる権力が肩を並べた場所――に自分が居合わせたことを十分に説明するはずだと期待していた。しかし、なお心にわだかまりがあったらしく、昼食のあとすぐに出かけて、禁書目録省の枢機卿のもとへ行くつもりだと言いだした。彼女が後援を務めるある事業について話したいのだという。ブオンジョヴァンニ家の夜会の翌日に、この埋め合わせの訪問を行うことは、彼女にとって不可欠のことのように思われたのである。かつてないほどの熱意と希望をもって、彼女は自らの兄である枢機卿が、聖ペトロの座につく近い将来を語った。それは彼女にとって、最高の勝利であり、一族の誇りを高める至高の出来事であった。彼女は、名誉のためには必要であり避けられないことと信じていた。そして現教皇の最近の不調の折には、彼女は新教皇の紋章入りで準備したい、あの衣装一式のことまで心配し始めていたのだった。

 ベネデッタは、絶えず冗談を言い、何にでも笑い、チェリアとアッティリオについて、恋の幸福を知る女が、友人の若い2人の幸福を嬉しむような、情熱的な優しさをこめて語った。そして、ちょうどデザートが出されたとき、彼女は驚いたような顔で給仕に向かった。
「ねえ? ジャコモ、イチジクは?」

 給仕は、眠っているかのようなゆっくりしたしぐさで、理解できずに彼女を見た。幸いにも、ヴィクトリーヌが部屋を横切っていた。
「イチジクはどうしたの、ヴィクトリーヌ、どうして出してくれないの?」

「何のイチジクでしょう、コンテッシーナ?」

「だって、今朝、わたしが台所に行ったときに見たのよ、庭に行く途中で、ちょっと好奇心があって通りかかったのだけれど…小さな籠に入った立派なイチジク。こんな季節に、まだあるなんて驚いたくらいで…わたし、イチジクが大好きなの。夕食で食べられると思って楽しみにしていたのよ。」

 ヴィクトリーヌは笑い出した。
「ああ、コンテッシナ、わかります、わかります…あのイチジクは、フラスカーティの司祭様、覚えていらっしゃるでしょう、あちらの主任司祭が、昨夜、直々に枢機卿猊下への献上品としてお持ちになったものですよ。わたし、その場におりました。司祭様は3度も繰り返して、これは贈り物だから、枢機卿猊下のテーブルに、そのまま葉一枚動かさずにのせるようにと言われました…ですから、その通りにしたのです。」

「まあ、感じが悪いわね!」とベネデッタは、滑稽なほどの怒りで叫んだ。「自分たちだけでご馳走を楽しんじゃって!少しくらい分けてくれてもよかったでしょうに。」

 ドンナ・セラフィーナが口を挟み、ヴィクトリーヌに尋ねた。
「その司祭とは、以前、私たちのヴィラを訪ねてきた方のことですね?」

「ええ、ええ、サントボーノ司祭です。あちらの小さな聖堂、サント=マリー=デ=シャンの担当司祭です…お見えになると、いつもパパレッリ神父を呼ぶようおっしゃるんですよ。神学校のご学友だったのでしょう。そして昨夜も、パパレッリ神父がその籠を持って台所までお連れしたはずです。ああ、あの籠!想像してくださいな、指示を受けていたのに、さっき猊下の卓に出し忘れていたのです。だから、今朝になっても、誰の口にも入らなかったところを、パパレッリ神父が走って取りに降りて、まるで聖体を捧げるかのような敬虔さで、自分で運んでこられたのですよ…猊下は、あのイチジクが大好物ですから!」

「でも、今朝は兄はご馳走どころじゃありませんわ」と公爵夫人は締めくくった。「体調を崩されて、ひどく悪い夜を過ごされたのです。」

5 件のコメント:

  1. ベネデッタお嬢様の貧しき人々の苦しみに対する能天気な解釈は、ぞっとするほどの冷酷さとも言えるのですが、ある意味、「先進国」に住む人々はこのような意識と無縁ではないでしょう。
     そんなベネデッタが、無邪気にもイチジク食べた~いなんて言っているのを聞くと、それが毒イチジクであることを知っている我々としては、ひやひや、ドキドキしつつも、ゾラならベネデッタにイチジク食べさせるの、十分あり得る!とか思っているわけであります👿

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    1. うん、その感覚、めちゃくちゃよく分かりますよ。
      ベネデッタの“のほほんとした善意”って、時に刃物より鋭い残酷さを帯びるんですよね。
      本人には悪意が一切ないという点が、余計に怖い。
      「貧しい人たちは、苦しみこそ神に近づく道ですものね~🌸」みたいな顔して言われたら、
      当事者からすれば「いやお前、何寝ぼけたこと言ってんだ」って話で。
      で、そこに毒イチジクですよ。
      何その「チェーホフの銃」の果実版。
      ゾラがあんな劇物を机の上に置くはずないだろうと。
      絶対に誰かの口に入る。100%。
      その瞬間を読者に待たせるために、今あえて無邪気なベネデッタを前面に出している。
      もう読者の胸はザワザワ…
      「やめろベネデッタ、そこじゃない、食うな、危険だ!」
      って声が喉の奥まで込み上げてくるわけです。
      “イチジク食べた~い”
      この台詞、もはやホラー。
      本人はディズニーのプリンセス気分、読者はヒッチコック映画の観客。
      そのギャップが、ゾラの真骨頂ですよね。
      弱者を搾取する構造も、無自覚な支配階層の残酷さも、
      一個の果物で見せるわけだ。おそろしい職人芸。
      ちなみに、もしゾラがイチジクを食べさせるとしたら、
      私は ベネデッタに食べさせる方向に全賭けしますね。
      なぜなら、ゾラはいつも
      「無自覚な善意の愚かさこそ、最も悲劇的な結末を招く」
      というテーマで筆を走らせる作家だから。
      まあ、読者としては、その瞬間を
      指の隙間から見る羽目になるんだけど。
      続き、楽しみすぎます。
      心臓に悪いわ、ほんと。
      (そして、ひやひやしながら読むこっちの心理まで、ゾラの掌の上なのが悔しい😈)

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  2. ところで、ここは時間の経過が大事なんですよ。
    ピエールは深夜3時くらいにチェリアのお祝いから帰ってきた。
    そして、目覚めたのは翌11時。
    Pierre, lorsqu'il s'éveilla, fut tout surpris d'entendre sonner onze heures.
    その後、テヴェレ川沿いでベネデッタと話す。
    それがいきなり、11時夕食なんて言い始める。
    Le dîner avait lieu à une heure
    ここ、なんかおかしくないですか?

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    1. おっしゃる通り、時間の流れにどうも“ずれ”がありますね。良い観察です。
      確かに:
      Pierre Froment(ピエール)は深夜3時ころに夜会から帰宅し、翌朝11時に目を覚ました。
      そこから庭で Benedetta Brandini(ベネデッタ)と語らう。
      しかし「夕食(le dîner)が1時(à une heure)に行われる」という記述。


      これらを整理すると、以下のような疑問点が出ます:
      「深夜3時→翌11時起床」という流れから、昼食/ブランチに相当する時刻であるにも関わらず、「夕食」という言葉を使っている。
      「1時」という時間が、現代的な“夕食”としては明らかに早すぎる。
      しかも“午後1時”ということなら「ランチ/déjeuner」に相当するのに、“dîner(夕食)”という語が使われている。


      実は、歴史的にフランス語圏では「dîner」が昼食の意味でも用いられていたという裏付けがあります。
      例えば、14世紀のパリでは「dîner = 約 13時〜14時」だったという記録もあります。
      ということは、この作品の時代背景や文脈を考えると、作者 Émile Zola が「dîner」を現代で言う“夕食”ではなく、“昼食”の意味で使っている可能性があります。
      つまり、時間の流れとしては整合する可能性があります:
      夜会終わり=深夜3時 → 寝る → 起きて11時 → 庭で語る → そのまま昼食(dîner)=午後1時。
      その後、夕方や夜に別の“真正な夕食”があるかどうかは記述上明らかでないけれど、昼食を「dîner」と言ってると考えれば矛盾は解消されそう。


      結論として:
      はい、おかしそうに見えましたが、言葉の意味・時代用法を押さえると、「dîner=昼食」である可能性が高いです。
      ただし、翻訳・注釈上は “昼食”として訳すべきかどうか は検討の余地ありですね。文脈的には「お昼ご飯」「昼の食事」と訳した方が自然と思われますが、原語の「dîner」をそのまま「夕食」と訳すと誤解を生むので、注釈を付けるか訳語を「昼食」に変えるか、ユーザーのご希望に従いたいです。

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    2. 「昼食」と訳すことにしました。

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