2025年11月19日水曜日

ローマ 第142回

 数分が過ぎ、そして突然、オーケストラはポルカの途中で演奏をやめ、金管の全音量でもって王の行進曲を奏ではじめた。ダンサーたちは雪崩を打って散り、広間の中央が空いた。王と王妃が入場したのである。彼らは階段下まで出迎えに行っていたブオンジョバンニ公子と公女に付き添われていた。王はただのフロックコート姿、王妃は麦わら色のサテンのドレスに、見事な白のレースを重ねていた。そして、輝く宝石のティアラを美しい金髪に戴きながら、若々しい気品を保ち、円みのある生き生きとした顔は、親しみと優しさと機知に満ちていた。オーケストラは歓迎の熱狂をこめて、激しく演奏を続けていた。父母の後ろにはチェリアが姿を見せ、見物しようと集まった人々の波に交じっていた。そのあとにアッティリオ、サッコ家の人々、親族、公式の地位にある人物たちが続いた。王の行進曲が終わるのを待つあいだ、楽器の響きとランプの光の中、挨拶と言葉と微笑みだけが交わされていた。招待客たちは皆、立ったまま押し合いへし合いし、背伸びし、首を伸ばし、目を輝かせ、宝石のきらめく頭と肩が波のようにうねり上がっていた。

ついにオーケストラが静まり、紹介が行われた。陛下方はチェリアのことをすでによく知っており、たいへん温かい父親のような優しさで祝福した。しかしサッコは、父としてだけでなく大臣としても、自分の息子アッティリオを紹介することに一番こだわっていた。彼は小柄な体をしなやかに折り曲げ、ふさわしい美辞麗句を見つけたので、王の前でお辞儀をさせたのは中尉のほうであり、対して王妃には、自分が誰より愛しているあの美しい青年に敬意を表させるのだった。再び、陛下方はきわめて温和な態度を示し、つねに控えめで慎ましいサッコ夫人に対しても同様であった。

そしてその後、ある出来事が起こり、その噂はサロンからサロンへと広まり、終わりのない論評を呼ぶことになる。王妃は、かつてプラダ伯爵が結婚後に連れてきたベネデッタの姿を見つけ、その美しさと魅力に深い愛着を抱いていたので、彼女に微笑みかけたのである。そのため、ベネデッタは進み出ざるを得なくなり、数分間、最上級の親しみに満ちた言葉をかけられるという、特別の栄誉に浴した。その言葉は、近くにいた者すべてが聞き取れた。もちろん王妃は、その日の出来事──プラダとの婚姻の無効、ダリオとの結びつきがこの夜会で公然と発表されたこと──を知らなかったに違いない。しかし、与えられた印象は変わらなかった。これ以後、誰もが、最も貞淑で賢明な王妃がベネデッタに言葉をかけたことばかりを話題にし、その勝利はさらに高められた。彼女は一層美しく、誇らしげに、勝ち誇った様子になり、ついに選び取った夫と結ばれる幸福に輝いていた。

その時、プラダには言いようのない苦痛が襲っていた。君主たちが挨拶に訪れるご婦人方と話し、王が将校たちや外交官、重要人物の行列と話し続けているあいだ、プラダには、ベネデッタが祝福され、優しくもてはやされ、愛情と栄光のまっただなかに引き上げられていく姿しか見えなかった。ダリオはそのそばにいて、彼女と共に喜びを味わい、輝いていた。この夜会はあの二人のために開かれ、ランプは彼らのために輝き、オーケストラは彼らのために演奏し、ローマ中の美しい女性たちはそのために肌をさらし、胸元にはダイヤモンドが滴るように輝き、愛の強烈な香りが立ちこめている──すべてが彼らのためだったのである。王と王妃が王の行進曲に合わせて入場したのも彼らのため、祝宴が頂点に達したのも彼らのため、敬愛される王妃が微笑み、まるで青い童話に出てくる善き妖精のように、到来することで新生児の幸福を保証するかのような祝福を与えたのも、彼らの婚約のためだった。

そして、この特別に輝かしいひと時には、頂点の幸運と歓喜があり、かつて彼が美しさを独り占めしながら決して手に入れられなかったあの女の勝利があり、今まさに自分から彼女を奪おうとしているあの男の勝利があった。その勝利はこれほど公然と、これほど誇示され、これほど侮辱的で、まるで平手打ちのように彼の顔に焼けるように叩きつけられた。さらに、傷ついたのは彼の誇りと情欲だけではなかった。彼はサッコの栄光によって、自らの財産もまた打撃を受けていることを痛感したのだ。北国の荒々しい征服者たちですら、ローマの甘美な気候によって堕落するのだろうか──そんな倦怠と疲弊の感覚に、半ば食い尽くされたような感覚に、彼は襲われていた。その日、フラスカーティで建築の災難にまつわる話の中で、彼は自分の百万がきしむ音を聞いた。世間では彼の事業が悪化していると噂されており、本人はそれを認めようとしなかったが。そして今夜、この夜会のさなか、彼には南の力が勝ち、サッコが勝利しているように思えた。灼熱の太陽の下で貪欲に行われる、熱い利益の解体にあずかる生活者としてサッコは悠々と生きている。大臣であり、王の側近であるこのサッコは、息子の結婚によってローマ貴族の最高の家柄のひとつと結びつき、やがてローマとイタリアの支配者となる勢いであり、すでに今、金と民衆を両手でかき回している。このことがまた、肉食獣のような彼の虚栄心に、そしていつまでも飢え続ける快楽の欲望に、どれほどの打撃を与えたことか──まるで宴が終わる前に席から追い出されるかのような感覚だった。すべてが崩れ、すべてが手から逃げていき、サッコは彼の百万を奪い、ベネデッタは彼の肉を切り裂き、決して癒えることのない、あの満たされぬ欲望という忌まわしい傷を彼の内に残していったのだ。

そのとき、ピエールは再び、あの獣じみた低い唸り声、あの思わず漏れた絶望的なうなり声を聞いた。それは彼の心をすでに震撼させていた。彼は伯爵を見つめ、こう尋ねた。

「お苦しみですか?」

4 件のコメント:

  1. プラダの獣性が沸き上がってきたね。こりゃあ、自制心をかなぐり捨てて、ボッカネーラ家の連中を破滅に突き落としてやる~という流れになってきたよ。ゾラ的カタストロフ! 来るか!?

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    1. まさに来るぞ、そらさん。
      この章の空気はもう完全に「火薬庫に火がつく5秒前」だよ。
      プラダはもう精神の均衡がギリギリで、ちょっとした刺激で何をしでかすかわからない状態。ゾラがわざわざ 「獣のようなうめき」 を二回も書くのは、完全に「人間としての理性の殻が割れかけている」という暗号だからね。
      ■ プラダの心理はすでに“決壊寸前”
      ベネデッタの公的な勝利

      群衆と王妃による祝福

      そこにダリオが寄り添って輝いている

      さらにサッコの政治的成功

      自分の財産まで揺らぎはじめている


      プラダにとっては
      「全方位から自分が負けている景色」
      で、これが男のプライド型の人間には最悪の刺激。
      ■ ゾラは“破滅の瞬間”をじらすのが天才
      今まさに、
      「プラダが何か取り返しのつかないことをしそうな空気」
      が濃くなっていく場面。
      ゾラの悲劇構造では、こういう人物は
      堕ちるか

      堕とすか

      自分を撃つか
      のどれかに行くのが定番。

      しかも、プラダはすでに“毒イチジク伝説”の手紙まで書いた男。
      あれはもう、「破滅の想像が現実に侵食し始めた」兆候。
      そして今回のこの獣のうなり声。
      読者に「おい、やばいぞ」と知らせる鐘の音。
      ■ プラダがカタストロフを起こす条件
      もう1つ何かトリガーがあれば、
      ダリオに向かって襲いかかる

      ベネデッタを辱める

      サッコに政治的な罠を仕掛ける

      ボッカネーラ家の名誉をぶっ潰す手を打つ


      など、ゾラ的な破局行為がほぼ確実。
      ゾラの筆は、プラダをすでに「破局に向けて放たれた矢」にしている。
      ここから先は、ほんの些細な出来事が引き金になる。
      次の章は、読者としても心の準備がいるかもしれないよ。

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  2. 「イチジク食べるな危険」の手紙を破り捨てるんじゃないのかな。
    そして、読者は、ああ、ダリオとベネデッタは一転悲劇の主人公に!
    と思わせておいて、もうひと展開、何かありそうだね。

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    1. うむ、そらさん、まさに“ゾラ劇場のクライマックスへ一直線”という感じで、空気がピリピリしてきましたな。
      プラダの様子、もう完全に理性の皮膜が裂けて、奥底に沈んでいた本性が顔を出している段階です。嫉妬と屈辱と敗北感がぐつぐつ煮えたぎって、もはや「良識ある上流階級の男」の顔を保つのが限界。
      読んでいても、息の下で唸っている彼の描写があまりに生々しい。
      ■「イチジク食べるな危険」メモを破る未来、ありうる?
      十分ありえますね。
      あのメモは、プラダの最後の“人間らしさ”の名残りでした。
      しかし今、彼の心は
      得られない女への最後の悔恨

      若い恋人たちが公衆の面前で祝福される屈辱

      自分の没落を象徴するサッコの栄達


      しかもベネデッタとダリオは、彼が見る前で「王と王妃の祝福」まで受ける


      ……もう心の皮がズタズタすぎる。
      ここで“危険を知らせる側”に留まれるかというと――
      ねこじい的には「その可能性、急激に萎んできた」と読む。
      ゾラなら、読者に「ひぃ…!」と言わせるほど残酷な心理の転換を描いてくる。
      今のプラダの状態はまさにその瞬間に差し掛かっている。
      ■しかしゾラは必ず「読者の予測の少し斜め上」をつく作家
      つまり、
      「あ、これは悲劇一直線だ!」
      と思った瞬間に、必ず一ひねり入れてくる。
      プラダが手紙を破るとしても、
      その後が“ただの悲劇一直線”じゃ終わらない。
      何か――
      外側から起こる出来事
      予期せぬ介入
      ある人物の行動の誤算
      などが、読者の予測を反転させるでしょう。
      ゾラは決して「予定調和の悲劇」だけでは終わらせません。
      彼は人間社会の複雑な力学、偶然、欲望の交錯を一つに絡める達人。
      つまり、そらさんが感じているように、
      「悲劇に見えるところで、もう一段階捻ってくる」
      これは極めてゾラ的。
      ■今のプラダの心理:カタストロフ直前の獣
      プラダはすでに“自制心の柵の外側”へ半分足を踏み出している。
      自分の男としての価値が否定され

      社会的に負け、経済的にも追い詰められ

      奪われる、辱められる、置いていかれる…

      ゾラはこういうとき、人物に破滅願望を植え付けてくる。
      つまり、
      「自分が落ちるなら、一緒に落ちろ」
      という極端な心境。
      これが、そらさんの言う
      “ボッカネーラ家まるごと破滅に引きずり込む”
      予感に非常に近い。

      さてさて、次のページで何が動くのか――
      ゾラの筆がいよいよ火を噴くところですな。

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ローマ 第142回

 数分が過ぎ、そして突然、オーケストラはポルカの途中で演奏をやめ、金管の全音量でもって王の行進曲を奏ではじめた。ダンサーたちは雪崩を打って散り、広間の中央が空いた。王と王妃が入場したのである。彼らは階段下まで出迎えに行っていたブオンジョバンニ公子と公女に付き添われていた。王はただ...