2025年3月31日月曜日

ルルド 第90回

 

第四章

 ピエールはマリーの車椅子を押して、彼女を洞窟の前まで連れていった。そして、できるだけ柵の近くに彼女を落ち着かせた。

 すでに深夜を回っており、そこにはまだ100人ほどの人々が残っていた。何人かはベンチに座り、大半は跪き、祈りに没頭していた。外から見ると、洞窟は炎のように輝いていた。燭台の炎が煌めき、まるで燃え続ける礼拝堂のように見え、他のものは何もはっきりと識別できなかった。そこにあるのはただ、星の塵のような燦めきと、その中に浮かび上がる聖母像だけだった。夢のように白く、幻想的な輝きを放っていた。

 垂れ下がる緑はエメラルドのように輝き、天井を埋め尽くす千本もの松葉杖は、まるで枯れ木の絡み合った迷路のようだった。しかし、それらは今にも再び花開きそうにも見えた。

 そんな眩い光の中で、夜の闇はますます深さを増していた。周囲は濃密な影に沈み、壁も、木々も、何もかもが闇の中に溶け込んでしまった。ただひとつ、絶え間なく響くガーヴ川の轟音だけが、どこまでも広がる暗黒の空の下に続いていた。その空気には嵐の前の重苦しさが漂っていた。

「マリー、寒くないかい?」ピエールは優しく尋ねた。

 マリーは小さく身震いした。しかし、それはただ、洞窟の奥から吹いてくる"あの世の風"のせいだった。

「いいえ、寒くないわ。本当に心地よいの。ただ、ひざ掛けをかけてくれる?……ありがとう、ピエール。もう私のことは気にしなくていいの。だって、私はもう彼女と一緒にいるのだから……」

 彼女の声は次第に弱くなり、すでに恍惚の境地に入っていた。両手を胸の前で組み、目を聖母像に向け、疲れ果てた顔全体が神々しい光に包まれていた。

 ピエールはしばらくの間、彼女のそばに留まった。彼は、震える彼女の細い手を包み込むように、しっかりとショールをかけてやりたかった。しかし、それをすると彼女が嫌がるかもしれないと思い、そっと彼女を寝具に包み込むように整えてやるだけに留めた。その間、マリーは両肘を車椅子の縁に預け、半ば身を起こしており、もはや彼の存在すら意識していないようだった。

 そこにベンチがあったので、ピエールはそこに腰掛け、しばし自分自身を落ち着かせようとした。

 そのとき、彼の視線は暗闇に跪くひとりの女性に向かった。

 黒衣に包まれたその姿は、あまりに控えめで目立たず、闇にすっかり溶け込んでいたため、彼はそれまでまったく気がつかなかった。しかし、よく見るとそれはマーズ夫人だった。

 彼は昼間、彼女が手紙を受け取るのを見ていたことを思い出した。そのことを思うと、彼女のことがひどく哀れに思えた。この孤独な女性は、肉体の傷を癒すためではなく、裏切った夫の改心を聖母に懇願するためにここへ来ていた。

 あの手紙には、夫からの冷たい返答が書かれていたのかもしれない。彼女はうなだれ、打ちひしがれたように沈黙していた。その姿はまるで、世の中から見捨てられた哀れな生き物のようだった。

 彼女は、この夜の闇の中でひっそりと身を潜めることで、かろうじて自分を忘れ、数時間だけでも泣き、苦しみ、自らの殉教を嘆き、消え去った愛の帰還を懇願することができるのだった。

 彼女の唇は一言も動いていなかった。

 ただ、傷ついた心だけが祈っていた。

 彼女は、愛と幸福のわずかな残り香を、必死に求めていた——まるで、それが彼女の人生のすべてであるかのように。

 ああ! ここに集う、身体と魂に傷を負った者たちを突き動かす、その尽きることのない幸福への渇望——ピエールもまた、それを喉の奥に焼きつけるように感じていた。熱い欲求に駆られ、満たされたいと切望するあまりに! 彼もまた膝をつき、この女性のように謙虚な信仰をもって神の助けを乞いたいと願った。だが、その身体はまるで縛られたかのように動かず、口をついて出るべき言葉も見つからなかった。そんなとき、そっと肩に触れる手があり、彼はほっと安堵した。

「神父様、もしまだ洞窟をご覧になっていないなら、ご案内しましょう。とても心地よく過ごせる時間です」

 ピエールは顔を上げ、ノートル=ダム・ド・サリュのホスピタリテ(巡礼者支援団体)の責任者であるスイール男爵の姿を認めた。おそらく、この善良で飾り気のない男は、彼に親しみを感じてくれたのだろう。ピエールは誘いを受け入れ、男爵の後に続いて洞窟へと入った。そこは完全に無人だった。さらに、男爵は持っていた鍵で後ろの鉄柵を閉じた。

「ねえ、神父様、こういう時間こそが、本当に素晴らしいのですよ。私はルルドに滞在する際、めったに夜明け前に寝ることはありません。なぜなら、夜の最後をここで過ごすのが習慣になっているからです……。誰もいない、ただ一人きりになれる。そして、ね? なんて心地よいのでしょう、まるで聖母さまのお宅に招かれたように!」

 彼はにこやかに微笑み、まるで自分の家のように洞窟を案内した。年齢を重ね少し衰えた身ながら、この愛すべき場所に対する深い愛情をにじませていた。そして、その信仰の深さにもかかわらず、彼は決して畏まることなく、馴染みの空間でくつろぐように、親しげに話を続けた。まるで天国と親交を結んだ人物のように。

「おや、蝋燭に目を留められましたね……。常時およそ二百本が燃えていますよ。昼夜を問わず、これだけの灯がともっていると、さすがに熱くなるものです……。冬なんか、ここでは暖を取れるほどですよ」

 実際、ピエールはわずかに息苦しさを覚えた。蝋の温もりが漂い、その匂いが充満していたのだ。強い光の中へと足を踏み入れ、彼の視線は中央にそびえる巨大な燭台へと向かった。それは小さな蝋燭が無数に突き刺さったピラミッド状の鉄柵で、まるで燃え上がる糸杉のように見え、星々が輝く夜空を思わせた。その奥には、床近くに設置された別の柵があり、そこには太い蝋燭が並んでいた。それらは不揃いな高さで立ち、まるでオルガンのパイプのように見えた。その中には、大腿ほどの太さのものさえあった。さらに、別の柵も幾つかあり、それらは岩の突起に据えられた重厚な燭台のようだった。

 洞窟の天井は左側へと低くなり、長年にわたる蝋燭の炎で焼け、黒ずんでいた。絶え間なく蝋が降り注ぎ、目に見えぬほどの雪のように舞い落ちる。それが柵の台座に積もり、白い粉塵となって厚く堆積していた。岩肌全体が蝋に覆われ、触れるとぬめりを感じるほどだった。そして、最も蝋に覆われていたのは床だった。度々転倒事故が起こったため、滑り止めのマットが敷かれるようになったほどである。

「ほら、あの太い蝋燭をご覧なさい」スイール男爵は親しげに言葉を続けた。「あれは一番高価なもので、60フランもするのです。一ヶ月かけてゆっくりと燃え尽きます……。それに比べて、小さな蝋燭は5スー(25サンチーム)で買えますが、たった3時間しか持ちません……。でもね、私たちは決して節約したりはしません。蝋燭が足りなくなることは絶対にないのですよ。ほら、あそこに二つの籠がありますね? まだ倉庫に運ばれていない蝋燭が、ぎっしりと詰まっています」


2025年3月30日日曜日

ルルド 第89回

  マリーは、これまでずっと幼子のような魂を持ち続けていた。

 彼女の父が言うように、それは「白い魂」、最も純粋で、最も美しいものだった。13歳の時に病に倒れて以来、彼女の時間は止まったままだった。今日、23歳になっても、彼女はなお13歳の少女のまま。幼いまま、内に閉じこもり、彼女を押し潰したこの悲劇だけを見つめ続けてきた。そのことは、彼女の虚ろな目にも、どこか遠くを見つめるような表情にも、いつも何かに取り憑かれたような、何かを考え続けているような顔つきにも表れていた。彼女の心は、他の何かを望むことさえできないほどに囚われていたのだ。

 彼女の魂は、成長することなく止まったままの、まるで優等生の少女のようだった。目覚めかけたばかりの恋心が、頬に落とす熱いキスだけで満ち足りるような、そんな少女の魂。彼女が知る唯一の「恋物語」は、涙にくれながらピエールに告げた別れのキスだった。それだけが、十年間、彼女の心を満たしていたのだ。

 彼女は決して恋愛小説を読むことはなかった。許されたのは、信仰の書物だけ。それらは彼女を、人間を超越した愛の熱狂へと導いていった。

 外の世界の喧騒は、彼女の閉ざされた部屋の扉の前で消え去っていた。かつて、湯治のためにフランス中を巡った時も、彼女はまるで夢遊病者のように、人々の間をすり抜け、何も見ず、何も聞かず、ただひたすらに自らの病の呪縛を思い続けていた。

 それゆえに、彼女は純粋であり続けた。子供のようなあどけなさを持ったまま、悲しみによって成長を止めた少女のままでいた。病によって体は大人へと変わっても、心は13歳のまま、彼女が知る唯一の恋、13歳のあの頃の恋に、未だにとらわれていたのだ。

 暗闇の中で、マリーの手が、ピエールの手を探し求めた。
そして、その手が彼女を迎えに来てくれた時、彼女はその手を強く、しっかりと握りしめた。

 なんという喜び!
 今、この瞬間ほど、純粋で、完璧な喜びを味わったことはなかった。二人は、世界から隔絶されて、ただ二人きり。暗闇と神秘に包まれたこの夜の魔法の中で、互いの存在だけがすべてだった。

彼らを取り巻くのは、ただ星々の輪舞。遠くから聞こえる歌声は、まるで心を宙へと舞い上がらせるような心地よい眩暈だった。

 マリーは確信していた。
 明日、彼女は癒される。
 この夜を、奇跡の洞窟の前で過ごせば、彼女の願いは聖母マリアに届く。
 必ず聖母は彼女の祈りを聞き入れてくださる——
 彼女が一人、ひたすらに嘆願しさえすれば。

 そして、彼女はピエールの気持ちも理解していた。
 彼が「自分も今夜、一晩中、洞窟の前で過ごす」と言った時の意味——
それは、彼もまた、最後の望みをかけていたのだ。失われた信仰を取り戻そうと、幼子のように膝を折り、全能の聖母にすがりつこうとしているのだと。

 今、この瞬間、彼らの手は固く結ばれていた。言葉は要らなかった。彼らは互いに祈ることを誓い合い、互いを忘れ、互いの中に溶け込んでいった。

 彼らの願いはただ一つ——
「癒されたい」「幸せになりたい」

 そしてその想いは、自己を捧げ尽くす愛の極みへと達し、つかの間、彼らは神々しい喜びの中に身を沈めたのだった。

—ああ! ピエールはかすかな声でつぶやいた。「この青い夜、影の無限……人も物も醜さを消されてしまう、この静寂の広がり……こんな夜のなかでなら、僕は疑念を眠らせることができるかもしれない……」
 彼の声は次第に消えていった。すると今度はマリーが、同じように低い声で言った。
— それに薔薇の香り……この薔薇の香りを……感じませんか、ピエール? どこにあるのかしら、あなたには見えなかったの?
— ああ、確かに香りは感じる……でも、薔薇はどこにも咲いていないよ。もしあったなら、きっと僕の目にも入っていたはずだ。ちゃんと探してみたんだから。
— どうしてそんなことが言えるの? こんなにも空気が香りに満ちているのに、私たちはその中に浸っているのに……。ほら! 時々、この香りがあまりに強くなると、私は喜びのあまりくらくらしてしまう……きっと、薔薇はすぐ足元に、無数に咲いているのよ。
— いや、誓って言うけれど、どこにも薔薇はない。あるとすれば、それは目に見えない薔薇だということになる。僕たちが踏みしめている草そのものが薔薇なのかもしれないし、僕たちを囲む大木がそうなのかもしれない。あるいは、その香りが大地そのものから立ち上っているのかもしれない。あのすぐそばを流れる急流や、森や、山々の中から漂ってくるのかもしれない……。
 彼らはしばらく黙った。そしてマリーが、先ほどと同じ低い声でつぶやいた。
— なんて素敵な香りなの、ピエール! 私たちが手を重ねているのが、まるで一束の花のように思えてくるわ……。
— ああ、本当に素晴らしい香りだ……。マリー、それはきっと君から立ち昇っているんだよ。まるで君の髪の中で薔薇が咲いているみたいだ……。

 二人はそれ以上、言葉を交わさなかった。
 巡礼の行列はまだ続いていた。聖堂の角を回るたびに、小さな火の輝きが暗闇の中から現れ、尽きることのない泉のようにあふれ出してくる。流れるように進む無数の小さな炎が、影の中に二重の光の帯を描いていた。だが、もっとも壮観なのは、ロザリオ広場においてであった。そこでは、行列の先頭がゆっくりと進みながら自らの周りを折り返し、どんどん狭まる円を描いていた。それは、執拗に回転し続ける渦のようであり、疲れ果てた巡礼者たちをさらに陶酔へと追いやり、彼らの聖歌をますます熱狂させていた。

 やがて、円環はひとつの燃え上がる塊と化し、巨大な星雲の核のようになった。その周囲には、まるで終わりのない炎の帯が巻きついていた。その核は次第に広がり、やがて燃え盛る池となり、それがさらに大きな湖へと変わった。ロザリオ広場全体が、無数のきらめく波をたたえる火の海となり、終わることのない渦の中で目を回していた。

 聖堂の白い石壁は、炎の輝きを受けて夜明けのように仄かに明るんでいた。だが、そのほかの地平線は、なおも深い闇に沈んでいた。暗がりの中では、道を外れた数本のろうそくが、まるで小さなランタンを頼りに道を探す蛍のように、彷徨っているのが見えた。

 しかし、カルヴァリオの丘の上にも、行列の一部が登っているのかもしれなかった。なぜなら、高い空の中をゆっくりと移動する星々が見えたからだ。そして最後に、行列の最後尾が姿を現し、芝生を巡り、ゆっくりと炎の海の中へと溶け込んでいった。

 3万本のろうそくが燃えていた。尽きることなく渦巻きながら、その赤々とした光をあおり続けていた。その上には、穏やかに広がる夜空があり、星々は次第にその光を失っていった。聖歌は止むことなく響き続け、光の雲となって天へと昇っていった。そして、「アヴェ、アヴェ、アヴェ、マリア!」という巡礼者たちの絶え間ない歌声が、まるでこの燃え上がる心々の爆ぜる音のように響いていた。彼らは炎と化し、祈りの中で燃え尽きようとしていた——その身を癒やし、その魂を救うために。

 やがて、ろうそくの炎が次々と消えていき、夜が再び完全に支配するようになった。暗く、しかし優しく包み込む夜の中で、ピエールとマリーは自分たちがまだそこにいることに気がついた。木々の影に隠れ、手をつないだまま……。

 遠く、ルルドの闇に沈んだ街路では、道に迷った巡礼者たちが宿への帰り道を尋ねていた。影の中を、何かがさまよい、何かが眠りにつこうとしていた。祭りの夜が終わるときにだけ現れる、ささやかな気配……。

 しかし、彼らは忘れ去られたように、そこにとどまり続けていた。二人とも動かず、まるで時間さえも止まったかのように……。
 そして、目に見えぬ薔薇の香りの中で、彼らはこの上なく幸せだった。



2025年3月29日土曜日

ルルド 第88回

  突然、ピエールとマリーはゲルサン氏を見つけて驚いた。

「おや、おまえたち! 私は上で長居するつもりはなかったんだ。さっき、行列を二度も横切って降りてきたよ……。だが、なんという光景だ! ここへ来てから、間違いなく初めて本当に美しいものを見たよ」

 そう言いながら、彼はカルヴェール(磔刑像)の丘から見た行列の様子を二人に語り始めた。
「想像してごらん、おまえたち。もう一つの天空が下にあるんだ。上の空を映し出したような天空だけれど、それをたった一つの巨大な星座が支配している。その星々の群れは、深遠な闇の中に、はるか遠くに浮かんでいるように見える。そして、流れる火の帯はまるで聖体顕示台のようだ、そう、まさに本物の聖体顕示台だ! その台座が坂道によって形作られ、支柱が並行する二つの小道となり、円形の芝生が聖体のように輝いている。これは燃え上がる黄金の聖体顕示台で、闇の奥底で煌々と燃え、歩み続ける星々が永遠にきらめいているんだ。それしか見えない、ただそれだけが巨大で、威厳に満ちている……。本当に、こんなに異様で美しいものは見たことがない!」

 彼は腕を振り回し、芸術家の感情を抑えきれずにいた。
「お父さま」マリーは優しく言った。「せっかく降りてきたんだから、もう休んだほうがいいわ。もうすぐ十一時よ、それに、三時には出発しなきゃならないんだから」

 彼女はさらに言葉を添えて、父を納得させようとした。
「お父さまがこの遠足に行ってくれるのが、私は本当に嬉しいの……。でも、明日の夜には早く戻ってきてね。だって、きっと……きっと……」
 彼女は、それ以上言葉を続けることができなかった。自分が治るという確信を、まだはっきりと口にする勇気がなかったのだ。

「そうだな、君の言う通りだ。寝ることにしよう」ゲルサン氏はようやく落ち着いた様子で答えた。「ピエールが一緒にいてくれるなら、心配はいらない」

「でも!」マリーは叫んだ。「ピエールには夜を明かさせたくないのよ。あとで私を洞窟まで連れて行ったら、あなたのところに戻ってちょうだい……。私はもう誰の助けもいらないわ。明日の朝になれば、最初に通りがかった担架係が、病院まで送ってくれるもの」

 ピエールは黙っていた。そして、ただ静かに言った。
「いや、いや、マリー、僕はここに残るよ……。あなたたちと同じように、僕も洞窟で夜を過ごす」

 マリーは口を開き、反論しようとした。怒りさえ覚え、彼を説得しようとした。だが、その言葉のあまりの優しさ、そしてその奥に潜む切実な幸福への渇望を感じ取ると、彼女は何も言えなくなった。心の奥底まで揺さぶられ、静かに黙り込んだ。

「さて、おまえたち」父親は続けた。「好きなようにするがいい。おまえたちは二人とも、とても分別があるからな。では、おやすみ。私のことは心配しなくていい」

 そう言って彼は娘を長く抱きしめ、若い司祭の両手を固く握った。そして、再び人々の群れの中へと消えていった。行列の列をもう一度横切りながら。

 こうして、彼らは二人きりになった。影と孤独の中、大きな木々の下で。
 マリーは変わらず車椅子の奥に腰掛け、ピエールは膝をつき、草むらの中で車輪に肘を預けていた。

 それは、なんとも美しいひとときだった。
 行列はまだ続いていた。ロザリオ広場では、無数のろうそくが回るように密集していた。
 ピエールを魅了したのは、昼間の喧騒が、まるでルルドの空の上には何も残っていないかのように消え去っていたことだった。
 まるで山々から清らかな風が吹き下り、濃厚な食べ物の匂いも、日曜の貪るような楽しみも、街に立ちこめていた祭りの埃っぽい臭気も、すべてを洗い流してしまったかのようだった。

 残されているのは、ただ広大な空と、澄み切った星々。ガヴ川の涼やかな空気が心地よく、漂う風が野の花々の香りを運んでくる。
 無限の神秘が、夜の至高の静けさの中に溶け込んでいき、重苦しい現実はただ小さなろうそくの炎となって瞬いていた。
 マリーがそれを「苦しむ魂が解放されようとしているようだ」と言ったのを思い出し、
ピエールは、なんとも言えぬ安らぎと、果てしない希望を感じた。

 彼がここに座ってからというもの、
 昼間の苦々しい記憶――
 飽くことを知らぬ食欲、露骨な聖職売買、堕落し売春婦のようになり果てた旧市街――
 それらは次第に薄れていった。
 残ったのは、ただこの神々しいほどの清らかさ、
 このあまりにも美しい夜の中に、
 まるで復活の水に身を浸しているような感覚だけだった。

 マリーもまた、無限の優しさに包まれ、ふとつぶやいた。
「……ああ、ブランシュがいたら、どんなに喜んだことでしょう!」

 彼女は、パリに残してきた姉のことを思い浮かべていた。
 過酷な日々の中、家庭教師の仕事を掛け持ちしながら、日々の糧を稼いでいる姉のことを。

  ルルドに来て以来、一度も話題にしていなかった姉の名前が、ここで不意に浮かび上がると、
 それだけで、過去の記憶が鮮やかに蘇った。

 マリーとピエールは、言葉を交わさぬまま、
 幼い頃の思い出に身を委ねた。
 隣り合った二つの庭で、垣根越しに遊んでいたあの日々。
 そして、別れの日――
 ピエールが神学校へ入る朝、
 マリーは涙をこぼしながら彼の頬に口づけし、
「決してあなたを忘れない」と誓った。

 それから長い年月が過ぎ、
 二人は再び巡り会いながらも、
 永遠に隔てられたままだった。

 彼は司祭となり、
 彼女は病に倒れ、
 女性としての未来を失った。

 それが二人の物語だった。
 長く気づかぬまま抱いていた深い想い。
 そして、ついには完全な断絶――
 まるで、お互いに死んでしまったかのように。
 すぐそばにいるのに。

 二人の脳裏には、今、かつての質素な住まいが蘇っていた。
 ブランシュが家庭教師として懸命に働き、
 少しでも暮らしを楽にしようとしていたあの貧しい部屋。
 そこから、数えきれぬ議論と葛藤を経て、
 ルルドへと旅立ったのだった。
 ピエールの疑念、
 マリーの熱烈な信仰――
 そして、彼女の信仰が勝利した。

 なんと甘美な時間だったろう。
この深い闇の中、
二人きりで寄り添うことの幸福。
大地には、天空と同じほどの星々が瞬いていた。


2025年3月28日金曜日

ルルド 第87回

  それはまるで、揺らめく星々が二列に並んだ垣のようであり、バシリカの左隅から湧き出るようにして現れると、記念碑的なスロープに沿って進み、その曲線を描き出していた。この距離からは、ロウソクを持つ巡礼者たちの姿は依然として見えず、そこにはただ、闇の中に正確な線を引きながら、整然と旅を続ける炎の列があるばかりだった。青みがかった夜のもとでは、記念建造物の輪郭も曖昧で、闇の厚みがわずかに形を示しているにすぎなかった。しかし、ロウソクの数が増すにつれ、少しずつ建築の輪郭が浮かび上がってきた。バシリカの鋭くそびえ立つ稜線、大規模なスロープの巨大なアーチ、そして重々しく低く広がるロザリオ教会の正面──そうしたものが、炎の流れの光によって照らし出されていった。

 絶え間なく流れ続けるこの輝く火の奔流は、決して急ぐことなく、まるで押し寄せる洪水のように、何ものにも遮られることなく進み続けていた。それはまるで夜明けの到来のようであり、光の雲が生まれ、広がり、やがてその栄光で地平を満たしてしまうかのようだった。

「見て、見て、ピエール!」マリーは幼子のような喜びに駆られ、繰り返し叫んだ。「終わることがないわ、ずっと続いてるの!」

 そして、確かに、上方では小さな光が次々と規則的に現れ続けていた。それはまるで、天上の無尽蔵の泉が、こうして太陽の塵を惜しみなく降り注いでいるかのようだった。

 行列の先頭はすでに庭園に到達し、冠を戴いた聖母像の高さに達していた。そのため、炎の二重の列はまだロザリオ教会の屋根と、長大なスロープの曲線を描いているにすぎなかった。しかし、群衆の接近は空気のざわめきや遠方から届く生きた息吹となって感じられた。 そして何よりも、声が大きくなっていた。ベルナデットの嘆きの歌がますます膨らみ、満ち潮のごとき響きを帯びながら、リフレインを繰り返していた。

「アヴェ、アヴェ、アヴェ・マリア」

 その揺らめく旋律が、波のように高まっていった。

「このリフレインは……」ピエールはつぶやいた。「肌にしみ込んでくるようだ。まるで、体全体が歌い出しそうな気分になる。」

 マリーは再び、少女のように軽やかな笑い声を立てた。

「本当ね。どこへ行ってもついてくるの。こないだの夜も、夢の中で聞こえたくらいよ。そして今夜は、また私をとらえて、地上からふわりと持ち上げるような気がするの。」

 彼女はふと口をつぐみ、言った。

「ほら、あそこ、芝生の向こう側に来てるわ、私たちの正面よ。」

 そのとき、行列は長い直線の並木道を進み、やがて「ブルトン人の十字架」を回り込み、芝生を囲んで再びもう一方の直線の並木道を下り始めた。この動作を完了するのに、15分以上はかかった。

 そして今や、二重の炎の列は二本の長い平行線を描き、その上には勝利の太陽のような輝きが浮かび上がっていた。しかし、なおも驚嘆すべきは、この炎の蛇の果てしなき行進だった。その黄金の輪は、闇に包まれた大地の上を静かに這いながら、次々と伸び続け、伸び続け、その巨大な体躯が尽きることはなかった。

 何度か、人波の押し合いが起こったのか、炎の列がたわみ、今にも途切れそうになることもあった。しかし、すぐに秩序は回復し、ゆっくりとした規則正しい流れが再開された。

 空には、もはや以前ほどの星は見えなかった。まるで天の川が降りてきて、その無数の世界の塵を転がしながら、地上で星々の円舞を続けているかのようだった。

 青白い光が辺りに流れ落ち、もはや世界はただ空に包まれたかのようだった。記念建造物や木々は、夢のような輪郭を帯び、無数のロウソクが放つ神秘的な輝きのなかに、ますます幻想的な姿を浮かべていた。

 マリーは抑えきれない感嘆の息を漏らし、言葉を見つけられずに繰り返した。
――なんて美しいの……神様、なんて美しいの……! ピエール、見て、なんて美しいの!

 しかし、行列がすぐそばを通り過ぎるようになると、それはもはや、ただの星々がリズムよく進んでいく幻想的な光景ではなくなっていた。今や、光の雲の中に人々の身体が見え、時折、ろうそくを掲げて進む巡礼者たちの顔を認識できるようになった。

 最初に現れたのはグリヴォットだった。彼女は夜遅くにもかかわらず、この儀式に参加したがったのだ。自らの癒しを誇張し、これまでになく元気だと繰り返し主張しながら、冷えた夜気に震えつつも、いまだに高揚した足取りを保っていた。次に、ヴィニュロン一家が姿を見せた。先頭には父親がいて、高く掲げたろうそくを持ち、その後ろにはヴィニュロン夫人とシェーズ夫人が、疲れた足を引きずるようにして続いた。そして、ぐったりとした様子の小さなギュスターヴが松葉杖をつきながら、右手をろうのしずくで覆いながら砂利を叩いていた。

 そこには、多くの歩ける病人たちもいた。たとえば、エリーズ・ルケがいた。彼女はまるで地獄から現れた亡霊のように、むき出しの赤い顔をさらして通り過ぎた。中には笑っている者もいた。前年の奇跡の少女、ソフィー・クートーはすっかり儀式を忘れ、ろうそくをまるで棒切れのように弄んでいた。

 次々と無数の顔が現れた。とりわけ女性たちが多かった。中には下層階級特有の粗野な表情の者もいれば、時折、驚くほど気高い顔つきの者もいた。彼女たちは一瞬だけ目に映り、その後、幻想的な光の中に消えていった。しかし、それは終わることなく、絶え間なく新たな人々が現れ続けた。そしてピエールとマリーは、ひっそりとした小さな黒い影――マーズ夫人の姿に気づいた。もし彼女がほんの一瞬、涙に濡れた蒼白な顔を上げなかったなら、二人は気づかなかっただろう。

――見てごらん、とピエールがマリーに説明した。行列の先頭のろうそくの光が、いまちょうどロザリオ広場に到達したけれど、巡礼者の半分はまだ洞窟の前にいるはずだよ。

 マリーは目を上げた。すると、確かに、バシリカの左端の角から、また新たな光が絶え間なく規則正しく現れていた。それはまるで、機械仕掛けのように止まることなく続いているように見えた。

――ああ……なんて多くの苦しみの魂が……!
 彼女は言った。
――この小さな炎の一つ一つが、苦しむ魂なのね。苦しみ、そして救われる魂なのね。

 ピエールは身を乗り出さなければ、彼女の言葉を聞き取れなかった。なぜなら、すぐ近くを流れる人々の波の中で、ベルナデットの哀歌が彼らの耳を圧倒していたからだ。

 声はどんどん大きくなり、旋律は次第に渦巻くように混ざり合っていった。行列の各部分が、それぞれ異なる節を絶叫するうちに、もはや互いの声を聞くことさえできなくなっていた。それは、一つにまとまった巨大な叫びだった――信仰の熱狂によって酔いしれた群衆の、途方もない絶叫だった。

 それでもなお、リフレインは響き続けた。
「アヴェ、アヴェ、アヴェ・マリア!」
 その旋律は狂気じみた執拗さで繰り返され、すべてを支配していった。

2025年3月27日木曜日

ルルド 第86回

  彼は近づき、かすれた低い声で話すヴァンサン夫人を認めた。

「ええ、ローズは今日ずっと苦しみ通しでした…… 夜明けからずっと、途切れることなくうめき声をあげていたんです。それで、ようやく眠りについたのがもう2時間ほど前。それ以来、私は身動きもできずにいるんです。もし私が動いてしまったら、彼女が目を覚まして、また苦しみ出すかもしれませんから……」

 彼女は殉教者のようにじっとしたままだった。この数か月、娘を腕に抱きながら、ひたむきな願いを込めて癒やそうとしてきたのだ。腕に抱えてルルドまで連れてきた彼女は、町を歩き回り、腕の中で眠らせることしかできなかった。宿もなく、病院のベッドすら与えられなかったのだから。

「かわいそうに…… 少しは良くなったのでは?」とピエールが尋ねた。彼の胸は痛んだ。

「いいえ、神父様…… たぶん、まったく良くなっていません」

「でも、こんなベンチではあまりにお辛いでしょう。どこかに相談すれば、ちゃんと受け入れてもらえたはずです。こんなふうに外にいるなんて……」

「そんなことしても無駄です、神父様」彼女はゆっくりとかぶりを振った。「彼女はここで、私の膝の上で安らいでいます。それに、もしどこかに預けたら、こんなふうにずっとそばにいてあげることはできないでしょう?…… いいえ、私はこうしていたいのです。彼女を腕に抱いていれば、きっと助かるはずですから」

 大粒の涙が彼女の動かない顔をつたった。そして、かすれた声で続けた。
「お金がまったくないわけではないんです。パリを出るときには30スー持っていて、今もまだ10スー残っています。私はパンだけで大丈夫。あの子はもうミルクを飲むことすらできないんですから……。これだけあれば、帰るまでには十分です。でも、もし彼女が治ったら…… そうしたら、私たちはもう大金持ちですよ!」

 彼女は身をかがめ、そばのランタンの明かりに照らされたローズの白い顔を覗き込んだ。小さな唇がわずかに開き、かすかな息が漏れている。

「見てください…… こんなに安らかに眠っているんです。神父様、きっと聖母様が憐れんでくださって、彼女を癒やしてくださいますよね?…… 明日までしか時間はありません。でも、私は希望を捨てません。今夜は一睡もせず、ここで祈り続けるつもりです…… 明日なんです、明日まで耐えなければ」

 ピエールの心は、計り知れない哀れみに満たされた。涙がこみ上げてくるのを感じ、思わず彼女の元を離れた。
「ええ…… ええ、奥さん…… どうか、希望を持ち続けてください」

 彼はその場を去った。広大な、ひどく臭う空間に取り残されたヴァンサン夫人。無秩序に散らばったベンチの中で、彼女は微動だにせず、娘を抱いたまま、深い信仰のうちに息を殺していた。彼女は十字架につけられた者のように、静かに、しかし必死に祈っていた。

 ピエールがマリーの元へ戻ると、彼女がすぐに問いかけた。
「それで? そのバラは……? このあたりに咲いているの?」

 ピエールは、先ほど見た惨状を彼女に話して悲しませたくなかった。
「いや、芝生を探してみたけれど、バラはなかったよ」

「不思議ね……」マリーは考え込むように言った。「この香り、あまりにも甘くて、強くて…… ねえ、あなたも感じるでしょう? 今なんて、まるで天国中のバラが夜の闇の中に咲き誇っているみたい……」

 しかし、そのとき父の驚いた声が彼女の言葉を遮った。
「ほら、ついに来たぞ!」

 彼は立ち上がり、バシリカの左側の坂道に、小さな光の点が現れるのを見ていた。

 本当に、ついに行列の先頭が姿を見せたのだった。次の瞬間、無数の光の点が続き、それが2列のゆらめく光の帯となった。闇に包まれた中、それらは遥か高みから現れたかのようで、黒い未知の深淵から湧き出てくるように見えた。そして同時に、あの哀切な聖歌が再び響き始めた。しかし、それはまだ遠く、かすかで、まるで風の前触れが木々をそよがせる音のようだった。

「だから言っただろう!」ゲルサン氏はつぶやいた。「カルヴェールの丘にいたほうが、もっとよく見えたのに!」

 彼は子供のようにこだわり続け、不満げにぶつぶつ言った。
「パパ、だったら今からでも行けば?」とマリーが提案した。「まだ間に合うわ…… ピエールは私と一緒にいるから」

 そして、悲しげに微笑みながら付け加えた。
「大丈夫よ、誰も私をさらっていったりしないわ」

 ゲルサン氏は渋っていたが、衝動に抗えず、とうとう決心した。そして急いで芝生を横切った。
「動かずに、ここで待っていてくれ。戻ったら、あそこで見たものを全部話すからな!」

 こうしてピエールとマリーは二人きりになった。深い闇に包まれた静寂のなか、バラの香りが漂い続けていた。そこには一本のバラも咲いていないというのに。そして二人は黙ったまま、滑るように降りてくる行列をじっと見つめた。


ルルド 第174回

   その恐ろしい苦悶のさなか、1878年9月22日、マリー=ベルナール修道女は終生の誓願を立てた。  ちょうどその日で、聖母が彼女のもとに現れてから二十年が経っていた。かつて天使がマリアを訪れたように、聖母はベルナデットを訪れ、マリアが選ばれたように、ベルナデットもまた選ばれた...