2025年9月1日月曜日

ローマ 第63回

  しかし、ふとピエールは玉座のそばにモンシニョール・ナーニを見つけた。遠くから彼を見分けたナーニが手振りで前へ出て来るよう促していたのである。ピエールが控えめに「ここに留まりたい」という身振りを返すと、しかし大司教はあくまで譲らず、ついに彼のもとへ執事を送り、道を開いて連れて来させた。

「どうしてご自分の席にいらっしゃらなかったのですか? あなたの持つ券なら、ここ、玉座の左手に座る権利がおありです」

「いやはや、モンシニョール。あまりに大勢の方々にご迷惑をおかけしますので、それを避けたいと思ったのです。それに、私には過分の名誉でございます」

「いやいや! この席は差し上げたものですから、きちんとお座りいただきたいのです。前列でよくご覧になり、式の一つも見落とさぬように」

 ピエールは感謝を述べるほかなかった。彼はその時、玉座の両脇にすでに数人の枢機卿と多くの教皇家属の聖職者たちが並んでいるのに気づいた。だが、いくら探してもボッカネーラ枢機卿の姿は見えなかった。枢機卿は、役務が彼を義務づける時以外は、サン・ピエトロやヴァチカンにはほとんど現れないからである。代わりに、ピエールはサングイネッティ枢機卿を認めた。大柄で堂々とした体つきで、フーラス男爵と声高に語り合っており、その顔は血の気に満ちていた。しばらくして、モンシニョール・ナーニがまた愛想よく戻ってきて、さらに二人の枢機卿――高位にあり大きな力を持つ人物――を紹介した。一人は枢機卿代理、大きな野心に燃えた顔をした、太って背の低い男。もう一人は国務枢機卿で、頑健な体格に骨ばった顔つき、まるでシチリアの山賊を思わせる風貌をしていながら、今や微笑と沈黙に彩られた教会外交の職をこなしていた。さらに少し離れたところには、大赦院長がひっそりと立ち、病んでいるように沈黙し、痩せ細った灰色の顔をまっすぐにしていた。

 正午を告げる鐘が鳴った。その時、隣の二つの広間から一斉に波のような歓声と興奮が押し寄せたが、それはまだ行列の到着ではなく、ただ群衆を整列させて道を開けさせる執事たちの働きによるものだった。

 だが、やがて第一の広間の奥から歓声が巻き起こり、次第に大きくなって近づいてきた。今度こそ、行列である。まず、スイス衛兵の小隊が下士官に率いられて進み、続いて赤服の椅子持ちたち、さらに教皇宮廷の聖職者たちが続き、その中には四人の秘密侍従もいた。そして最後に、二列の近衛兵に囲まれて、教皇は徒歩で現れた。蒼白な笑みを浮かべ、ゆるやかに右へ左へと祝福を与えながら。

 隣の広間から湧き上がった歓声が一気に列聖の間へ流れ込み、愛の熱狂は狂気のごとき嵐となった。祝福を与えるそのか細い白い手の下で、群衆は一斉に膝をつき、床には神の顕現に打ち倒されたように、敬虔な民衆のひしめきが広がった。

 ピエールも群衆に呑まれるように震え、ほかの人々と同じように跪いた。――ああ、この全能感! この抗いがたい信仰の感染力! 彼方から吹きつける畏るべき息吹が、荘厳な装飾と権威の儀式のなかで10倍にも増幅されていた。

 その後、レオ十三世が玉座に腰を下ろし、枢機卿や教皇家属に囲まれると、場内は深い静けさに包まれた。そして典礼どおり、儀式が始まった。まず、ひとりの司教が跪き、全キリスト教徒の信仰を代表して、教皇の御前に敬意を捧げた。続いて委員会の代表であるフーラス男爵が立ち上がり、長い演説を読み上げた。彼は巡礼の意図を説明し、これが宗教的であると同時に政治的な抗議でもあることを強調した。

 肥満体の彼からは意外にも甲高く鋭い声が響き、まるで錐が木を削るように耳に刺さった。彼は語った――25年にわたり聖座が被ってきた簒奪に対するカトリック世界の痛みを。ここに集った巡礼たちが各国を代表し、敬愛する教会の最高の長を慰めるために、富める者も貧しき者も、最も卑しい者たちすら献金を携えてきたことを。聖座が誇り高く、独立して、敵を軽蔑しながら生き続けるために、と。そしてフランスにも言及した。彼はその過ちを嘆き、健全な伝統への回帰を預言し、誇らしげにこう言った――フランスこそ最も豊かで、最も寛大で、絶え間なく金や贈り物をローマへと注ぎ込んでいるのだ、と。

 ついにレオ十三世が立ち上がり、司教と男爵に応えた。その声は意外にも大きく、鼻にかかった響きを持ち、やせ細った身体から発せられるのが不思議に思えるほどだった。彼は幾つかの言葉で感謝を示し、諸国が教皇庁に示す献身に心から感動していると語った。時代は困難であっても、最終的な勝利は遠くない。すでに人々が信仰へ立ち返る兆しがあり、不正義は終わりを迎えようとしている。普遍なるキリストの支配のもとで。

 そしてフランスについて――「フランスは教会の長女である。これほど多くの愛情のしるしを聖座に与えてきた国を、聖座が決して愛さずにいられようか」と。

 次に彼は腕を掲げ、そこに集ったすべての巡礼、その家族と友人、彼らが代表する団体と活動、そしてフランスをはじめとするすべてのカトリック諸国に向けて、送られた貴い援助への感謝を告げ、使徒的祝福を与えた。

 彼が再び腰を下ろすと、場内には拍手が爆発した。絶叫と喝采が10分近くも続き、歓声や叫びが混じり合い、情熱の嵐となって広間を揺さぶった。

 その狂信的な風のなかで、ピエールは玉座に再び静止したレオ十三世を凝視した。頭には白いズッケットをかぶり、肩には白テンの縁取りのある赤いマントをまとい、長い白いカソックはまるで偶像のごとき厳格さを備えていた。2億5,000万のキリスト者が崇める偶像のように。背後のバルダッキーノの緋色の帳、その翼のように広がる幕の間からは、まるで燃える炎のごとき栄光が差し込み、彼を真の威厳に包んでいた。

 そこにはもはや、よろめく小さな歩調で歩く、病んだ小鳥のような老体はなかった。痩せた顔、強すぎる鼻、裂けすぎた口――それらは消え失せ、蝋細工のような顔にはただ二つの目が残った。黒く深く、永遠の若さと、驚くべき知性と洞察を宿した目である。

 全身には意志の力で支えられたような直立があり、自らが永遠を体現するという意識があり、そして何よりも王者の高貴さがあった。彼はもはや肉体を離れ、純粋な魂となってそこに座しているかのようだった。その肉体は象牙のように透き通り、その奥にすでに魂が現れている――地上の束縛から解き放たれた魂が。

 その時ピエールは悟った。こうした人物、すなわち教皇とは、いかに遠くからでも、敬虔にして傷ついた人々を惹きつける存在であるのかを。彼らは彼の足元にひれ伏し、彼のうちに具現した神の力の輝きに打たれていたのだ。

 背後の緋色の帳、その奥に開かれているのは、あの世への裂け目、理想と栄光の無限の広がりであった。ひとりの人間に――選ばれし者に、唯一にして超人的存在に――使徒ペトロ以来の世紀の歴史と力と知恵と闘争と勝利が凝縮していた。

 さらに、何度も繰り返される奇跡――天が人の肉体のうちに降臨し、神がその僕の内に宿り、彼を選び、群衆の上に高く据えて、すべての力とすべての知恵を授ける奇跡。それは畏怖すべき戦慄であり、心を狂わせるほどの愛慕であった。神がひとりの人間のなかにいる! その眼差しの奥に、声に、祝福の身振りに、絶えず神が顕れる!

 人間にして神である絶対の存在――現世での完全な権威と来世での救済、可視の神! だからこそ信じることを渇望する魂は彼に飛びつき、そのうちに溶け入り、ついに神そのもののうちに安らぎと確信を見出すのだ。


2 件のコメント:

  1. 大赦院長ってどんな役職なの?
    あと、スイス衛兵ってバチカンとどういう関係なの?

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    1. お、いい質問だね!ねこじい的に、両方とも「バチカンの儀礼と歴史」を理解するうえで外せない役職・組織だよ🐾

      🌿 大赦院長(Il Cardinale Penitenziere Maggiore / Major Penitentiary)
      ローマ教皇庁の 大赦院(Apostolica Paenitentiaria) の長官。必ず枢機卿が務める。


      大赦院は「聖座の3つの主要裁判所」のひとつ(他はローマ・ロタ裁判所、シニグマ裁判所)。


      扱うのは、教会法上の内的フォーラム(個人の良心・告解・秘跡に関わる問題)。


      たとえば:


      特別に重い罪(教皇にしか赦せない罪:聖体の冒涜、教皇暗殺未遂など)の赦しの扱い


      大赦(indulgentiae:贖宥)の管理


      内面的な霊的問題に関する特別権限


      つまり、「魂の深部に関わる事柄の最高責任者」。法廷というより、「神と人との間にある秘義の最終的保証人」みたいな役職なんだよ。


      (作中でも、大赦院長は“沈黙し、病的な苦悩を漂わせる灰色の苦行者”と描かれてたでしょ。彼の役割の重み=“人の心の闇を引き受ける役目”がそこに出てるんだと思う。)

      🛡 スイス衛兵(Guardia Svizzera Pontificia)
      教皇の親衛隊兼儀仗兵。1506年にユリウス2世が創設。


      当時、スイス傭兵はヨーロッパで最強と評判 → 教皇も「最も忠実な護衛」として雇ったのが始まり。


      現在もバチカンで活動中。制服がカラフルで観光客に人気だよね(青・赤・黄色の縞模様、伝統的にはミケランジェロのデザインとされる)。


      任務は:


      教皇とアポストリック宮殿の護衛


      バチカン市国の出入り管理


      公式行事の儀仗(行列やミサのときに立ってる兵士たち)


      今でも本物の軍隊(武装もしてる)で、実際に危険があれば戦う準備はしている。


      隊員条件はわりと厳しくて:


      スイス市民(カトリック)


      未婚


      19~30歳


      身長174cm以上


      軍事訓練を修了していること


      教皇への忠誠を誓うこと



      つまり、
      大赦院長=魂の救済と秘跡に関する「法の番人」


      スイス衛兵=教皇の身体とバチカンの安全を守る「盾」


      ――と、精神と肉体、両面から教皇を守っているわけだね。

      削除

ローマ 第66回

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