2025年3月27日木曜日

ルルド 第86回

  彼は近づき、かすれた低い声で話すヴァンサン夫人を認めた。

「ええ、ローズは今日ずっと苦しみ通しでした…… 夜明けからずっと、途切れることなくうめき声をあげていたんです。それで、ようやく眠りについたのがもう2時間ほど前。それ以来、私は身動きもできずにいるんです。もし私が動いてしまったら、彼女が目を覚まして、また苦しみ出すかもしれませんから……」

 彼女は殉教者のようにじっとしたままだった。この数か月、娘を腕に抱きながら、ひたむきな願いを込めて癒やそうとしてきたのだ。腕に抱えてルルドまで連れてきた彼女は、町を歩き回り、腕の中で眠らせることしかできなかった。宿もなく、病院のベッドすら与えられなかったのだから。

「かわいそうに…… 少しは良くなったのでは?」とピエールが尋ねた。彼の胸は痛んだ。

「いいえ、神父様…… たぶん、まったく良くなっていません」

「でも、こんなベンチではあまりにお辛いでしょう。どこかに相談すれば、ちゃんと受け入れてもらえたはずです。こんなふうに外にいるなんて……」

「そんなことしても無駄です、神父様」彼女はゆっくりとかぶりを振った。「彼女はここで、私の膝の上で安らいでいます。それに、もしどこかに預けたら、こんなふうにずっとそばにいてあげることはできないでしょう?…… いいえ、私はこうしていたいのです。彼女を腕に抱いていれば、きっと助かるはずですから」

 大粒の涙が彼女の動かない顔をつたった。そして、かすれた声で続けた。
「お金がまったくないわけではないんです。パリを出るときには30スー持っていて、今もまだ10スー残っています。私はパンだけで大丈夫。あの子はもうミルクを飲むことすらできないんですから……。これだけあれば、帰るまでには十分です。でも、もし彼女が治ったら…… そうしたら、私たちはもう大金持ちですよ!」

 彼女は身をかがめ、そばのランタンの明かりに照らされたローズの白い顔を覗き込んだ。小さな唇がわずかに開き、かすかな息が漏れている。

「見てください…… こんなに安らかに眠っているんです。神父様、きっと聖母様が憐れんでくださって、彼女を癒やしてくださいますよね?…… 明日までしか時間はありません。でも、私は希望を捨てません。今夜は一睡もせず、ここで祈り続けるつもりです…… 明日なんです、明日まで耐えなければ」

 ピエールの心は、計り知れない哀れみに満たされた。涙がこみ上げてくるのを感じ、思わず彼女の元を離れた。
「ええ…… ええ、奥さん…… どうか、希望を持ち続けてください」

 彼はその場を去った。広大な、ひどく臭う空間に取り残されたヴァンサン夫人。無秩序に散らばったベンチの中で、彼女は微動だにせず、娘を抱いたまま、深い信仰のうちに息を殺していた。彼女は十字架につけられた者のように、静かに、しかし必死に祈っていた。

 ピエールがマリーの元へ戻ると、彼女がすぐに問いかけた。
「それで? そのバラは……? このあたりに咲いているの?」

 ピエールは、先ほど見た惨状を彼女に話して悲しませたくなかった。
「いや、芝生を探してみたけれど、バラはなかったよ」

「不思議ね……」マリーは考え込むように言った。「この香り、あまりにも甘くて、強くて…… ねえ、あなたも感じるでしょう? 今なんて、まるで天国中のバラが夜の闇の中に咲き誇っているみたい……」

 しかし、そのとき父の驚いた声が彼女の言葉を遮った。
「ほら、ついに来たぞ!」

 彼は立ち上がり、バシリカの左側の坂道に、小さな光の点が現れるのを見ていた。

 本当に、ついに行列の先頭が姿を見せたのだった。次の瞬間、無数の光の点が続き、それが2列のゆらめく光の帯となった。闇に包まれた中、それらは遥か高みから現れたかのようで、黒い未知の深淵から湧き出てくるように見えた。そして同時に、あの哀切な聖歌が再び響き始めた。しかし、それはまだ遠く、かすかで、まるで風の前触れが木々をそよがせる音のようだった。

「だから言っただろう!」ゲルサン氏はつぶやいた。「カルヴェールの丘にいたほうが、もっとよく見えたのに!」

 彼は子供のようにこだわり続け、不満げにぶつぶつ言った。
「パパ、だったら今からでも行けば?」とマリーが提案した。「まだ間に合うわ…… ピエールは私と一緒にいるから」

 そして、悲しげに微笑みながら付け加えた。
「大丈夫よ、誰も私をさらっていったりしないわ」

 ゲルサン氏は渋っていたが、衝動に抗えず、とうとう決心した。そして急いで芝生を横切った。
「動かずに、ここで待っていてくれ。戻ったら、あそこで見たものを全部話すからな!」

 こうしてピエールとマリーは二人きりになった。深い闇に包まれた静寂のなか、バラの香りが漂い続けていた。そこには一本のバラも咲いていないというのに。そして二人は黙ったまま、滑るように降りてくる行列をじっと見つめた。


2 件のコメント:

  1. ヴァンサン夫人はパリで裁縫を仕事にしているのですが、7歳の病気の娘をルルドに連れてくるために全財産をはたいてしまったのですね。ローズはこのまま息を引き取ってしまうのではないでしょうかねえ。

    返信削除
    返信
    1. ヴァンサン夫人の状況は本当に胸が締めつけられますね。貧しいながらも母としての愛情と信仰の力だけで娘を支え、最後の望みをルルドの奇跡に託している姿が痛々しいです。

      彼女は *「もしローズが治ったら、私たちは豊かになるのよ!」* と言っていますが、それはもちろん経済的な豊かさではなく、「娘が生きていてくれる」ということが彼女にとっての最大の富だからでしょう。彼女の言葉の裏には、祈りと必死の自己暗示が込められているように思えます。

      でも、残酷な現実として、ローズの容体は悪化するばかりですね……ヴァンサン夫人は「聖母が奇跡を起こしてくれる」と信じていますが、ゾラの描写を見る限り、その願いが叶う可能性は限りなく低そうです。彼女の絶望的な献身が、読んでいて余計につらくなります。

      このままローズが息を引き取ってしまうのか、それとも何か意外な展開があるのか……ゾラがこの母子の運命をどのように描いていくのか、気になりますね。

      削除

ルルド 第174回

   その恐ろしい苦悶のさなか、1878年9月22日、マリー=ベルナール修道女は終生の誓願を立てた。  ちょうどその日で、聖母が彼女のもとに現れてから二十年が経っていた。かつて天使がマリアを訪れたように、聖母はベルナデットを訪れ、マリアが選ばれたように、ベルナデットもまた選ばれた...